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後編【ディーク視点】
⑥
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霞みがかった空に魔界の太陽、白い月が昇る頃、大量に注ぎ込まれた精液を蜜口から垂らし、眠るように意識を手放したミレイユを胸に抱き、ディークはハルト公爵との会話を思い出していた。
――――、やはり母は生きている。
我が『父と母は健在か?』と、ハルト公爵に問うた時、彼は何の疑問も顔に浮かべてはいなかった。覚醒魔王へと至ってから数ヶ月、城の奥深くに封印されし禁書、歴代魔王とその伴侶について調べ上げた結果、わかったことがあった。魔王には、次期魔王を孕む器となる伴侶が必要なことを。しかし、その伴侶には過酷な運命が待ち受けていた。
魔王の精液を取り込み、その強すぎる媚薬効果に狂っていった者。
赤子を孕むも、赤子への魔力授受の過度な負担により、死んでしまった者。
運よく赤子を産み落としたとしても、大抵の者はそこで力つき命を落とす。
大昔には、オーク族以外の伴侶を持った魔王もいた。しかし、禁書を調べれば調べるほど、オーク族の女以外で次期魔王を孕み、無事に出産まで漕ぎつけた伴侶はいなかった。
あの強靭な肉体がなければ、数年にも渡る妊娠期間を耐えうることは無理なのだろう。
『オークの花嫁』に課せられた過酷な運命。そんなものにミレイユを巻き込みたくない。そう思う一方で、ミレイユを犯して、己のモノにしたいという欲望が日に日に増していく。このままでは、欲望のままにミレイユを犯してしまう。そんな恐怖心と戦いながらも、護衛騎士としてミレイユが側に居続けてくれるのなら、それで良いと思っていた。この想いは封印し、伝えるつもりなどなかった。
我の花嫁になるということは、ミレイユの死を意味する。そんな過酷な運命、愛する彼女に背負わせたくはない。だからこそ、彼女への愛は封印すると心に誓った。
ミレイユが我の元から消えるまでは――――
戴冠式を明日に控えた運命の日。我の元から姿を消したミレイユに、己の中に閉じ込めていた欲望が溢れ出した。
このまま失うくらいなら、奪ってしまえばいい。
己の精をミレイユの胎内へ放たなければいい。さすれば、次期魔王を孕む器とはならない。
やりようはいくらでもある。
ミレイユを捕らえよ。
誰の目にも触れぬところへ囲ってしまえ。
さすれば、ミレイユは私だけのものになる。
私の中の悪が囁く。
その声に導かれるように、ハルト公爵からの伝令蝶が私の元へと届けられた。
ハルト公爵がオークの里へと向かったミレイユに持たせた伝令蝙蝠を使い彼女の元へと転移した。まさか、あの場面で『未来永劫の誓い』を持ち出すとは思っていなかった。
それ程までに、ミレイユは私の側にいる事が苦痛だったのかと、絶望した。
ミレイユは、私を弟のように大切に思ってくれていたのではなかったのか。
恋心はなくとも、家族に対するような親愛の情は抱いてくれていたのではないのか。
あの誓いを持ち出されるまで抱いていた望みは、見事に砕け散った。
己の中に残っていたわずかな良心がガラガラと崩れ落ちていく。
我の精をミレイユに注げば、彼女の身体は本人の意思とは関係なく器としての変化を始める。ミレイユの気持ちが我にあろうがなかろうが、彼女は本能のままに我の精を欲しがるようになる。
ミレイユは、我から絶対に離れる事は出来ない。
それは、仄暗い喜びの火を心に灯した。
ミレイユの意識を奪い、魔王城の奥深く、誰の目にも触れぬ禁域へと監禁した。
あとは、彼女を身体から堕として行けばいい。
彼女の気持ちを無視し身体を繋げば、ミレイユの心は一生手に入らない。
それでも良かった。ミレイユさえ側にいてくれるのであれば、自分の気持ちが受け入れられなくとも構わない。
心をジクジクと痛ませる焦燥感を無視し、捕らえたミレイユを追いつめた。
