前世腐女子、今世でイケメン攻略対象者二人から溺愛されるなんて聞いてません!

湊未来

文字の大きさ
75 / 93
第4章

心に巣喰う狂気【ノア視点】

しおりを挟む

「では、クラレンス辺境伯領での橋崩落事件が起こる数週間前に、ドンファン伯爵家と繋がりのある商会が大量の火薬を入手しているが、この事実は知っているか?」

「いいえ。当家と関わりのある商会は多くございますゆえ、どんな取引をしているかまでは把握し切れていないのが現状でございます。火薬を入手したのも、何処ぞの取引先から注文が入ったのかもしれませんな。売り渡してからの火薬が何に使われたかまでは、商会も把握してませんでしょう。もし仮に売り渡した火薬が橋の爆破に使われたとしても、買い手が商会に橋を爆破したいから火薬を注文したいなんて言いませんでしょう。売った物が犯罪に使われたとして、その責任を売り手にまで求めるのは、いささか無理があるのではありませんか?」

 小馬鹿にした様な物言いをするドンファン伯爵を、ノアは冷めた目で見つめる。

 やはり認めはしないか……

 数日前に、ドンファン伯爵の子飼いから入手した帳簿を見つつ、これだけでは罪を認めさせるのは難しいと判断した通りの展開になっている。

 リッツ伯爵家とダントン子爵家の婚約話にしても、ダントン子爵がドンファン伯爵から脅され、ロイをリアナに焚きつけたと暴露しない限り、裏でドンファン伯爵が暗躍していた事実を立証する事は難しい。

 橋の崩落事件に関しても犯人が捕まっていない現状では、いくらでも言い逃れは出来てしまう。

 グレイスが白き魔女では無いと立証出来ないのが現実だった。

(これ以上の立証は、難しいか……)

 グレイスの婚約者となり、ドンファン伯爵の裏の顔を探ってきたリアムも限界だろう。ドンファン伯爵の子飼いをそそのかし、得た証拠を全て吟味したが、裏帳簿やドンファン伯爵に弱みを握られた貴族の証文、奴隷取引、違法麻薬の斡旋あっせんの証拠を突き付けた所で、全ての罪を子飼いに押し付け、トカゲの尻尾切りをされてしまえばお終いだ。
 
 しかも、子飼いの男は、リアムに渡した証拠以外にも、ドンファン伯爵の関わった罪の証拠を隠し持っている様だが、後々、それを使いドンファン伯爵を裁く事が出来ても、グレイスが白き魔女をかたった証拠にはない。グレイスを罪に問う事は、難しい。

『グレイスお嬢様は、アイシャ・リンベル伯爵令嬢に並々ならぬ憎悪を燃やしておいでです。それこそ、この世から消えて仕舞えば良いと考える程に』

 セス・ランバンの言葉が、ノアの脳裏によみがえる。

 こちらから罠を仕掛けるしかないのだろうか。アイシャが危険にさらされる事になっても……

 最悪の事態を想定して、ノアの心臓が軋む。

「確かに、ドンファン伯爵の言う通りではあるな。私が述べた事は、推察の域を脱しない。グレイス、貴方が白き魔女を騙り、裏でドンファン伯爵が暗躍している証拠はない」

「では、ノア王太子殿下は、わたくしを白き魔女と認めてくださるのですね!!」

 グレイスが満面の笑みを浮かべ、声を張り上げる。

「いや……、今の段階では、貴方を白き魔女として認める事は出来ない」

「何故ですか? 貴方様は怪しいと言うだけで、証拠もないのに人を罰するのですか? わたくしの力は本物でございます。わたくしこそ、本物の白き魔女でございます!!」

 目の前のグレイスが涙をはらはらと流し、訴える。その様子に周りの出席者達が響めき出す。

(流石に、こちらの不利であるか……)

 心の中は真っ黒でも、憐憫れんびんを誘う演技は、お手の物か。数々の男共をたらし込んで来ただけの事はある。国の重鎮と言えども、グレイスの演技に騙され、援護する者も現れよう。

 やはり、仕掛けるしかないのか……

「――――では、一つ提案がある。私は自分の目で見たものしか信じぬたちでな、もし貴方が私の前で『さきよみの力』を披露し、それが現実となったなら、貴方が本物の白き魔女と認めよう。グレイス、貴方にそれが出来るかな?」

 グレイスが黙り込む。

 さて、彼女はどう出るか……

「わかりました。出来るかは分かりませんが、やって見ます。少しお時間を頂けますか?」

「時間は幾らでもある。貴方の予知のイメージが湧くまで、待とうではないか。ただし、不正を防ぐためドンファン伯爵との接触は、貴方の予知が終わるまで絶たせてもらう。貴方の身は王城で預かり、ドンファン伯爵にはお引き取り願うが良いか?」

「もちろんでございます」

 近衛騎士に連れられ、グレイスが退出して行く。その背を見つめ思う。

『願わくば、私の大事な人が巻き込まれる事態にならないように』と。





 グレイスが貴賓室へと籠ってから数日後、執務室で仕事を片付けていたノアへと一通の手紙が手渡された。王家の紋章が刻印された封筒と便箋は、予知のためグレイスへとノア自ら手渡した物だ。決して偽装が出来るものではない。

 仕事の手を止め、椅子から立ち上がったノアは陽の光が差し込む窓際へと向かい、届けられた封筒の封を切り、便箋を取り出し開く。

『アイシャ・リンベル伯爵令嬢は、愛する者の手で死を迎えるだろう。これは避けられぬ運命である』

 侍従を通しグレイスから届けられた手紙を読み、深いため息をこぼす。

(やはりグレイスは、アイシャを殺すつもりか……)

 ノア自身が仕掛けた罠だったとしても、大切な女性が標的にされた事実に、心にわずかな動揺が走る。

 アイシャが危険に晒されるとリアムが知ったら、彼はどう出るのか……

 アイシャとリアムの仲を裂き、悪女と婚約させた上、愛する女性を危険にさらす可能性を秘めた罠をグレイスに仕掛けたと知ったら、リアムは激昂するだろう。

 リアムはただひたすらにアイシャの幸せを願っている。たとえ自分の想いが報われないとしても。

(私は、最期まで愛し合う二人に酷い仕打ちをするのだな……)

 リアムに対するアイシャの想いに気づいた時に、己の中に生まれた狂気。どんなに想いを寄せても、アイシャとは結ばれないと思い知ったあの時、自分は何を思った?

『なぜ、自分だけが我慢しなければならないのか』

 王族でなければ、王太子という立場でなければ、そして、アイシャの愛する人が、己の治世では欠かせない存在となる神童、リアムでなかったなら。考えれば考えるほど、己の置かれた立場や、報われることのない想いに、憤りだけが心の中に蓄積していった。

 結局のところ、愛する二人を引き裂くことでしか、己の心に積もった怒りを収めることが出来なかったのだ。そして、暗く濁った心を慰めることが。

(私は、弱いな……)

 愛するアイシャと引き離されてなお、アイシャのことを想い、泥を被り続けるリアム。きっと、リアムは、アイシャが幸せであれば、己がどうなっても構わないと思っているのだろう。たとえ、アイシャと結ばれる未来がないとしても、彼女が幸せであればそれでいいと。

(愛する女性の幸せを願い、身を引くなんて芸当……、私には出来ないな。きっと私は、一生リアムには勝てない)

 リアムの様にはアイシャを愛せない自分に、自嘲じちょうするしかなかった。


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

処理中です...