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後悔と罪悪感 ②
しおりを挟む檻の中には、五人の女性が鎖に繋がれ座っている。その中に見知った女性を見つけ息をのむ。
(ミシェル……、逃げられなかったのね)
彼女を逃す方法を探すと最後まで言っていたメイナードだったが、結局それは叶わなかったのだ。彼の無念を考えると胸が痛む。
恐怖にガタガタと震え怯えた目をさらす女や、生気を失い虚な目をする女。そして、檻の中を値踏みし狂喜乱舞する悪魔たち。支配される者とする者の地獄絵図がレベッカの眼下に広がる。
『さぁさぁ、皆さま方。これからお見せするのは世にも珍しい花を使った特別な見せ物でございます。かつてオーランド王国を震撼させた薬物『精果草』。この花は別名、欲望を喰らう花と呼ばれ、ひとたび使えば世にも稀な悦楽を人に与えると言われています』
壇上に上がったニールズ伯爵が、真っ赤な花弁を持つ一輪の花を観客へと見せる。
『しかし、この花にはある特徴がある。稀な悦楽を与える代わりに、非常に強い常習性を持ち、欲が満たされねば死ぬ。狂ったように愉悦を求め、激しい欲を満たすためなら、どんなことでもする獣と化す。使い方は人それぞれ。意中の相手に使うも良し、蹴落としたい相手に使うも良し、絶え間ない快楽を得るために使うも良し。では、お見せしましょう。この花の凄さを』
ニールズ伯爵の指示で屈強な男が、檻からミシェルを連れ出し、椅子へと繋ぐ。そして、男が取り出した毒々しい赤色の液体が入った注射器を見たレベッカは叫びそうになった。
(嘘でしょ!? どうして、あり得ないわ!!)
メイナードへと渡した偽薬の色と注射器に入った液体の色がわずかに違うような気がする。
日々、精果草を扱う者にしかわからない程度の違い。しかし、レベッカの目は的確に偽薬との色の違いを見わけていた。
(あれは、本物の精果草だわ!?)
ぐるっと会場内を見渡すがメイナードらしき男は見当たらない。彼は偽薬のすり替えに失敗していたのだ。
レベッカの心に焦りが広がっていく。
あんなモノを体内に直接入れられたら、どうなるかわからない。
見慣れた毒々しい赤色を目にしたレベッカは、立ち上がり反射的に扉へと走り出す。
「レベッカ! 待って!! どうしたんだよ!?」
「離して!! 行かなきゃ! 今すぐ止めないと死んでしまうわ。あんな量、入れられたらひとたまりもない!!」
今にも部屋を飛び出そうとするレベッカの身体を捕まえたエリアスの焦り声も聞こえない。
(早く行かなきゃ、死んでしまう。目の前で人が死ぬなんて耐えられない)
すべて、私のせいだ。
なぜ偽薬のすり替えが失敗する可能性を考えていなかったのだろう。
こんな計画、提案しなければよかった。
激しい後悔が心に押し寄せ涙が浮かぶ。また、自分のせいで人が死ぬ。罪悪感で押しつぶされそうなレベッカを羽交じめにし、エリアスが怒鳴る。
「レベッカ、落ち着け! 手は打ってある」
「えっ!?」
「偽薬へのすり替えが失敗した場合を考慮し作戦は考えてある。だから、落ち着け」
振り仰いだレベッカへと、落ち着かせるようにエリアスが大きな頷く。
「この場で捕えればニールズ伯爵は言い逃れは出来ない。ガウェイン侯爵を捕えることは難しいが、ニールズ伯爵さえ捕えれば芋づる式に侯爵へと繋がる証拠も見つかるだろう。人命第一だ。今すぐ、指示を出す。だから、焦るなぁっ――――」
その時、爆発音と共に『火事だ!!』と叫ぶ声が聴こえ、階下は大混乱へと陥いる。
「くそっ!! こんな時に!?」
エリアスの叫び声に、レベッカは状況がさらに悪い方へと動いたことがわかった。
「レベッカ、計画は中止だ。逃げるぞ!!」
エリアスに手を掴まれ走る。
小部屋を出て階下へと続く階段から下を覗けば、出口へと人の波が押し寄せている。こんな状況では、この場に居合わせた悪魔共を捕えることは不可能だ。
悔しさを胸にエリアスに手を繋がれ走る。そして人の波に紛れ脱出して気づいた。
「エリアス、檻に繋がれた女性たちを助けなきゃ!!」
「無理だ!! 今、戻れば奴らの思う壺だ。計画の情報が漏れていたとしか考えられない。あきらめるしかない」
「じゃあ、彼女達はどうなるの!?」
苦しげに歪められたエリアスの目を見て悟る。あきらめるしかないと。
頭の中が真っ白になる。
彼女達の末路はどうなるのだろう。
『死』の文字が頭を過り、愕然とする。
茫然自失で立ち尽くすレベッカを抱き上げエリアスが走り出す。
あふれ出した涙が止まらない。
レベッカは後悔と罪悪感に押しつぶされ、エリアスの腕の中、ただ嗚咽をもらし泣くことしか出来なかった。
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