しかし、予想外の事が起きた。まさか、ミレイユが自分の気持ちに応えてくれるとは思っていなかった。
だからこそ、怖くなった。
欲望のまま、ミレイユを犯せば、彼女の未来に待ち受けるのは死だ。
彼女が想いを受け入れてくれたからこそ感じる恐怖心。今度こそミレイユを失えば、私は狂ってしまう。全てを恨み、全てを憎み、そして滅ぼすだろう。
『花嫁にして』と言われたからこそ己の中に迷いが生まれた。このまま『オークの花嫁』に待ち受ける運命をミレイユに伝えずに、彼女を奪ってもいいのか。それは、自分の気持ちに応えてくれた彼女の純粋な想いまで汚すことになるのではないか。
『オークの花嫁』の真実を伝えれば、今度こそ、ミレイユは自分の前からいなくなる。
もう、彼女には会えない。
絶望が満ちる心に蓋をして、ミレイユに『オークの花嫁』の真実を伝えた。
母は生きている。
その事実が、わずかな希望を私に与えてくれる。
必ず、ミレイユの命を守る方法があるはずだ。
新たな希望を胸に傍らで眠るミレイユを抱き寄せる。今は、私の精を胎内へと受け入れ、魔力が安定している。しばらくは、狂うほどの渇望に苛まれることはないだろう。
あとは、父を探し出し、母を生かした方法を聞き出さねばならない。ただ、一筋縄ではいかぬであろう。
己の欲を満たすためだけに、息子の愛する人の命を危険にさらすような無慈悲な父だ。世界が滅びようが、己が支配する魔界が滅びようが、息子が死のうが、興味がないのだろう。
『オークの花嫁』を生かす方法を教えろと言って、教えるとは到底思えない。
己が欲にのみ忠実に生きる種族。それが魔王というものだ。だからこそ、魔王の伴侶は、あの一文を残したのかもしれない。愛する者を失う未来を背負わねばならぬ息子を守るために。
禁書に書かれていた一文を思い出す。
『どうかあきらめないで。貴方の愛する人の命をあきらめないで……』
いつの時代、誰によって書かれたメッセージなのかもわからない。
ただ、一つだけ言えることは、あのメッセージを残したのが、『オークの花嫁』だと言うことだ。
だからこそ、まだ望みはある。
――――、ミレイユは絶対に死なせない。
固い決意を胸に、傍で眠る愛しい人へと誓いの口付けをおとした。
――――、やはり母は生きている。
我が『父と母は健在か?』と、ハルト公爵に問うた時、彼は何の疑問も顔に浮かべてはいなかった。覚醒魔王へと至ってから数ヶ月、城の奥深くに封印されし禁書、歴代魔王とその伴侶について調べ上げた結果、わかったことがあった。魔王には、次期魔王を孕む器となる伴侶が必要なことを。しかし、その伴侶には過酷な運命が待ち受けていた。
魔王の精液を取り込み、その強すぎる媚薬効果に狂っていった者。
赤子を孕むも、赤子への魔力授受の過度な負担により、死んでしまった者。
運よく赤子を産み落としたとしても、大抵の者はそこで力つき命を落とす。
大昔には、オーク族以外の伴侶を持った魔王もいた。しかし、禁書を調べれば調べるほど、オーク族の女以外で次期魔王を孕み、無事に出産まで漕ぎつけた伴侶はいなかった。
あの強靭な肉体がなければ、数年にも渡る妊娠期間を耐えうることは無理なのだろう。
『オークの花嫁』に課せられた過酷な運命。そんなものにミレイユを巻き込みたくない。そう思う一方で、ミレイユを犯して、己のモノにしたいという欲望が日に日に増していく。このままでは、欲望のままにミレイユを犯してしまう。そんな恐怖心と戦いながらも、護衛騎士としてミレイユが側に居続けてくれるのなら、それで良いと思っていた。この想いは封印し、伝えるつもりなどなかった。
我の花嫁になるということは、ミレイユの死を意味する。そんな過酷な運命、愛する彼女に背負わせたくはない。だからこそ、彼女への愛は封印すると心に誓った。
ミレイユが我の元から消えるまでは――――
戴冠式を明日に控えた運命の日。我の元から姿を消したミレイユに、己の中に閉じ込めていた欲望が溢れ出した。
このまま失うくらいなら、奪ってしまえばいい。
