ゾンビになった彼女と錬金術師になった彼氏

カラスヤマ

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7 騒がしい夜に

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夜の闇が支配する時間。連日の野宿は、この疲れた体にはキツイです。だから僕達は、今夜は安宿に泊まることにした。



しばらく、リラックスタイム……。


狭い部屋に三人。こういう時だけ、お金を錬成する誘惑に負けそうになる。


「可愛い寝顔~。どんな夢見てるのかなぁ」


「どうするの? この子」


先ほどまで宿の狭いベッドの上にちょこんと座っていたアンデッドの少女は、今は静かに寝息をたてている。


「なんか……連れてきちゃったけどさぁ。そもそもナツは、この子に復讐するんじゃなかったの?」


「復讐? なんのことかサッパリ」


おいっ!


「二人より三人の方が、旅は楽しいじゃん」


「えっ? この子も連れていく気?」


「当たり前でしょ。一人にしたら、飢え死にするよ。この子。可哀想」


人間の姿をしていても魔物は、魔物。連れていくには、リスクが高すぎる。


「…………分かったよ。でもこの子が少しでも僕達に危害を加える仕草を見せたら、排除するからね」


「こわーーい、サトル。でも、うん。分かったぁ」


ってか、さっきから外がやけに騒がしい。何だろう。


出窓から宿の外を覗くと、槍や剣や短銃を持って、この部屋を睨んでいる大勢の町人と自警団の姿が見えた。


「なになに~。うわわ~、みんな鬼気迫る顔してるね。ヤバそう」


「最悪だよ、この状況。10分以内に逃げないと。彼らは、この子に大切な人を殺されているからね。この子を捕まえて、八つ裂きにするんじゃないかな」


「何とかして、サトル」


「分かったよ。はぁ~」


重い溜め息を吐きながら、僕は両手を重ね合わせ、力を練り始めた。


ここから無事に三人で逃げるには、この錬成しかない。



「面倒なことになったなぁ……」



部屋全体がまばゆい光に包まれ、小刻みに揺れ始めた。

その時、ちょうど部屋の窓が激しく砕け、外から火炎瓶が何本も放り込まれた。すぐに部屋が火の海になる。


起きたアンデッドが、震える目で僕を見ていた。


「あ、あつっ、熱いよ!! 早くしてよっ」


「分かってるって! もう少しだから!!」


「こっ、こっ、こっ、こっ、これ何!? 体が、サァァアっアァ」


「ニワトリ?」


僕とナツ。アンデッドの少女の体がサラサラした『砂』へと物質変化していく。この黄金の砂は、風に乗り、割れた窓から夜空へと高く高く上っていく。



ガッシャっ!!



ドアを強引にぶち破り、部屋に侵入してきた危ない輩が、皆「??」な顔をして、誰もいない赤い部屋を見ていた。


……………………………………。

…………………………。

…………………。



小一時間、風に遊ばれた僕達は綺麗な湖がある森に着いた。


舞っている砂が集まり、再び僕達の体を再形成する。



落ち着いたナツに背中をバンバン叩かれた。


「これも錬金術なの? 魔法じゃなくて?」


「うん。これは『裏』錬成。命あるものを非生物に変える難易度が高い錬金術だよ」


「サラッとスゴいことするね」


アンデッドの少女は、まだ自分の両手を見たり、顔を触ったりしながら戸惑っているみたいだ。


「パパ、すごいです」


「……パパじゃないけどね。ところで、君の名前は? まだ聞いてなかった」


「えっと、私はロットナンバー、kdn652784です」


「…………なんか」


「長いねー」


僕とナツは、少女に名前を与えた。



『アンナ』
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