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11かぼ!折り紙あそび
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「名ばかり、今日も来たのか」
「うん。そろそろ休憩でしょ?遊びに来た」
「暇なら僕を大人に戻す方法でも考えてくれ」
「可愛いから戻らなくてもいいんじゃない?」
本音を言うと苦虫を潰したような顔でブツブツ小言を言い始めた。
でも執務室に来た事自体は怒らない。何気に優しいんだよね。
「仕事の手伝いでもしようか?書類整理は得意だよ」
「結構だ。そこまで困っていない。それに名ばかりには他に役目があるだろう」
そう簡単に大人に戻る方法を考えろと言われても……そういえばこの前、ランが「舌も子供に戻ったのか幼い頃苦手だったピーマンを避けるようになったんですよ」って言ってたな。
せっせとピーマンを避けるかぼパン、可愛い!これはからかうしかないでしょ!
「私達の世界で大人になると言えばピーマンを美味しく食べられるようになる事なんだけど」
「それは身体が大人に戻るわけじゃないだろう?却下だ」
フンッと跳ね除けたかぼパン。散々ピーマンの事を言われているのか慣れた返しだ。
「子供舌に戻ってるんだってね」
「それが何か?」
「もうご飯はミルクにしたら?哺乳瓶に入れて……ふぁぁ!想像しただけで奇跡の様に可愛い!」
「するかぁぁあ!まったく名ばかりは……」
「そう言いつつ、かぼパンって何気に優しいよね」
「何だ急に!僕を褒めるなんて恐怖だ」
私達のやり取りを見て、ランを筆頭に家臣全員が微笑むのが最近の執務室の風景。
年配家臣達の、孫でも見ているかの様な瞳。
もし大人に戻るのが無理なら、せめて心健やかに育っていただきたい。
私はそっとカバンから折り紙を取り出す。
召喚されたあの日、千羽鶴を作るために会社で渡され、たまたまカバンに入っていた折り紙。これも私が聖女だからゆえ、この世界で子育てをする事になる事を見越し……
「折り紙教えてあげる!」
「折り紙?」
教えるとは言ったものの、母は私が幼い頃に家を出て行き、男家族の中で育った為折り紙はあまりやった事がない。
だから折り紙に入っていた鶴の折り方を見ながら教えたんだけど……
「ははっ!名ばかりは下手だなぁ」
「ははは……認めるわ」
「みろ、僕の鶴を!」
細部に渡ってきっちり折られたかぼパンの折り鶴は、私のしなびた鶴とは大違い。一言で言うと、ご立派。
「初めてで師匠を超えるとは……」
「誰が師匠だ。下手くそな師匠なぞいらん」
毒付くかぼパンも可愛いのは何でなの。
ご立派な鶴に家臣たちも口々に褒め言葉を口にする。ランも「本当にお上手ですね」と微笑んでいる。
皆に褒められますます気を良くしたかぼパンはマシューを呼び、コソコソと耳打した。
マシューが鶴に向かいボソボソ呪文を唱えると、もくもくと魔力の霧が包みボンと音を立て折り鶴が大きくなった。
ちょうどかぼパンが乗れるくらいの大きさである。
まさかこれは……
私とランは目を合わせ頷く。ランがすぐに他の家臣——愛でる会のメンバーに指示を出し、にわかに慌ただしくなる。
慌てる私達をよそにかぼパンは嬉しそうに折り鶴に乗った。
表現出来ないこの可愛さ。ああっ、尊い!
「マシュー、頼むぞ」
「お任せください!」
マシューの指先から出た魔力が折り鶴に吸い込まれ浮き上がる。
満面の笑みを見せるかぼパンは最上級に可愛い。見守る皆も超笑顔。
あまりの可愛さに悶え死にしそう。折り鶴に魔法を掛けて飛ぶなんて、発想まで可愛すぎるのよ!
「マシュー、もっと上だ!皆より高くしてくれ!」
「はいー」
勢いよく私達の頭上まで浮かび上がった鶴は、くるくると旋回する。
「はっはー!これはいいな!毎日これで移動するか」
「申し訳ございません、かなり魔力を消費しますので、続けて5分が限界です」
「わかっている、冗談だ!」
かぼパンが冗談を言ってしまうほど楽しんでいる。この尊い瞬間を我々愛でる会が放っておくわけがない。
手配したカメラマンがやって来て脚立に立つとシャッターを連写。いいぞ、もっとやれ!
