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秘密のパーティー
しおりを挟む「あぁぁぁ、ただ者じゃねぇと思っていたけど、レベッカさん、あんた何者だ? まぁ、いいさ。あの横暴な坊ちゃんから助けてくれたってことは、俺たちの敵じゃねぇってことだけはわかる」
「あら? 敵だなんて、物騒な話。ただ、あのバカ息子の味方ではないことだけは、確かね」
「ははは、バカ息子とは……、嬢ちゃん気に入った。これから話すことは、あんたを信用するからこそ、話す話さ。口外無用で頼む」
そう口火を切ってメイナードが話し出した内容は、レベッカが予想していたものより遥に深刻な問題をはらんでいた。
メイナードが隣国カルマン帝国から出稼ぎにやって来たのには深い理由があった。
カルマン帝国の平民として生まれたメイナードは、両親と兄妹、四人家族で、田畑を耕しながら生活を営んでいた。そんな慎ましくも幸せな生活は、メイナードが徴兵され終わりを迎える。
大国ゆえの宿命か、はたまた戦争狂と名高い王が即位した結果か、カルマン帝国は軍事国家だった。成人を迎えた男子はもれなく徴兵され、十年の兵役が課せられるという。そして運が悪いことに、メイナードが徴兵された数年後、他国との戦争が勃発し終結したのが兵役終了の年だったそうだ。
やっと解放され家族の元へと帰還したメイナードに更なる悲劇が待っていた。
長年に渡る戦争で焼け野原となった村には家族はおろか、誰も住んではいなかったのだ。
「必死に探したさ。隣り村に情報がなければ、大きな街にも探しに行った。それでやっと情報を掴んだんだ。親は死んじまったが、妹はまだ生きているって」
「その情報が、ニールズ伯爵家のメイドの仕事だったのね」
「あぁ。親を亡くし、俺の生死もわからねぇ。妹は、住み込みの仕事を探して此処の求人に飛びついちまった。そこで、ひでぇ目に合うとも知らねぇで。妹は死んじまった。変な薬を使われ、狂って死んでったんだろうな」
「メイナードさん。ニールズ伯爵家に集められたメイドの末路は、奴隷として闇売買される。違いますか?」
「……たぶん、そうだろうよ。俺は見ちまった。金色の目をした女達が、狂ったように男を求め売られていくのを」
メイナードの言葉がレベッカの心に暗い影をおとす。覚悟はしていた。しかし、赤の他人から聞かされる『金色の瞳』という言葉の衝撃は想像以上だった。
(ニールズ伯爵は、黒で確定ね……)
「ミシェルさんは近々、その競売にかけられるのではなくって? そして、それを知ったあなたは彼女を逃がそうとした。違う?」
「あぁ、あんたの言う通りさ。ミシェルは次の競売にかけられる商品になっている」
暗い目をしたメイナードが項垂れる。
妹を亡くし、今度は同郷の友まで失おうとしている。良心ある人間であれば耐えられない。
「ミシェルに逃げろって説得しているところを坊ちゃんに見られちまって、あのザマさ。きっと、相引きしているとでも勘違いしたんだろうよ」
はははと力なく笑うメイナードの声が虚しく響く。
エリアスの機転で、セインの怒りは収まったが、目をつけられてしまった事実は変わらない。
下手に動けば、ミシェルはおろかメイナードも危険に晒す可能性がある。そして、ニールズ伯爵を捕えるには、現場を押さえるしかない。
「今、ミシェルさんを逃がすのは危険です。バカ息子に目をつけられている時点で、慎重に行動しなければ、私達も消されてしまいます。そして、メイナードさん、あなたは競売にかけられる場所と日取りを知っている。違いますか?」
「嬢ちゃんに、隠し事は出来ねぇな。あぁ、知っている。此処で働く下男は、その闇取引きに駆り出される。そして、時がくれば消される運命さ」
「やはり、そうでしたか」
ニールズ伯爵家で働くメイドに対し、下男の人数が多かったのには理由があった。闇取引きの裏方仕事をさせられていたのだ。
給金の高さに飛びつき、危険な仕事をさせられ、最後には消される。そのターゲットとして、戦争が終結したばかりのカルマン帝国の出稼ぎ労働者は良いカモだった。知らぬ間に姿を消しても誰も気にしない。そして、メイドとしてニールズ伯爵家に雇われた女性達しかりだ。
(最悪だわ……)
非人道的な闇取引に、嫁ぐ予定の伯爵家が関わっていると考えるだけで吐き気がする。
外面だけの婚約者は別として、義父となる予定のニールズ伯爵を人の良いおじさまと慕っていたなんて、過去の自分を殴り飛ばしてやりたい。
何も見えていなかった。
いいや、何も見ようとしていなかったのだ。
望まぬ婚約に嘆くばかりで、真実を見抜く目を失っていた。あんなにも糸口は転がっていたというのに。
「ミシェルだけでも助けてやりたい。あいつは妹そっくりなんだ。勝ち気なのに、寂しがり屋で、俺の後ばかりついて回っていた妹と……」
絞り出すように紡がれる言葉一つ一つが、レベッカの胸をしめつける。
まだ、間に合うのだろうか。
もっと早くに、おじさまの違和感に気づいていたら。伯爵家の違和感に気づいた時に目を背けず真実を見抜く努力をしていたら、死んでいった者達を助けられたかもしれない。
しかし、『もし』を重ねたところで過去を取り戻せるわけではない。
今出来ることを、私はやる。
「メイナードさん、ミシェルさんを助ける方法があるとしたら、その闇取引きの現場を憲兵が取り押さえる他ありません」
「いや、しかし……、俺みたいな出稼ぎがリークしたところで、街の憲兵は聞いちゃくれん」
「そうですね。街の憲兵では埒があきません。それよりももっと上、貴族が絡む事件を取り締まる部署にかけ合ってみます」
「ちょ、ちょっと待て待て。貴族を取り締まるって……、王城にでも駆け込むつもりか?」
「ふふふ、それは秘密です。守秘義務がありますから」
クスクスと笑うレベッカを見つめるメイナードの顔には呆れ半分の色が浮かぶ。
「あぁあぁ、わかったよ。嬢ちゃんに任せるわ。毛色の違うメイドが入って来たなって感じた俺の直感は間違ってなかったってぇことだ。どんなことでも手伝う。命だってかけられる。だから……、ミシェルを助けてやってくれ」
涙声のメイナードに両手を握られ頭を下げられる。
自分に何が出来るかはわからない。しかし、真実を知ったからには逃げ出すわけにはいかない。
「任せてください! とは、言えないけど、最善を尽くします!」
二人、決意も新たに強く手を握り合った時、ようやく気絶していたミシェルが目を覚ました。
そして何度も頭を下げるミシェルに別れを告げ、ホクホク顔でニールズ伯爵家を後にしたレベッカを予想だにしない悲劇が襲う。
シャロン家へと帰宅したレベッカへと渡された手紙が手を滑り、落ちていく。
その手紙は、王太子殿下の婚約者、ロッキン公爵令嬢アイリーン主催のお茶会への招待状だった。
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