己の精をミレイユの胎内へ放たなければいい。さすれば、次期魔王を孕む器とはならない。
やりようはいくらでもある。
ミレイユを捕らえよ。
誰の目にも触れぬところへ囲ってしまえ。
さすれば、ミレイユは私だけのものになる。
私の中の悪が囁く。
その声に導かれるように、ハルト公爵からの伝令蝶が私の元へと届けられた。
ハルト公爵がオークの里へと向かったミレイユに持たせた伝令蝙蝠を使い彼女の元へと転移した。まさか、あの場面で『未来永劫の誓い』を持ち出すとは思っていなかった。
それ程までに、ミレイユは私の側にいる事が苦痛だったのかと、絶望した。
ミレイユは、私を弟のように大切に思ってくれていたのではなかったのか。
恋心はなくとも、家族に対するような親愛の情は抱いてくれていたのではないのか。
あの誓いを持ち出されるまで抱いていた望みは、見事に砕け散った。
己の中に残っていたわずかな良心がガラガラと崩れ落ちていく。
我の精をミレイユに注げば、彼女の身体は本人の意思とは関係なく器としての変化を始める。ミレイユの気持ちが我にあろうがなかろうが、彼女は本能のままに我の精を欲しがるようになる。
ミレイユは、我から絶対に離れる事は出来ない。
それは、仄暗い喜びの火を心に灯した。
ミレイユの意識を奪い、魔王城の奥深く、誰の目にも触れぬ禁域へと監禁した。
あとは、彼女を身体から堕として行けばいい。
彼女の気持ちを無視し身体を繋げば、ミレイユの心は一生手に入らない。
それでも良かった。ミレイユさえ側にいてくれるのであれば、自分の気持ちが受け入れられなくとも構わない。
心をジクジクと痛ませる焦燥感を無視し、捕らえたミレイユを追いつめた。
しかし、予想外の事が起きた。まさか、ミレイユが自分の気持ちに応えてくれるとは思っていなかった。
だからこそ、怖くなった。
欲望のまま、ミレイユを犯せば、彼女の未来に待ち受けるのは死だ。
彼女が想いを受け入れてくれたからこそ感じる恐怖心。今度こそミレイユを失えば、私は狂ってしまう。全てを恨み、全てを憎み、そして滅ぼすだろう。
『花嫁にして』と言われたからこそ己の中に迷いが生まれた。このまま『オークの花嫁』に待ち受ける運命をミレイユに伝えずに、彼女を奪ってもいいのか。それは、自分の気持ちに応えてくれた彼女の純粋な想いまで汚すことになるのではないか。
『オークの花嫁』の真実を伝えれば、今度こそ、ミレイユは自分の前からいなくなる。
もう、彼女には会えない。
絶望が満ちる心に蓋をして、ミレイユに『オークの花嫁』の真実を伝えた。
母は生きている。
その事実が、わずかな希望を私に与えてくれる。
必ず、ミレイユの命を守る方法があるはずだ。
新たな希望を胸に傍らで眠るミレイユを抱き寄せる。今は、私の精を胎内へと受け入れ、魔力が安定している。しばらくは、狂うほどの渇望に苛まれることはないだろう。
あとは、父を探し出し、母を生かした方法を聞き出さねばならない。ただ、一筋縄ではいかぬであろう。
己の欲を満たすためだけに、息子の愛する人の命を危険にさらすような無慈悲な父だ。世界が滅びようが、己が支配する魔界が滅びようが、息子が死のうが、興味がないのだろう。
『オークの花嫁』を生かす方法を教えろと言って、教えるとは到底思えない。
己が欲にのみ忠実に生きる種族。それが魔王というものだ。だからこそ、魔王の伴侶は、あの一文を残したのかもしれない。愛する者を失う未来を背負わねばならぬ息子を守るために。
禁書に書かれていた一文を思い出す。
『どうかあきらめないで。貴方の愛する人の命をあきらめないで……』
いつの時代、誰によって書かれたメッセージなのかもわからない。
ただ、一つだけ言えることは、あのメッセージを残したのが、『オークの花嫁』だと言うことだ。
だからこそ、まだ望みはある。
――――、ミレイユは絶対に死なせない。
固い決意を胸に、傍で眠る愛しい人へと誓いの口付けをおとした。
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