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20かぼ!魔法のステッキ

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「危ないっ!」

 私は慌てて床に向かって短いスライディング。かぼパンの頭が床にぶつかる直前にしっかりとキャッチした。

「頭ゴンする前で良かった~!かぼパン大丈夫?」

 慌てて抱きあげると目には涙が溜まっていた。切ない表情に母性本能がきゅんきゅん。これは……慰めたいっ!

「怖かったねー。ほら、大丈夫だよ。ゴンしてないから痛くないよ~」

 私があやすように言うと、かぼパンは口をへの字にして涙を堪えるような顔をした。

 ああ、可愛いいっ!この顔好き過ぎる!

「ヨシヨシ、いい子いい子」

 慰めるていると、ランとリュストまで泣きそうな子供をあやすように顔を覗き込み、優しい顔を見せた。

「陛下、安心して下さい。私達がついていますから」

「陛下はびっくりしたんですね?でも大丈夫!ママが助けてくれましたよー!」

 私達の必死の慰めに目頭を押さえ、クゥッと声を漏らしたかぼパン。

「誰がママだ!名ばかりと親子なんてありえない!」
 
「ショック!」

「何がショックだ!僕を子供扱いした罰だ!今日は3人ともこのまま僕が大人に戻る方法を考えてくれっ!」

 涙を拭い、大きな声を上げたかぼパン。
 リュストまで巻き込まれてしまったけど、こう言うモードになった時のかぼパンは何か試さないと気が済まないのだ。

「これは遊びに行けないパターンだけどいい?」

「いいよ!ナナと一緒にいるだけで楽しいし陛下を大人に戻す案を出すなんて楽しそうだよ」

 リュストは笑顔を見せ、うーん。と考えすぐにハイッと手を上げた。

「結婚する」

 さすがリュストだ。言葉は足りないがすぐに私と同じような考えに行き着いたのだろう。

「リュスト、僕は真剣なんだが……」

「いいえ、かぼパン。実は私も似たような考えを持っているの。後継が欲しかったお祖母様だもの。結婚したら解けるんじゃないかって」

 シリアス顔でハッと息を飲んだかぼパンもまた可愛すぎ。

「お祖母様の事だ。確かに無いとは言い切れないな……だが結婚すると言っても……」

 考え込んでしまったかぼパン。
 結婚するとは言っても、正直子供と結婚したがる人はいないだろう。

「試しに私と結婚してみる?」

 提案すると、かぼパンは真っ赤になり息を止め固まった。

「な、な、な、名ばかりと?」

 激しく動揺している。これは補足をした方が良いかも。

「結婚してみて、大人に戻っても戻らなくてもすぐ離婚すれば良いじゃない!お試しだよ、大人に戻ったらラッキー!」

 再び固まったかぼパン。考えを巡らせているのだろう。

「僕は絶対お試し結婚なんかしないぞ!」

「そっかぁ。じゃあその案は保留で!あと思い当たるのはあれかな~」

 実は鞄の底から、親戚の子供の誕生日に贈ろうとしていた玩具の魔法のステッキ出て来たのだ。

 購入し、家に置いたと思っていたが置き忘れ持ち歩いていた。これも全て……

 可能性は……ある!

 早速ステッキの話をしようと思ったが、かぼパンは両手で頭を抱え悶えていた。
 お試し結婚で葛藤しているのかもしれない。

「結婚はお試しじゃなくて本当にしたい人としてみるのもいいかも知れないよ。ランとか?」

 アドバイスを送ると早速ランが反応した。

「奈那様?」

 笑顔だが物凄い圧力を感じる。おでこに怒りマークを描いたら丁度良さそうな雰囲気。

「あは~、冗談」

 ふうっとため息を吐いたランだったが、何か思いついたように瞳を広げ私を見た。こう言う顔の時は私に何か伝えたい時だ。

「陛下と結婚するのも良いかもしれませんね。そうすれば一生可愛い陛下のお側にいられますから」

 ハアッ!これは頭を殴られたような衝撃。
 言われたらそうだ。何故今までその考えに至らなかったのか。

 かぼパンのそばにずっといたいなら、かぼパンと結婚すれば良い。
 さすが副会長ラン

「あ!じゃあお試しじゃなくて私がかぼパンと結婚しようかな!一生側にいられるし」

「ハアッ!」

 ハッキリと聞こえるくらい息を飲んだかぼパン。顔を真っ赤にして狼狽えている。いや、ワタワタ慌てふためいている?
 どちらにしろこの狼狽えっぷりはヤバイ。
 普段から私にガサツだの小言を言ってくるかぼパンだもん。大人に戻りたいけど私とじゃ嫌!みたいな?葛藤しているのかも。無理矢理じゃリーリンと同じになっちゃう。

