名ばかり聖女はかぼちゃパンツ陛下をからかいたい!

ハラペコWASABI

文字の大きさ
2 / 27

2かぼ!かぼちゃパンツ陛下

しおりを挟む
 ランの話は長かった。記憶力が良いのか3年前の口喧嘩の内容まで丁寧にお話ししてくれた。

 纏めると、18歳と言う若さで国王になったアダムと、早く跡継ぎを作って欲しいアダムの祖母が対立。

 20歳になると祖母が公爵家のご令嬢と結婚させようと強硬手段に出てしまう。

 ついに大喧嘩に発展し「自分はまだ子供だから結婚なんて早い」と言ってしまい、優秀な魔法使いでもあった祖母に子供の姿にされてしまった。

 アダムは焦るどころかこれで暫く結婚しろと言われないと安堵したらしい。しかしその2日後、なんと祖母が心臓麻痺で急逝。

 魔法を掛けた本人が他界してしまったのだから解けると思いきや、魔法はまるで呪いのように強かった。

 できる事は全て試したが魔法は解けず、成長すらしていない。
 これは一大事だと思いつく方法は試し続け、他国の文献まで調査し、ようやく呪いを打ち消す奇跡の力を持つと言うコントラーバ国の聖女伝説に行きついた。

 早速コントラーバ王に連絡を取り確認したところ、今の平和なコントラーバには必要ないので出来るならそっちで召喚してもいいよ。と、軽く召喚方法を教えてくれたらしい。

 そうして本来コントラーバの聖女である私はマンドローレへと引き渡された。

「なるほど、それで私をマンドローレに召喚したと……」

「うちの陛下がすみません。なにぶん子供ですので大目に見て頂けませんでしょうか?」

 嘘くさい笑顔を見せたラン。分かりやすい作り笑顔だけど、たった今言ってましたよね?本当のアダムは25歳だって。
 でももう来てしまったものは仕方がない。

「元の世界に帰れます?」

「申し訳ないのですが帰る方法はないそうです。でも、歴代の聖女様達は喜んでコントラーバに骨を埋めたそうですよ」

 異世界だと分かった瞬間、心のどこかで予想は出来ていた。ランに詳しく聞くと、私は日本に最初から存在しなかった事になるので問題はないらしい。
 それを聞いて気がとても楽になった。
 
 格闘技の師範である父はあり得ないほど厳しく、私は幼い頃から男兄弟に囲まれ毎日稽古。

 友人さえも父親に値踏みされた学生時代。
 そしてついこの前、父のお弟子さんを紹介したいとお見合い写真を見せられ、有無を言わさず結婚させられそうな恐怖を感じていた。

 だから祖母からの結婚の勧めを拒んだアダムの気持ちがよく分かる。
 私も子供に戻って結婚から逃げられるなら子供になる方を選ぶわ。全く好きでも好みでもない人と一生添い遂げるなんて無理。

 ここにいれば働かなくても生活の保障もしてくれると言うし、今まで厳しかった分食っちゃ寝宮殿暮らしになると思えば悪くない。むしろ大出世。

 私は早速膝立ちになり、アダムに向き合った。
 青空にサファイアの輝きを散りばめたような美しい瞳から期待が伝わって来る。

 それにしても可愛い。可愛すぎるのよ。あまりの見た目の可愛さについ口元が緩んでしまう。

「やってみるね」

 そうは言ったものの、聖なる力の使い方とやらがサッパリ分からない。

 漫画で見るようにアダムの頭に手を差し出し、大人に戻れと念じてみたが何も起こらなかった。
 直接触れないとダメなのかもしれない。
 そう思い王冠を外し、アダムの頭にポンと手を乗せ力を入れる。

「痛い」

「あ、ごめんね、ちょっと痛かったね」

「なんだその言い方は。子供じゃないと言っているだろう」

「ごめんごめん」

 アダムは怒ったぞアピールをしたいのかぷうっと頬を膨らました。

 はうっ。何この中身25歳。可愛すぎる!普通の大人は頬を膨らませて怒りませんけど?何故そんなわざわざ可愛い顔を!

 心の中でツッコミを入れつつ、思わず頭を撫でる。これは可愛い子供を見た時の衝動のようなものである。

 輝く柔らかなホワイトブロンドの髪の毛は撫で心地も良く、何度も撫でているとミニ陛下は不満そうに口を結び瞳を光らせた。

「ちゃんと解こうとしてる?」

 バレた。

「してんだけどね。そもそもどうやったら解けるのか教えてほしいかな」

「どうやって?」

 ミニ陛下がギロリとランを見ると、ランは困ったように笑った。

「やだなぁ。私に分かる訳ないじゃないですか。聖女様じゃないと」

 ランの言葉にミニ陛下の視線がギロリと私に移る。

「そんな目で見られても私が知る訳ないじゃない」

 言い方が冷たかったのかミニ陛下の口元がへの字になり、拗ねたような表情を見せた。

 そんな可愛い顔をされても分からない物は仕方がない。
 が、わざわざ異世界の人間を呼び出すと言う事は、この世界には無い技術を使うからかもしれない。

 そう考えると、古来から童話やアニメで大人になったり子供になったりするアイテムと言えば怪しい液体や飴が定番だ。

 それが今日は私の上着のポケットに同僚から貰った苺味の飴が入っている。

 普段は貰ってすぐ食べる飴も、聖女であるが故この国に召喚される事を見越し、食べずにポケットに入れていた可能性がある!

 これがキーアイテムに違いない。これでアダムは大人に戻って私は食っちゃ寝暮らし。

「きっとこれだわ!食べてみて」

「ほう」

 大人に戻れと念を込めてから飴を差し出すと、アダムは緊張した面持ちで封を開け、慎重に飴を口に入れた。
 ゆっくりと飴を舐める様子をランと2人で見守る。

「美味ちい」

 飴のせいで舌を噛んだのか赤ちゃん言葉になったアダム。これは母性本能がくすぐられる。

「はぁっ、可愛い!可愛すぎるっ、我慢できん!」

 本能の赴くまま、わしゃわしゃと頭を撫でると、アダムは両手で頭を庇い抵抗した。

「やっ、止めろ!何するんだ」

 必死に抵抗する表情が可愛くてまたキュンとしてしまう。

「だって可愛すぎて」

「可愛いと言うな!しかも全然元の姿に戻らないとはどう言う事だ!」

それだよね。

「もしかしたらと思ったんだけど違ったみたいね。怪しい液体でも作ってみるか……」

「怪しい液体だと?!僕に何を飲ませるつもりだっ」

「トカゲが定番じゃない?適当にそれっぽい怪しい液体を……」

「トカゲ?適当っ?!」

「冗談よ」

 こうして押し問答が続き「全魔力と引き換えに召喚したのに力が使えないなんて詐欺だっ、僕の魔力を返せ!」となった訳で。

 お互い罵り合い、かぼちゃパンツ陛下と名ばかり聖女と言う名称が出来上がってしまったのだった。

「ねぇかぼパン、私は本当に聖女なの?」

「略すな、この名ばかり聖女!僕も今疑っている」

「じゃあ、ラン!私の名前を知っていたけど間違えてない?同姓同名の他人じゃない?私は本当に聖女なの?」

「多分……」

 白百合の君のなんとも歯切れの悪い答えに私もミニ陛下もポカンと口を開けるしか無かった。

「多分かーい……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...