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恋人編ー3年生夏休み
浴衣と夜空に咲く花①
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地元に帰り、和真と過ごす夏休み。予定が合う日は必ず一緒に過ごしている。基本は和真の家でダラダラしてる。それがいちばん落ち着くし。ほんとはずっと一緒にいたいけど、モデルの仕事で呼ばれたり、和真も友達と会う日があって毎日ってわけにはいかない。
んで、8月も終わりかけの今日、地元の花火大会に和真と行く約束をしている。東京某所の祭りには行かないのかって? あんな人混み行ってられっか! あれは人に揉まれて流されてるだけだ。楽しむどころじゃねえだろ。
和真と一緒に夏祭りなんて初めてだ。屋台も花火も、和真と一緒なら全部楽しみだけど、いちばんはなんといっても……
和真の浴衣姿!
毎年毎年、ダチと祭りに行くたびに和真の浴衣姿が見たいって思って、でもそんなチャンスないって諦めてたけど……今夜、それが叶う。オレの夢のひとつが叶う。
鼻歌でも歌っちまいそうなくらいの上機嫌で祭りに行く準備をする。
自分で浴衣着付けして、髪のセットも普段と変えて、沙羽に教えてもらったメンズメイクして、気に入ってるピアスつけて……洗面所の大きな鏡で自分を見る。
ちょっと気合い入れすぎか……? いや、出し惜しみはナシだ。
「璃央、今日は気合い入ってるね」
「やば笑 今までにないぐらいキメてるじゃん」
リビングを通る時、姉らに目をつけられて茶化された。明莉が花鈴の着付けをしている。明莉は普段の部屋着だから、祭りには行かないんだろう。
「っせーな、別にいいだろ! 花鈴こそ誰と行くんだよ」
「友達」
「彼氏いねーのか」
「うるさい! いないんじゃなくて、作ってないだけ! 今は自由を楽しんでるの! 和真と上手くいってるからって生意気!」
「そこまでムキになんなよ!」
「2人とも、暴れたら浴衣崩れるよ」
明莉の制裁が入り、オレと花鈴は口をつぐんだ。
「ほら璃央、着付け上手くできてるか見るからこっち来て」
「ん」
姉らの前で、くるんと一回転して見せる。正面に戻ると明莉は頷いた。
「綺麗にできてる。着るの上手くなったねぇ」
「うし。んじゃ、行ってくる」
「ちょい待って璃央」
花鈴に呼び止められる。祭り用のカゴバッグをゴソゴソし、数枚の絆創膏を渡された。
「どーせ、カッコつけて下駄履いてくんでしょ。靴擦れなんかしたらダサいし台無しだからね」
「……おう、ありがと」
こういう時の花鈴の勘はよく当たる。ありがたくもらっておこう。
「いってらっしゃい、楽しんでね」
「いってくる」
和真の浴衣姿を思い浮かべながら、足早に和真の家を目指す。和真は黒の服が多いから黒……でも明るい紺も良いな。もう何でもいいから和真の浴衣が見たい! 早く会いたい!
オレの気分をさらに上へとあげるみたいに、履いた下駄が高らかに鳴った。
そんで家から出てきた和真は……
Tシャツにズボンにサンダル……!?
いつもと同じ格好の和真はオレを見てふんわり笑った。
「わっ、浴衣だ……! 髪もいつもと違うし、え、メイクもしてんの! すげえ似合ってる!」
「あ、ありがと」
ベタ褒めじゃん。気合い入れた甲斐があった。
……って、そうじゃなく!
「いや、お前は!? 浴衣じゃねーの!?」
「うん。持ってないし」
「なっ……な……!?」
浴衣を、持ってない……!? 浴衣着てほしいって言ってなかったオレも悪いけど、祭りには浴衣だろ……!? オレは毎年毎年、明莉に着付けをされて、自分でも着れるようになったってのに……!
