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お仕事トラベル・出張はハネムーン?
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「おいおい、ついに新婚旅行か?」
朝のオフィス。
僕が名古屋出張の準備をしていると、同僚たちがニヤニヤしながら冷やかしてくる。うちの旅行会社はやたらとアットホームな職場で、社員同士の距離が近い。
ちょっとでも同年代の男女がいればすぐに「付き合ってるの?」と茶化される。
「違いますよ、ただの営業出張です!東海最大のチェーンホテルの優先契約が取れるかもしれない正念場なんですよ!邪魔しないでください!」
必死に否定する僕。
隣では今回の出張の相棒である女性同僚・桜井さんが、苦笑いしながら書類をまとめていた。
「もう、付き合ってないですよ~。」と桜井さんも否定するが、
「どうだかねぇ~? まあ、気をつけて行ってこいよ、ハネムーン」
と、まるで夫婦扱い。
僕は密かに桜井さんに片思いしているので、冷やかしが地味に刺さる。
「ほら、早く行きましょ?」
桜井さんに急かされ、僕たちは名古屋へ向かう新幹線に乗り込んだ。
2. 出張先でのアクシデント
名古屋に到着し、ホテルチェーンの担当者とのアポイントが終わった。
予定通り上手く行きそうだ。
目的も済んだので早めに会社に戻ろうと駅に向かう途中、突然の大雨に降られてしまった。
「うわっ、最悪!」
「これじゃずぶ濡れだな……」
慌てて駆け込んだのは駅前のホテル。
こんなにびしょ濡れになるとは。
ふと思いつく。
「せっかくだから飛び込み営業もかけてみるか?でも、こんな格好じゃ印象悪いかな……」
「逆に『臨場感があっていいですね!』とか言ってくれるかもしれませんよ?」
そんな軽口を叩きながら、ダメ元で駅直結のいくつかのホテルへ飛び込み営業をかけることにした。
これが意外にも大成功。
担当者との商談が異様に盛り上がり、新規契約や新しい提案が次々と決まる。
東海最大のチェーンホテルだけでなく、駅前の中堅ホテルも含めて総ナメにできそうだ。
夢中で商談しているうちに気づくと外は真っ暗だった。
「今日、めっちゃ良い仕事したな……!」
「ほんとですね、お疲れ様です!」
疲れ果てた僕たちは、新幹線の座席に座るなりお互い力尽きて爆睡してしまい気づいたら東京に着いていた。
翌日、会社に出勤するとすぐに男性同僚の小村にニヤニヤしながら声をかけられた。
「で、お前ら、名古屋でどこまで進展あったんだ?」
「は?」
「鈍いなあ。だから、お前と桜井、どこまでいったか聞いてるんだよ?」
僕はまだ昨日の疲れが残っていて、何のことかわからずぶっきらぼうに答えた。
「どこまでいったか?そりゃ、ホテル行ったに決まってるだろ。」
「えっ!?ホテル?急展開だな、おい!」
「めっちゃたくさんいったからクタクタだったわ。」
「そんなに?疲れるほどイッたのか?」
「うん、めちゃくちゃ濡れちゃったから急いでホテルに飛び込んで」
「!!!!積極的だな…オイ、なにもそこまで開けっぴろげに話してくれなくても…いいんだぜ。」
「でも、めちゃくちゃ盛り上がったよ」
「お、おう」
「最後は途中で力尽きて……」
「力尽きるほど……!?」
下世話な表情で根掘り葉掘り聞き出すつもりだった小村の顔が、勝手に真っ赤になっている。
「なんかいろいろ話してくれてありがとうな。よかったな。やっぱり新幹線の中で勇気を出して告白したりしたのか?」
「え?告白?するわけないだろ!すぐ寝ただけだよ。」
「あああああああ!!!!積極的~!即行動!肉食系!!!!!)」
小村は真っ赤な顔をして駆けていった。
なんだあいつ。
昼頃になってやっと頭がハッキリしてきたときに、僕の曖昧な返答のせいで、小村が完全に「名古屋で僕と桜井産さんが男女の仲になった」と誤解したことに気づいた。
気づいた時にはすでに遅かった。
うちの会社の噂の拡散は早い。
同僚が僕や桜井さんのほうをチラチラみながら微笑ましい視線でヒソヒソ話。
上司からは
「お前ら、公私混同はほどほどにしとけよ。って冗談だよ!今回は営業成績に免じて見逃してやる。それと結婚式のスピーチは任せとけ。」
と謎の耳打ちが。
社長にまで噂が届き、「久しぶりに新しい社内恋愛カップル誕生か!」と上機嫌らしい。
「いやいや、違いますから!!」
桜井さんも迷惑してるだろうな、ごめんね…と思いながら様子をうかがってみる。
「んー、まあ、どうだろうね?」
ちょっと!? なんで否定しないの!?
