冷やし上手な彼女

カラスヤマ

文字の大きさ
上 下
59 / 63
再び現代

番条VS天谷

しおりを挟む
遂に冷たい雨が降ってきた。
二川は、震える足を殴り、何とか立ち上がった。

「無理しない方が良いと思うよ?  もうキミの体はキミの物じゃない。僕のマリオネットなんだから」

「…………………」

「雨ってさぁ、良いよね。濡れた制服。下着の形が少し露になって、こうやって見てると少しムラムラするよ」

狩屋が、二川の長い髪を撫でる。
抵抗しようとするが、体が痺れて動けない。

「無理だよ。キミは、もうーーー」

その時、奇跡が起こった。狩屋の腕を掴んだ二川は、反対方向に思い切りへし折った。更に狩屋の顔に思い切り頭突き。鼻骨をクシャっと折った。

「な、な、な、な、んで!?  体を動かせる? あり得ない!!」

「お前の声については、事前に会長から話を聞いていた。だから、わざわざこんな耳栓までしてるわけだし」

長い髪をかき上げ、左耳に装着した耳栓を男に見せる。

「そんな、バカな………」

「うん。分かってるじゃん。お前は、バカだよ。気をつけて私を観察してたら、その違和感、微妙な目線のズレに気づけたはず。油断したな。お前の声は聞こえなくても、私は読唇術が出来るから会話は可能だったわけ」

尻餅をついた男に歩み寄る二川は、嬉しそうに笑った。

「久しぶりに躊躇なく殺せる。ありがとう、狩屋………クズでいてくれて」

「やめっ………来るな!  それ以上、来るなぁあぁあ!!!!」

「とりあえず、そうだなぁ………。お前に苦しめられた女の数だけ、その股間を蹴ることにしよう!  狩屋、お前が言っていたように私もムラムラしてきちゃったよ」

「助け、てぎゅ!」

「まず、一回」

ーーーーーーーーーーーーーーーー。

時同じくして、学校の中庭。


そこに連れて来られた麻袋で目隠しをされた番条。その手前に新副会長の男が立っていた。高身長で恵まれた体格。巨木のような腕には、蜂の刺青が見える。短髪で色黒。死神のように色が白い番条とは、対照的だった。

「番条鈴音。お前は、他の愚か者とは違う。会長に歯向かう、神華七美や二川愛蘭とはな。だから、助けてあげたい気持ちはあるんだが………。これは、会長からの指示でな。不安分子は排除せよとのことだから。連帯責任と言うことで、お前にはここで死んでもらうわ」


中庭に見慣れない一匹の赤い蝶が、横切る。その蝶は、次第に数を増し、中庭全体を覆うように群がった。


『蝶の匣』


指先に蝶を乗せた男。

「俺は、天谷 匙(あまたに さじ)。誰に殺されたか分からないのは、さすがに酷だからな」

「私を……殺すの?」

赤い蝶が、急速にその数を増す。太陽まで紅く染めた。

「害虫は、一匹残らず排除する。恨むなら、元会長を恨め」

「……………死ぬの嫌だな…」

番条の体全体に蝶が群がり、覆い隠した。

しおりを挟む

処理中です...