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本編
03
しおりを挟む約一ヶ月間の昏睡状態から覚醒して十日ほどが過ぎたある日、ようやく体力が戻りつつあるということで、渋る両親を説得して久しぶりに外出をすることが決まった。
病み上がりなのだからと、随分早い時間帯に門限を決められてしまったが、王都の貴族街にある屋敷から中心街へ出て街歩きをするには十分な時間をもらうことができてホッとする。
元々、屋外活動より屋内活動の方が好きで、昏睡する前は暇さえあれば書庫に閉じこもっているような生活を送っていたので、この療養期間中も特に苦に思うことはなかったが、やはり自由に外出できるというのは嬉しい。
――護衛という名の監視さえついていなければ。
(何でこうなったかなぁ……)
僕の後ろに付き従うようについてくる男たち。
彼らはマールグリット伯爵家が個人的に雇っている警備兵で、普段は屋敷の警備に当たっている人たちだった。
そして、僕の世話係でもある従者が一人、荷物持ちとして付いてきている。
当初は母が付いてくると言い張っており、十六歳にもなって母親同伴というのは流石に恥ずかしいので、どうにか宥めすかして諦めてもらったことを思うと、いくらかマシになったと言えるだろう。
万が一、母が共に来ることになっていたら護衛も従者も倍以上の人数になっていたはずで、のんびり街歩きをすることは不可能になるところだった。
「……あれ? 今日、もしかして自由市の日?」
中心街をのんびり歩いていると、中央広場の方からやってくる人々が、喜色満面で色んな物を抱えていることに気づいた。
ちなみに自由市というのは、青空市とも呼ばれている、毎月一日に王都中心街の中央広場で実施される催し物のことだ。
王都の商業ギルドに事前申請をすれば、商人以外の民間人でも露店を開くことができ、美術品や工芸品、魔道具など、中古品や訳あり品となっている多種多様の物が手頃な価格で売買される。
僕の中にある“藍原瑛斗”の記憶によると、フリーマーケットと呼ばれる催し物に似ているらしい。
(……なんて、随分馴染んでしまったな……)
十日前、前世の記憶が蘇ったときには酷く混乱し、落ち着いてからもこちらの世界では耳馴染みのない言葉を使って両親を困らせてしまっていた。
最近は、暇を見つけては記憶を整理するようにしているため、不意を突かれなければ口に出すことは無くなってきていると思う。
「自由市、ご覧になられますか?」
「うん、見に行きたい」
従者のキースに問われ、僕は一も二もなく頷いた。
普段は用事がなければ屋敷と学院の往復くらいしかしていなかったが、都合が合うときには自由市を見に行っていたので、開催日である今日、こうして出かけてきたのには何かの縁を感じる。
「畏まりました。では、私は先行して、入場証を手に入れて参ります」
「わかった。入場証をもらったら、ここへ戻ってくるのではなくて広場の出入口で待ってて」
ここから中央広場までは大した距離でもないので、キースが戻るのを待つより、自分が歩いて行った方が手間が掛からない。
護衛もいることだし、一人で向かっても問題はないだろう。
「……承知いたしました。あちらでお待ちしております」
キースは渋々といった様子で了承すると、一礼をしてから足早に先行していった。
護衛がついているので、スリや強盗に遭うことはないだろうが、キースが心配しているのはそこではなく、僕が歩いている最中に昏倒し、再び意識不明になってしまう可能性を危惧しているのだ。
キースが僕のそばを離れると、護衛との距離が縮まったので、彼らもそれを踏まえて行動していることがわかる。
(心配してくれているのはありがたいけど、何だかなぁ……)
息が詰まるとまでは言わないが、体格の良い男たちに囲まれると圧迫感があるし、自身の貧弱さが際立つので居た堪れなくなる。
(まぁ、良いけどね……)
これも両親からの愛だと思えば邪険にはできない。
そんなことを考えながら、ゆっくりと歩を進めた。
10
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