転生勇者と転生魔王は平和を欲す

計画的な犯行

（……少し真面目な話になる。王の瘴気についてだ）
（あの瘴気！　魔物が原因って疑われてたけど、本当にそうだったのか気になってたんだ）

　王様をみたとき、アズノストは瘴気と言ってたけど、詳しい話はしてなかった。あの場では言えないこともありそうだし……

（……あれは、知らない瘴気だったんだ）
（魔王が知らない瘴気って、そんなのあるのか？）
（どんなに薄くなっていても瘴気に含まれた魔力で種族の判別はできる。だがそれは魔物であればの話だ）

　魔物であれば……ということは……

（原因は魔物じゃないんだな！　暴走した魔物のせいだったらまた魔物側が悪者になってしまうって思ってたんだ。あれ、それならなんであの場で原因は魔物じゃないって言わなかったんだ？　疑いを晴らせたかもしれないのに）

　沈黙とともに、小さく唸るように喉が鳴る音が聞こえた。

（結論から話す。この件は計画的なものだ。事故でも魔物の暴走でもない。魔物以外の何者かが王を狙って起こした事件だ）
（え……？　ど、どういうこと）

　計画的なもの……？　
　いきなり言われても頭がついていかないし、言葉も出てこない。アズノストの次の言葉を待った。

（瘴気は、人間から見て有害な物質ということなんだ。人間に害をなしてやろうと魔力を使えば瘴気になる。魔物だけでなく、人間、精霊、天使、神……魔力が使えるなら誰だって瘴気を作リだせる。あの瘴気は王が死なないようにうまく調整されていた。高度な技術が必要だ。ただの魔力の暴走でああはならない）

　陽凪に包まれて暖かいはずの背筋に寒気が走った。王様を狙うなんて、犯人は何を考えているんだ。

（なんで王様を……）
（その理由が分からない。城内は、王が倒れたのは魔物のせいだという共通認識があった。あの場で魔物以外の存在を示したら次は俺が疑われていただろう。犯人は魔物に罪をなすりつけたいということだ）
（濡れ衣じゃん。納得いかない！）
（そういうものだ。気にするな。もともと魔物に信用はないからな）

　アズノストの声には諦めが感じられる。魔物は疑われる……俺だってアズノストのことを知らなかったら、きっと魔王や魔物のせいにしていただろう。疑うだけじゃなくてちゃんと本質を見極めて判断しないといけない。

（それよりも心配なのはフォルだ。君の町を襲ったスライムもだし、ここ最近、理由不明なことが続いている。何か繋がりがありそうだ。フォルの周りで得体の知れないものが動いているような、嫌な感じがするんだ。君のことは必ず守るが、本当に注意してくれ）
（ありがとう。気をつけるよ。それでもやっぱり魔物の濡れ衣は納得いかない。俺は世界が平和になって、魔物に対しての偏見をなくしていきたい。そのためにも平和作戦を頑張らないとな）
（フォル……君は優しいな……）

　包まれているみたいに柔らかな声だった。
アズノストだって優しいだろ。自分のことは後回しにして、魔物や俺や、人間のことまで考えてくれている。アズノストが味方でいてくれるのがものすごく心強い。こんな人が不幸になるのは納得いかない。

（正直ちょっと怖い、けど、犯人の思惑通りにしてやってたまるか。そのためにも明日、セイレーンの秘薬を手に入れないとな。陽凪と楓月ともうまくやってくれよ）
（……善処する。そもそも、今……一緒に寝て……腹がた……いや、うらやま……）
（え？　ちょっとよく聞こえないんだけど……）

　声が小さいのか、アズノストの魔力が不安定になっているのか、途切れ途切れになって聞き取れない。

（いや、何でもない。ではまた明日。おやすみ）
（あ、ちょ……）

　一方的に挨拶をされ、声が聞こえなくなった。なんだよ、変なところで話やめるなよ。気になるけど、明日も早いし寝よう……

　昨日よりも強く陽凪に抱きしめられて、少し苦しかった。