氷の薔薇人形は笑わない

胡桃

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閑話(サイドストーリー)

01.婚約破棄の対価(1)

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 ――時は遡り、婚約破棄騒動の後。
 

 シエラローズが謁見の間から辞し、ミルフローリア公爵邸で待つ父親に事態を報告するべく下城してから数刻後。
 
 サロンの集いを解散させたアレクシオスは、マリベルを伴って王城内を闊歩していた。
 
 結局、一度もサロンに顔を出さなかった母――王妃は一体どうしたのだろうと考える。
 
 王妃は月に一度、自身の主催でサロンを開き、次世代を担う若き子息子女との交流を楽しみにしている。

 そんな王妃がサロンに顔を出さないという異常事態に、アレクシオスはその理由が気になっていた。
 
 昨夜、アレクシオスは密かに城を抜け出し、城下町でマリベルと共に過ごしていた事もあって、朝食の席には間に合わず、王妃とは顔を合わせていない。

 そして、同じ理由で王とも顔を合わせていなかった。
 
 サロンで婚約破棄を告げた際、シエラローズに王は承知済みかと問われ、アレクシオスは自信満々で肯定していたが、実際はまだ何も報告していなかった。

 だが、結果は同じ事であるから構わないと思っていた。
 
 アレクシオスにとって、一向に気の合わないシエラローズとの婚約は、王が熱望したから仕方なく交わしただけのものであって、アレクシオスが本心から望んだ事では無いと考えていた。
 
 王は何だかんだ厳しい事を言いつつも、最後にはアレクシオスの意思を尊重してくれるのが常であるため、この婚約も己の一言で簡単に破棄できるものと信じているのであった。
 
 
「アレクシオス殿下!」
 
 
 王の執務室に向かって歩を進めていたアレクシオスの元へ、国王付きの近衛騎士団第一部隊の騎士服をまとった騎士が数名駆け寄ってきた。
 
 
「何事だ?」
 
 
 アレクシオスとマリベルを取り囲むように立ち止まった騎士たちに不穏な空気を読み取って、アレクシオスは訝しげに問いかけた。
 
 
「恐れ入りますが、速やかに謁見の間へお越しください。国王陛下がお待ちです」
 
 
「何だ。それなら今から父上の元へ参るつもりだったから丁度良い」
 
 
 アレクシオスがそう言ってマリベルを抱き寄せると、騎士がそれを制止する。
 
 
「申し訳ございません。陛下は、アレクシオス殿下がお一人で参られる事をお望みですので、そちらのご令嬢を共にお連れする事はできません」
 
 
「何だと? ……まあ良い。では、マリベルに部屋を用意しておけ。父上の話が済み次第、すぐ呼べるよう謁見の間に近い方が良いだろう」
 
 
「……承知いたしました」
 
 
「マリベル、済まないが少し待っていてくれるか? 父上の話が済んだら、君を父上に紹介する」
 
 
「はい、かしこまりましたわ。お待ちしております。でも、なるべく早く呼びにきてくださいませね?」
 
 
 マリベルはそう言って妖艶な笑みを浮かべた。それを見たアレクシオスが相好を崩す。
 
 
「もちろんだとも。すぐに呼んでやろう」
 
 
 二人の熱愛的なやり取りを黙認する騎士たちの表情は一切変わらない。

 マリベルは僅かに不満そうに眉を上げたが、マリベルに見惚れているアレクシオスは気づかなかった。
 
 
「殿下、参りましょう」
 
 
 アレクシオスと共に謁見の間へ向かう騎士とマリベルを部屋へ案内する騎士とに分かれると、まずはアレクシオスたちが先に歩き出し、少し間をおいてマリベルたちが歩き出した。
 
 前を行くアレクシオスの背を真っ直ぐ見据え、ほくそ笑むマリベルの様子には誰一人気付かないまま――
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