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王子の頼み

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 俺の顔を見てもピンときてないみたいだ。この反応、天真も前世を覚えていないのか……? 思わず呼んでしまったせいで、天真は訝しげに俺を睨んだ。空気がピリついてる。これはまずい。言い訳を考える俺の口を、陽凪が塞いだ。

「この子の知り合いに王子が似ていたみたいでして」
「そんなことはいい。お前たちに話がある。俺についてこい」
「はい」

 天真と陽凪の後を追う。状況を飲み込めてない俺に陽凪がまた耳うちをしてくれた。

「天真も前世を覚えていないんだ。あと天真の顔してても一応王族だから。敬意は忘れずに」
「わ、わかった。すげえ違和感あるな……」
「でもほかの王族に比べたら話しやすい方だよ。それはありがたいかな」

 入った部屋は王子の執務室らしき場所だった。それでも俺の部屋の10倍くらいありそうな広さだ。壁の本棚には分厚い本が並べられていて、執務用の机の上には書類がたくさん積まれている。

 王子の天真は執務用机の手前に置かれたソファに腰かけた。俺たちもその正面に座るよう促される。

「俺はアレク。見ての通りこの国の王子だ。お前の名は?」
「フォルです」
「フォル……噂は聞いている。お前が魔物を払う力を持っているというのは本当か?」
「この紋章が光って、魔物が逃げていきました」

 左手の紋章を天真王子に見せると「そうか……」と腕を組んだ。思い悩む様子の天真に陽凪が問いかけた。

「あの、どうして王に謁見できなかったのでしょうか」
「それは……」
「王に何かあったんですか」

 天真は俺を見た。俺のことを見定めているみたいな視線だ。

「王子、何か困ったことがあったんですよね。俺でよければ力になります!」

 身を乗り出し、真っすぐ見つめ返した。悩みがあるなら相談してほしい。天真が前世を忘れていようとも、俺たちは同じアイドルグループで、一緒に歩んできた仲間なんだ。

 天真は肩をおろし、微笑んだ。

「立場上、素性の分からない者に気を許すわけにはいかないんだが、どうしてかお前と話していると不思議と緩んでしまう」
「!」
「それがフォルの力です。フォルは優しくて他人のためにも頑張ることができる。みんなフォルのことが大好きなんです」

 陽凪が俺の肩に手を置いて微笑む。ちょっと買い被りすぎじゃないかと思うけど、そう思ってくれてるのは嬉しい。前世を忘れていても、俺たちが過ごしてきた日々は残ってる。じんわり心が温かくなった。

「……今から話すことは機密事項だ。絶対に国民に漏らすな」

 天真は両手を握りしめて息を整えた。こわばった真剣な表情に変わる。

「王は今朝突然倒れた。今も意識不明だ」
「倒れた!?」

 陽凪も言葉を詰まらせている。

「医者に診てもらったが、原因は不明。今すぐ命に関わることはなさそうだが、原因が分からない以上、いつ悪化してもおかしくないと……」

 黙り込んでいた陽凪は顔を上げた。

「そのことを、国民に公表する予定は……」
「できない。ただでさえ各地で魔物の被害が出ていて状況が悪い。さらに国民を不安にさせるだけだ。悟られる前に一刻も早くなんとかしたい」
「原因が分からないということは、魔物の力なんでしょうか」
「決まったわけではないが、俺もそれを疑っている。そこでフォル、お前に頼みがある。お前の力が特別なものなら、その力で原因を突き止められないか?」
「俺の力で……」

 俺の力は神様いわく勇者の力なんだろうけど、あの一回きり、まだ魔物を追っ払ったことしかない。

 医者に分からないんだったら暴走した魔物が関わっているかもしれない。アズノストならそれも分かるはずだ。

「俺の力はまだ一度しか発動してなくて俺自身でもよく分からないんです。けど、魔物の魔法について詳しい人を連れてきます。明日、王様の病状を診せてもらってもいいですか」
「その者は信用できるのか」
「はい」

 俺はアズノストを信じる。魔物が疑われているけどアズノストは絶対にやっていない。きっと力になってくれる。

 天真は俺の目を真っ直ぐ見つめ、大きく頷いた。

「分かった。では明日また来てくれ。俺の直感ではお前を信用してもいいと思っているんだが、完全に証明されたわけではない。それに周りの目もあるからな。警護はたくさんつけるぞ」
「ありがとうございます!」
「礼を言うのはこちらの方だ」



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