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愉悦と嫉妬 ②
「ねぇ、どうして君は薬師になろうと思ったんだい?」
「えっ……、なぜ知っているのですか? 私が薬師だと言うことを」
「精果草の事件を調べる中でね」
あぁ、そう言うことか。
精果草の事件を調べるなら、シャロン男爵家の内情を調べていても不思議ではない。エリアスの口ぶりからも、始めはシャロン男爵家も嫌疑がかかっていただろうし、その過程でレベッカが薬師であると決定づけるのは、さほど難しいことではない。
「えぇ、そうですわね。わたくしは薬師の資格を取っておりますわ。偽名ですけど。もちろんエリアス様は、その変の事情もご存知なのでしょう」
「あぁ、シャロン男爵家から申請された薬師登録名は、レベッカの兄上になっていた。女性薬師は、まだこの国では認められていないからね」
「本当、残念ですわ。男性より女性の方が知識が劣るなんて、時代錯誤も甚だしい。だから、我が国は医療も隣国より劣るのです」
優秀な女性薬師は皆、隣国へと渡ってしまう。その事実に気づいている者が、オーランド王国にどれほどいるのか。ほぼ、皆無だろう。
「そうだね……、女性は男性の庇護対象とみなす今の制度では、オーランド王国はいずれ衰退していくだろう。しかも、女性を下に見る風潮は平民より貴族の方が強い。国の政を担う貴族がそれでは、優秀な人材は流出していく一方だ」
ふざけた調子が消え、憂い顔で紡がれる言葉の一つ一つがレベッカに衝撃を与える。
確かに腕力では女が男に勝つことは出来ないかもしれない。だからといって、すべてが劣るとは限らないのだ。世の中には、女性の方が得意な分野もたくさんある。適材適所。そこに男女の差は関係ない。
女だからと挑戦すらさせてもらえない社会の風潮は、悪でしかない。その事に気づいている者が宮廷貴族の中にいる。その事実が何よりも嬉しい。
「エリアス様のように柔軟な考えをお持ちの方が宮廷貴族の中にも増えれば、オーランド王国も今以上に発展していくのでしょうね」
「だからこそ、ずっと不思議に思っていた。レベッカ、君の薬師としての能力は群を抜いている。シャロン商会で売られている傷薬、あれ一つとっても君の優秀さはわかるよ。それなのに、なぜ君はオーランド王国にとどまり、セインと婚約する道を選んだ。一人でも生きていけるのに」
真剣な眼差しにさらされ、レベッカの足がとまる。いつの間にか楽団の音楽が鳴り止み、どこからともなく湧き起こった拍手がホールを満たす。しかし、二人には拍手の音も、歓声も聴こえてはいなかった。
レベッカはエリアスからわずかに離れカーテシーをとり頭をさげる。
その流れるような所作に誰しもが見惚れる中、レベッカはエリアスに歩み寄ると手をつかみ歩き出した。
人垣をぬけ、舞踏会場を出ると人目のつかないバルコニーへと向かい扉をあける。
そして仮面を外し真正面からエリアスを見据え、言葉をつむいだ。
「わたくしがオーランド王国にとどまっている理由。それは、わたくしの師匠、祖父との約束だからです」
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