「……と思ったけどやっぱやめとこうかな!大人に戻らなかったら子作り出来ないし!」

「こ、子作り!」

 何故かかぼパンもリュストもランも叫んだ。かぼパンなんか真っ赤になり過ぎて発火しそう。
 驚いていた3人だったがランがふむ。と頷いた。

「でも結婚すると現実的にそう言う問題は出てきますね」

「でしょう?ランも一緒に結婚してくれるならいいけど!あはははは!」

 勿論冗談だ。

「一緒になら良いですよ。3人で結婚しましょうか」

 ランもにこやかに冗談で返してくる。

「あはははは!じゃあ3人で結婚しよう!」

「ダメに決まってるだろおおおお!」

 素直なかぼパンが本気で叫び、結婚話は塵と消えた。

 と言うわけで。

「魔法のステッキだと?」

 私は鞄からプレゼント包装されたステッキを取り出した。

 ピンクのリボンが付いてとても可愛い。
 そのままかぼパンに渡す。

 ああ、ピンクのリボンがよく似合う。

「ピンクのリボンが似合って可愛い~!」

 褒め称えると、フンっと包装を剥き始める。

 だがかぼパンは知らない。魔法のステッキにも取れないリボンが付いている事をっ!

「……こんな、リボンや星が沢山ついた物が魔法のステッキなのか……」

 疑わしい目で見つめるかぼパンだが、小さな手で可愛いステッキを握る姿は可愛い×可愛いで極上可愛いっ!

「うぁぁあ!可愛いっ!」

「分かります」

「本当だねー」

 リュストにもかぼパンの可愛さを味わってもらったところで、私はステッキのスイッチを押した。

「ッ?!光ったぞ!」

 息を飲み、驚いたように瞳を輝かせたかぼパン。お試し用電池が入っていて良かった。

「魔法のステッキだからね!光るようになってるの」

「ほう!」

「しかもこの光が魔力を作り出し、増幅させると言う設定なの。私たちの世界では魔力のない子達がこれを使うのよ」

「ほほう!魔力がなくても使えるとは!それは期待できるな!」

 意気揚々と振ったかぼパン。

 ああ、可愛いー!和む~!

「はい、呪文を唱えて~」

「クリクルパラポン!クリクルパラポン!」

「大きく振って~!」

 かぼパンは私の指示に従いステッキを左右に大きく振っている。あああ、可愛い!

「かかんで小さく振って~!はい、次は大きく伸びてぇ、お空に向かってぇ~クリクルパラポン!」

「ちょっと待て名ばかり、この作法は本当に必要なのか?僕にやらせたいだけじゃないか?」

 バレた。

 プンプンしながら普通に試したがやはりというか戻らず……

 リュストが面白がってくるくるとステッキを振る。

「僕は魔力が少ないからほぼ魔法が使えないんですよね~!クリクルパラポン!クリクルパラポン!大人になーれー!なんてね!はは」

 冗談でかぼパンとランに向かって魔法のステッキを振ったリュスト。

 ボンと魔力の霧が2人を包み込んだ。

「えーっ!」

 度肝を抜かれて叫ぶ私とリュスト。霧がサッと晴れると残念ながらかぼパンはそのままだったが、ランがおじさんになっていた。渋いっ!

「うわあー!」

 誰のものか分からない叫びが響き渡る。全員が叫んだから。

「早く元に戻して下さい!」

 ゴツくなった自分の手を見ながら叫ぶラン。

「大丈夫、イケオジだから鏡見てからにしなよ」

「あ、僕鏡持ってきますよ!」

「イケオジッ?」

「あはは!ラン、大人になれて羨ましいぞ!一気に老けたな!あはははは!」

 かぼパンがケタケタと楽しそうに笑う。
 元に戻れなかったけど、かぼパンは楽しそうだからいっか。
 この笑顔、尊い。

 それにしてもこの魔法のステッキ、本物だったのね!
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