こうして噂は収まるどころか、ますます加速していった。
そして極めつけの出来事が。
「お前ら、社内カップルランキングにエントリーされたぞ!」小村がニヤニヤ伝えてきた。
発端はこいつだ。
最初に本人から情報を仕入れたと思って得意になってやがる。
うちの会社はアットホームどころか頭がおかしい社風なので「お似合いカップルランキング」なるものがあり、勝手にエントリーされてしまった。
僕たちはセンセーショナルなデビューを飾ったことになっているので暫定1位。
1位になると「特別休暇」がもらえるらしい。
参ったなあと思っていたら桜井さんが廊下で声を掛けてきた。
「ねぇ、もういっそ付き合ってみませんか?」
「……え?」
「仕事でも相性いいし、私、一緒にいるの楽しいし、悪くないかなって思ってます。」
「……マジで?」
「冗談に聞こえますか?」
「いや、むしろ……嬉しい」
こうして、勘違いが勘違いを呼び続けた結果、僕たちは本当に付き合うことになった。
そして1位に輝いた僕たちは、「社内公認カップル」として特別休暇をもらい、本当の旅行に出かけることになるのだった。
「また名古屋ハネムーンで熱い夜を過ごしたらいいんじゃねえか?」
小村から冷やかしの声が飛び、僕たちは苦笑いだ。
朝のオフィス。
僕が名古屋出張の準備をしていると、同僚たちがニヤニヤしながら冷やかしてくる。うちの旅行会社はやたらとアットホームな職場で、社員同士の距離が近い。
ちょっとでも同年代の男女がいればすぐに「付き合ってるの?」と茶化される。
「違いますよ、ただの営業出張です!東海最大のチェーンホテルの優先契約が取れるかもしれない正念場なんですよ!邪魔しないでください!」
必死に否定する僕。
隣では今回の出張の相棒である女性同僚・桜井さんが、苦笑いしながら書類をまとめていた。
「もう、付き合ってないですよ~。」と桜井さんも否定するが、
「どうだかねぇ~? まあ、気をつけて行ってこいよ、ハネムーン」
と、まるで夫婦扱い。
僕は密かに桜井さんに片思いしているので、冷やかしが地味に刺さる。
「ほら、早く行きましょ?」
桜井さんに急かされ、僕たちは名古屋へ向かう新幹線に乗り込んだ。
2. 出張先でのアクシデント
名古屋に到着し、ホテルチェーンの担当者とのアポイントが終わった。
予定通り上手く行きそうだ。
目的も済んだので早めに会社に戻ろうと駅に向かう途中、突然の大雨に降られてしまった。
「うわっ、最悪!」
「これじゃずぶ濡れだな……」
慌てて駆け込んだのは駅前のホテル。
こんなにびしょ濡れになるとは。
ふと思いつく。
「せっかくだから飛び込み営業もかけてみるか?でも、こんな格好じゃ印象悪いかな……」
「逆に『臨場感があっていいですね!』とか言ってくれるかもしれませんよ?」
そんな軽口を叩きながら、ダメ元で駅直結のいくつかのホテルへ飛び込み営業をかけることにした。
これが意外にも大成功。
担当者との商談が異様に盛り上がり、新規契約や新しい提案が次々と決まる。
東海最大のチェーンホテルだけでなく、駅前の中堅ホテルも含めて総ナメにできそうだ。
夢中で商談しているうちに気づくと外は真っ暗だった。
「今日、めっちゃ良い仕事したな……!」
「ほんとですね、お疲れ様です!」
疲れ果てた僕たちは、新幹線の座席に座るなりお互い力尽きて爆睡してしまい気づいたら東京に着いていた。