「そこ!何故写真を撮っているんだっ!」
カメラマンに気付き気を取られた瞬間、バランスを崩し、かぼパンの身体は鶴から落下。
私は全力で飛び上がり、かぼパンをしっかりキャッチ。ぎゅっと抱き抱え守りながら壁にぶつかった。
ドンと音を立て衝撃を受ける身体。
「おい、大丈夫か名ばかり!ラン、医者を呼べ!」
腕の中から聞こえてくる心配そうな声。
「大丈夫、ちゃんと受け身取ったから医者はいらないよ」
「受け身?」
「そんな事よりかぼパンは大丈夫?怪我はない?」
「僕は大丈夫だ。助けてくれてありがたいがマシューがいるんだから無茶をするな」
「そんな事言われても黙って見てるなんてできないよ。かぼパンに何かあったらどうするの?大事な身体なんだよ」
「名ばかり……」
頬を染め、感動したように瞳を潤ませたかぼパンをしっかり見つめて微笑んだ。
「子供は大人が守らないとね」
「そーだよ、名ばかりはそう言う奴だ!」
「そんな事言って良いのかな?今自分がどこにいるか分かってる?」
私の腕の一言で冷静になったのか一気に顔が赤く染まる。
「うわぁぁあ!おろせぇぇぇ」
「下ろすわけないよねー」
「くそおぉぉ」
真っ赤な顔で悔しがる可愛さがたまらないっ!
この可愛さ、このままでいてほしいと思ってしまうけど、いつかは必ず大人に戻ると思う。後継が欲しかったお祖母様だもん。
後継を作ろうとしたり、結婚が決まったら大人に戻ったりするんじゃなかろうか?と思っている。
古来よりお伽話などでキスをしたら本当の姿に戻る物語は数多く存在するし。
だから今、思う存分可愛がっておこう。
「うん。そろそろ休憩でしょ?遊びに来た」
「暇なら僕を大人に戻す方法でも考えてくれ」
「可愛いから戻らなくてもいいんじゃない?」
本音を言うと苦虫を潰したような顔でブツブツ小言を言い始めた。
でも執務室に来た事自体は怒らない。何気に優しいんだよね。
「仕事の手伝いでもしようか?書類整理は得意だよ」
「結構だ。そこまで困っていない。それに名ばかりには他に役目があるだろう」
そう簡単に大人に戻る方法を考えろと言われても……そういえばこの前、ランが「舌も子供に戻ったのか幼い頃苦手だったピーマンを避けるようになったんですよ」って言ってたな。
せっせとピーマンを避けるかぼパン、可愛い!これはからかうしかないでしょ!
