はじまりは朝焼け

もっくん

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ふたりきりで初めての夜

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酔いつぶれた友人を送り届け、ようやく駅に向かって歩き出したハジメとナナ。
静かな夜道で、ナナがぽつりと呟く。
「え...終電、なくなっちゃったみたい。」
「え!? マジで!?」とハジメが大きな声を上げると、通行人が一斉にこちらを振り返った。焦ったように周りを見渡しながら、ハジメはどうにか冷静を装おうとする。
「えっと、どうする? タクシーとか呼ぶ?」
「いや、帰るといっても結構遠いからタクシー代が...。」
「あ、渋谷までならまだ行けるかも。」
「でも、、渋谷はちょっと怖いな。ファミレスとかで朝まで時間つぶすのはどうかな。」
ナナが提案すると、ハジメはホッとしたように頷く。
「あ、ああ! それがいい! 近くに24時間営業の店があった気がするし。クーポン使えるかも。」

こうして二人は近くのファミレスに入ることになった。ハジメ自体はまだ電車があって帰れる時間だったが自然と二人で朝の始発まで時間を潰すことになった。
どちらもそのことを敢えて口にはしなかった。

店内は深夜の割にそれなりに人がいた。
黙々と食事する男性一人客、全員寝落ちしている男グループ、異様に親密なカップル…
騒がしくもなく静かすぎもしない適度な空気感の中、二人は向かい合わせに座る。
「何か飲む?」
「うーん、ドリンクバーでいいかな。」
ドリンクバーとサンドイッチを頼み、しばらく無言の時間が流れる。
ハジメは目の前のナナがストローを弄っている様子をぼんやりと眺めていたが、届いたサンドイッチを見たナナが口を開いた。
「唐揚げサンドイッチ、美味しそう!」
「そういえばさっきの店の唐揚げ美味しそうだったな。」
「だよね!だよね!」
どうがんばっても結局朝までは一緒にいることになる親近感。
なんとなく距離が縮まっていった。

「そういえば、ナナさんって映画とか見るの?」
「あ、うん! 映画好きだよ。特にジブリとか。『魔女の宅急便』とかめっちゃ好き!」
「俺もそれ好きだな! キキのパン屋で頑張ってる姿とか、トンボが純粋でいい奴だし。」
「分かる! あの、キキがトンボの自転車で飛ぶシーンとか最高だよね。」
映画の話題から自然と会話が弾み、二人の間の壁は徐々に崩れていく。
「ハジメくんはどんな映画が好き?」
「え、俺? うーん、ちょっと恥ずかしいけど、最近はアクションものとかかな。でもたまにラブコメとかも見る。」
「ラブコメ!? なんか意外。」
ナナがくすっと笑い、ハジメは少し赤面しながら「まあ、たまにね」と照れ隠しをする。そのやり取りに二人の最初の緊張感はいつしか消え去った。

会話が落ち着いたタイミングで半分ウトウトしかけたナナがフォークをテーブルから落としてしまった。
「あっ、落としちゃった。」
「俺、拾うよ。」
ハジメは急いでテーブルの下に潜り込み、フォークを拾い上げた。
目の前にナナの無防備な黒ストッキングが視界に入る。眠気からかスカートなのに脚をパカッと開いてたので一番奥の黒ストッキング越しに白っぽい何かが、、見えた気がした。
「...えっと、これ。もう使わないしいいよね。」
「うん、ありがとう!」
ナナの眠気混じりの笑顔に心臓が跳ね上がりそうになるハジメ。
何でもない行動のはずなのに、自分の中で妙な緊張感が走る。
(やばい、俺変なこと考えてる?)
頭の中が混乱する中、ふとある考えがよぎる。

(もしかして、こうなった時って、女性をホテルに誘う方が自然だったりするのか? いや、でも俺そんな経験ないし、ナナさんを困らせるかも...。)
意識しだしてしまうと目の前でウトウトしたり、急に思い立って話しかけてくるナナの赤いニット越しの胸にも目が行ってしまう。
起きるはずも可能性に葛藤する自分が恥ずかしくなり、必死にその考えを打ち消そうとする。
時間が過ぎ、そろそろ外が明るくなり始めた頃、ナナがぽつりと呟いた。
「朝になっちゃったね。」
「そうだね。なんだかんだ結局、夜通し話してたかも。」
「でも楽しかった。ハジメくん、ありがとう。優しくて安心できたよ。」
ナナの言葉にハジメは少し驚き、そして胸が温かくなるのを感じた。
「いや、俺こそ。なんか、こういうの初めてだったけど、ナナちゃんと一緒だったから良かったよ。」
ナナが微笑みながら(私、安心できたよ。これでよかったよ。)と言うように軽く頷く。その仕草を見たハジメは、自分があの時錯乱してホテルというワードを1ミリも出さなかった選択が正しかったのだと思い、ホッと胸をなでおろした。

ファミレスを出て駅に向かい、途中でナナが降りる別れ際、ナナが小さく手を振った。
「じゃあ、また学校で。」
「あ、ああ。またね!」
ホーム越しに綺麗な朝焼けが見えていた。

ハジメはナナの後ろ姿を見送りながら、心の中でそっと呟いた。
(ナナちゃんって、やっぱりすごく魅力的だな...。)
たった一晩で彼女の言葉や笑顔がハジメの心の大部分を占めていた。
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