翌日、会社に出勤するとすぐに男性同僚の小村にニヤニヤしながら声をかけられた。
「で、お前ら、名古屋でどこまで進展あったんだ?」
「は?」
「鈍いなあ。だから、お前と桜井、どこまでいったか聞いてるんだよ?」
僕はまだ昨日の疲れが残っていて、何のことかわからずぶっきらぼうに答えた。
「どこまでいったか?そりゃ、ホテル行ったに決まってるだろ。」
「えっ!?ホテル?急展開だな、おい!」
「めっちゃたくさんいったからクタクタだったわ。」
「そんなに?疲れるほどイッたのか?」
「うん、めちゃくちゃ濡れちゃったから急いでホテルに飛び込んで」
「!!!!積極的だな…オイ、なにもそこまで開けっぴろげに話してくれなくても…いいんだぜ。」
「でも、めちゃくちゃ盛り上がったよ」
「お、おう」
「最後は途中で力尽きて……」
「力尽きるほど……!?」
下世話な表情で根掘り葉掘り聞き出すつもりだった小村の顔が、勝手に真っ赤になっている。
「なんかいろいろ話してくれてありがとうな。よかったな。やっぱり新幹線の中で勇気を出して告白したりしたのか?」
「え?告白?するわけないだろ!すぐ寝ただけだよ。」
「あああああああ!!!!積極的~!即行動!肉食系!!!!!)」
小村は真っ赤な顔をして駆けていった。
なんだあいつ。
昼頃になってやっと頭がハッキリしてきたときに、僕の曖昧な返答のせいで、小村が完全に「名古屋で僕と桜井産さんが男女の仲になった」と誤解したことに気づいた。
気づいた時にはすでに遅かった。
うちの会社の噂の拡散は早い。
同僚が僕や桜井さんのほうをチラチラみながら微笑ましい視線でヒソヒソ話。
上司からは
「お前ら、公私混同はほどほどにしとけよ。って冗談だよ!今回は営業成績に免じて見逃してやる。それと結婚式のスピーチは任せとけ。」
と謎の耳打ちが。
社長にまで噂が届き、「久しぶりに新しい社内恋愛カップル誕生か!」と上機嫌らしい。
「いやいや、違いますから!!」
桜井さんも迷惑してるだろうな、ごめんね…と思いながら様子をうかがってみる。
「んー、まあ、どうだろうね?」
ちょっと!? なんで否定しないの!?
こうして噂は収まるどころか、ますます加速していった。
そして極めつけの出来事が。
「お前ら、社内カップルランキングにエントリーされたぞ!」小村がニヤニヤ伝えてきた。
発端はこいつだ。
最初に本人から情報を仕入れたと思って得意になってやがる。
うちの会社はアットホームどころか頭がおかしい社風なので「お似合いカップルランキング」なるものがあり、勝手にエントリーされてしまった。
僕たちはセンセーショナルなデビューを飾ったことになっているので暫定1位。
1位になると「特別休暇」がもらえるらしい。
参ったなあと思っていたら桜井さんが廊下で声を掛けてきた。
「ねぇ、もういっそ付き合ってみませんか?」
「……え?」
「仕事でも相性いいし、私、一緒にいるの楽しいし、悪くないかなって思ってます。」
「……マジで?」
「冗談に聞こえますか?」
「いや、むしろ……嬉しい」
こうして、勘違いが勘違いを呼び続けた結果、僕たちは本当に付き合うことになった。
そして1位に輝いた僕たちは、「社内公認カップル」として特別休暇をもらい、本当の旅行に出かけることになるのだった。
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