「私達の世界で大人になると言えばピーマンを美味しく食べられるようになる事なんだけど」
「それは身体が大人に戻るわけじゃないだろう?却下だ」
フンッと跳ね除けたかぼパン。散々ピーマンの事を言われているのか慣れた返しだ。
「子供舌に戻ってるんだってね」
「それが何か?」
「もうご飯はミルクにしたら?哺乳瓶に入れて……ふぁぁ!想像しただけで奇跡の様に可愛い!」
「するかぁぁあ!まったく名ばかりは……」
「そう言いつつ、かぼパンって何気に優しいよね」
「何だ急に!僕を褒めるなんて恐怖だ」
私達のやり取りを見て、ランを筆頭に家臣全員が微笑むのが最近の執務室の風景。
年配家臣達の、孫でも見ているかの様な瞳。
もし大人に戻るのが無理なら、せめて心健やかに育っていただきたい。
私はそっとカバンから折り紙を取り出す。
召喚されたあの日、千羽鶴を作るために会社で渡され、たまたまカバンに入っていた折り紙。これも私が聖女だからゆえ、この世界で子育てをする事になる事を見越し……
「折り紙教えてあげる!」
「折り紙?」
教えるとは言ったものの、母は私が幼い頃に家を出て行き、男家族の中で育った為折り紙はあまりやった事がない。
だから折り紙に入っていた鶴の折り方を見ながら教えたんだけど……
「ははっ!名ばかりは下手だなぁ」
「ははは……認めるわ」
「みろ、僕の鶴を!」
細部に渡ってきっちり折られたかぼパンの折り鶴は、私のしなびた鶴とは大違い。一言で言うと、ご立派。
「初めてで師匠を超えるとは……」
「誰が師匠だ。下手くそな師匠なぞいらん」
毒付くかぼパンも可愛いのは何でなの。
ご立派な鶴に家臣たちも口々に褒め言葉を口にする。ランも「本当にお上手ですね」と微笑んでいる。
皆に褒められますます気を良くしたかぼパンはマシューを呼び、コソコソと耳打した。
マシューが鶴に向かいボソボソ呪文を唱えると、もくもくと魔力の霧が包みボンと音を立て折り鶴が大きくなった。
ちょうどかぼパンが乗れるくらいの大きさである。
まさかこれは……
私とランは目を合わせ頷く。ランがすぐに他の家臣——愛でる会のメンバーに指示を出し、にわかに慌ただしくなる。
慌てる私達をよそにかぼパンは嬉しそうに折り鶴に乗った。
表現出来ないこの可愛さ。ああっ、尊い!
「マシュー、頼むぞ」
「お任せください!」
マシューの指先から出た魔力が折り鶴に吸い込まれ浮き上がる。
満面の笑みを見せるかぼパンは最上級に可愛い。見守る皆も超笑顔。
あまりの可愛さに悶え死にしそう。折り鶴に魔法を掛けて飛ぶなんて、発想まで可愛すぎるのよ!
「マシュー、もっと上だ!皆より高くしてくれ!」
「はいー」
勢いよく私達の頭上まで浮かび上がった鶴は、くるくると旋回する。
「はっはー!これはいいな!毎日これで移動するか」
「申し訳ございません、かなり魔力を消費しますので、続けて5分が限界です」
「わかっている、冗談だ!」
かぼパンが冗談を言ってしまうほど楽しんでいる。この尊い瞬間を我々愛でる会が放っておくわけがない。
手配したカメラマンがやって来て脚立に立つとシャッターを連写。いいぞ、もっとやれ!
「そこ!何故写真を撮っているんだっ!」
カメラマンに気付き気を取られた瞬間、バランスを崩し、かぼパンの身体は鶴から落下。
私は全力で飛び上がり、かぼパンをしっかりキャッチ。ぎゅっと抱き抱え守りながら壁にぶつかった。
ドンと音を立て衝撃を受ける身体。
「おい、大丈夫か名ばかり!ラン、医者を呼べ!」
腕の中から聞こえてくる心配そうな声。
「大丈夫、ちゃんと受け身取ったから医者はいらないよ」
「受け身?」
「そんな事よりかぼパンは大丈夫?怪我はない?」
「僕は大丈夫だ。助けてくれてありがたいがマシューがいるんだから無茶をするな」
「そんな事言われても黙って見てるなんてできないよ。かぼパンに何かあったらどうするの?大事な身体なんだよ」
「名ばかり……」
頬を染め、感動したように瞳を潤ませたかぼパンをしっかり見つめて微笑んだ。
「子供は大人が守らないとね」
「そーだよ、名ばかりはそう言う奴だ!」
「そんな事言って良いのかな?今自分がどこにいるか分かってる?」
私の腕の一言で冷静になったのか一気に顔が赤く染まる。
「うわぁぁあ!おろせぇぇぇ」
「下ろすわけないよねー」
「くそおぉぉ」
真っ赤な顔で悔しがる可愛さがたまらないっ!
この可愛さ、このままでいてほしいと思ってしまうけど、いつかは必ず大人に戻ると思う。後継が欲しかったお祖母様だもん。
後継を作ろうとしたり、結婚が決まったら大人に戻ったりするんじゃなかろうか?と思っている。
古来よりお伽話などでキスをしたら本当の姿に戻る物語は数多く存在するし。
だから今、思う存分可愛がっておこう。
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