【R18】わたしが悪女をやめた理由〜欲望を宿し瞳に囚われて

湊未来

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欲望を喰らう花、精果草 ②

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「えっ!? ……ちょっ……なに……」

 自分の置かれている状況が理解できない。
 熱に浮かされたように赤い顔をして、『はぁ……、はぁ……』と荒い呼吸を繰り返す男に見下ろされている状況に思考が追いつかない。抵抗らしい抵抗もできずシーツへと縫い付けられた両手が、レベッカの恐怖心を煽る。見上げた男の深い藍色の瞳がギラっと光り変化していく。その様を見つめ、レベッカは刺客の男が言った言葉を唐突に思い出した。
『その男に使った毒は毒虫だけではない』

(くそっ!? 精果草を使ったのね……)

 金色へと変化していく男の瞳を見つめ、レベッカの中に焦りだけが募っていく。

 精果草――、別の名を欲望を喰らう花ともいう。
 強力な媚薬効果と常習性を持ち、摂取した者を廃人へと導く悪魔の花。その妖しくも毒々しい赤い花は、かつて、オーランド王国を震撼させた大事件を引き起こした。

 まだ、精果草の危険性が認知されず容易に手に出来る媚薬として娼館や商店で販売されていた当時、いち早くその危険性に気づき、平民でありながら使用の禁止を王へと進言したのがレベッカの祖父だった。思慮深く、理知的だった当時の王は、命をかけ王へと進言した祖父の言葉を信じ、早急に精果草の使用を禁止した。その結果、精果草の被害を最小限にとどめることができたのだ。シャロン家はその時の功績が認められ、平民でありながら男爵位を拝命することに至った。
 しかし、精果草の真の恐ろしさは、媚薬効果や常習性ではない。欲望を喰らう花と呼ばれる理由にこそ、真の恐ろしさが潜んでいる。蒸気した頬、金色へと変わっていく瞳。この症状が現れた時、精果草は牙をむく。心の奥底に潜む欲望が満たされなければ、金色の瞳を宿し者は狂い、死に至る。精果草の解毒剤が開発されていない現状では、心の奥底に潜む欲望を満たす他に助かる道はない。
 目の前の男の欲望が何かはわからない。しかし、自分を押し倒している状況から鑑みても、貞操の危機をヒシヒシと感じる。

「――っひ!?」

 ぎらついた目をレベッカへと向ける男の手がゆっくりと降りていく。刺客と戦うために無理矢理切り裂いたスカートは衣服の意味をなさず、下肢だけでなく太腿まで晒している。意志をもって降りていく手をレベッカは瞳を見開き見つめることしか出来ない。ガーターリングに手をかけられ、ゆっくりとストッキングが落ちていく。
 男の手はレベッカを拘束しているわけではない。逃げようと思えば逃げられる状況下で、レベッカは逃げなかった。
 毒で弱った男を殴り飛ばすことは簡単だろう。しかし、自分が逃げ出せば、目の前の男が助からないこともわかっている。
 レベッカの脳裏に、死に際の祖父の言葉が蘇る。

『――どうか、リシャールの無念を晴らしてくれ』

 精果草の解毒剤開発に人生を捧げた祖父。しかし、その願いは叶わなかった。
 
(あの悪魔の花のせいで、人が死ぬなんて耐えられない! 精果草の解毒剤がないなら、私が解毒剤になってやる!!)

 レベッカは、金色の瞳を最後に見やり覚悟を決めると、ギュッと瞳を強く閉じた。晒された脚を両手で包まれ、男の唇がレベッカの膝へと落とされる。チュッと響いた淫雛な音に、レベッカの肩がビクッと揺れた。

 ゆっくりと、ゆっくりと降りていく唇に、レベッカの背にゾワっとした感覚が這い上る。ふくらはぎを這い、足首をすぎ、足の甲へと口づけが落ちていく。しっとりとした唇が押し当てられた足の甲はジンジンと痺れ、レベッカの身体までをも火照らせた。

 一秒、一分……、たった数分のことが何時間にも感じられる。そして、どれくらいの時間が経ったのか、皮膚に触れる唇の感触がいっこうに動かない。不審に感じたレベッカが恐る恐る目を開けた瞬間、驚きから言葉を失った。
 レベッカの足を両手で包み、指先へと口づける男は微動だにしない。まるで、愛しい者へと口づけるかのように幸福な笑みを浮かべる男の様子にレベッカは唐突に理解した。
 
(彼の欲望は、足への執着か……)

 足先へとキスを落としたまま動かない男を見つめ安堵する。異様な事態に見舞われていることに変わりはないが、貞操の危機は去ったと見て間違いない。そして数分後、銀髪の男は事切れたかのように崩れ落ちた。
 レベッカは、男の手からソッと足を抜きシーツへと突っ伏した男の様子を伺う。荒かった呼吸は穏やかになり、蒸気した頬は元に戻っている。

(寝落ちたかしら? ……もう、大丈夫ね)

 精果草の中毒症状が消えた男の様子を見て安堵のため息をこぼす。ベッドから降り立ったレベッカは穏やかな寝息をたてる男に背を向けると、足早にその場を後にした。

 数日後。ウォール伯爵からの手紙を握りしめ、レベッカは頭を抱えることになる。

(あの銀髪男が、ウォール伯爵だったなんて……)

 手紙には、助けられたことに対する謝辞と、ウォール伯爵邸へ招待したい旨が記載されていた。しかし、その招待がただの謝礼とはレベッカとて考えていない。
 ウォール伯爵邸で待ち受けているであろう厄介事に思いをめぐらせ、レベッカはため息をこぼすしかなかった。
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