「持ってない!? 祭りには、浴衣を着るもんだろ!?」
「男は持ってる方が少数じゃない?」
「は……!?」
思わずオレは、和真宅に勢いよく突入してリビングの扉を開いた。
「おばさん! 和真の浴衣ないのか!?」
「あら璃央くん! 浴衣似合ってるね、かっこいい!」
「あざす!」
こうやってすぐに褒めてくれるところ、家族だなって思う。
「……じゃなくて! 和真の浴衣!」
「ごめんね、小さい頃はあったんだけど、大きくなってからは要らないって。友達で着てる人いないからってねえ」
ガーン……と頭におもりが乗しかかった。
「ちょ、璃央! 何言ってんだよ、早く行こう!」
「ゆ、浴衣……」
「ないもんはない!」
和真に腕を引っ張られ、家を後にする。
祭り会場の方向に向けて、夕陽に染まる住宅街を歩いていく。足がすげえ重い。和真の家に向かう時は高らかに鳴っていた下駄の音が、今は虚しくカラコロと響いてる。17時の公園に鳴る子どもの帰宅を促す音楽みたいな、もの寂しさ。柄にもなく詩的になっちまうぐらいショックだ……
「そんなに落ち込む?」
「落ち込むわ……」
「じゃあ来年。来年の楽しみにとっといて」
和真は照れくさそうに笑う。かわいい。そりゃ来年も祭りは一緒に行くのは当たり前だ。けど……
「無理」
「は!?」
「来年まで待てるかぁ! ハッキリ言うけどオレは今日、祭りよりも花火よりも屋台よりも、この世の何よりもお前の浴衣を楽しみにしてたんだ! このまま引き下がるわけにはいかねえ……!」
オレの家に男モノの浴衣は1着しかない。
こうなったら……
「今から買いに行くぞ!」
「今から!?」
「イ◯ン行くぞ、イ◯ン! 花火には間に合うだろ!」
「ちょ、今日そんなお金持ってきてないんだけど!?」
「オレが見たいんだから、オレの奢りだ!」
和真の腕を掴み、引っ張って走り出す。コンクリートを蹴った下駄が大きな音を立てた。
「璃央が買うのか!? ちょ、待っ、下駄なのに、速いな!」
「はは! これで走ったら、50メートル走どっちが速いだろうな!」
「ま、負けるかも……」
「おし、ちょうどバス来た! 乗るぞ!」
んで、8月も終わりかけの今日、地元の花火大会に和真と行く約束をしている。東京某所の祭りには行かないのかって? あんな人混み行ってられっか! あれは人に揉まれて流されてるだけだ。楽しむどころじゃねえだろ。
和真と一緒に夏祭りなんて初めてだ。屋台も花火も、和真と一緒なら全部楽しみだけど、いちばんはなんといっても……
和真の浴衣姿!
毎年毎年、ダチと祭りに行くたびに和真の浴衣姿が見たいって思って、でもそんなチャンスないって諦めてたけど……今夜、それが叶う。オレの夢のひとつが叶う。
鼻歌でも歌っちまいそうなくらいの上機嫌で祭りに行く準備をする。
自分で浴衣着付けして、髪のセットも普段と変えて、沙羽に教えてもらったメンズメイクして、気に入ってるピアスつけて……洗面所の大きな鏡で自分を見る。
ちょっと気合い入れすぎか……? いや、出し惜しみはナシだ。
「璃央、今日は気合い入ってるね」
「やば笑 今までにないぐらいキメてるじゃん」
リビングを通る時、姉らに目をつけられて茶化された。明莉が花鈴の着付けをしている。明莉は普段の部屋着だから、祭りには行かないんだろう。
「っせーな、別にいいだろ! 花鈴こそ誰と行くんだよ」
「友達」
「彼氏いねーのか」
「うるさい! いないんじゃなくて、作ってないだけ! 今は自由を楽しんでるの! 和真と上手くいってるからって生意気!」
「そこまでムキになんなよ!」
「2人とも、暴れたら浴衣崩れるよ」
明莉の制裁が入り、オレと花鈴は口をつぐんだ。
「ほら璃央、着付け上手くできてるか見るからこっち来て」
「ん」
姉らの前で、くるんと一回転して見せる。正面に戻ると明莉は頷いた。
「綺麗にできてる。着るの上手くなったねぇ」
「うし。んじゃ、行ってくる」
「ちょい待って璃央」
花鈴に呼び止められる。祭り用のカゴバッグをゴソゴソし、数枚の絆創膏を渡された。
「どーせ、カッコつけて下駄履いてくんでしょ。靴擦れなんかしたらダサいし台無しだからね」
「……おう、ありがと」
こういう時の花鈴の勘はよく当たる。ありがたくもらっておこう。
「いってらっしゃい、楽しんでね」
「いってくる」
和真の浴衣姿を思い浮かべながら、足早に和真の家を目指す。和真は黒の服が多いから黒……でも明るい紺も良いな。もう何でもいいから和真の浴衣が見たい! 早く会いたい!
オレの気分をさらに上へとあげるみたいに、履いた下駄が高らかに鳴った。
そんで家から出てきた和真は……
Tシャツにズボンにサンダル……!?
いつもと同じ格好の和真はオレを見てふんわり笑った。
「わっ、浴衣だ……! 髪もいつもと違うし、え、メイクもしてんの! すげえ似合ってる!」
「あ、ありがと」
ベタ褒めじゃん。気合い入れた甲斐があった。
……って、そうじゃなく!
「いや、お前は!? 浴衣じゃねーの!?」
「うん。持ってないし」
「なっ……な……!?」
浴衣を、持ってない……!? 浴衣着てほしいって言ってなかったオレも悪いけど、祭りには浴衣だろ……!? オレは毎年毎年、明莉に着付けをされて、自分でも着れるようになったってのに……!
「持ってない!? 祭りには、浴衣を着るもんだろ!?」
「男は持ってる方が少数じゃない?」
「は……!?」
思わずオレは、和真宅に勢いよく突入してリビングの扉を開いた。
「おばさん! 和真の浴衣ないのか!?」
「あら璃央くん! 浴衣似合ってるね、かっこいい!」
「あざす!」
こうやってすぐに褒めてくれるところ、家族だなって思う。
「……じゃなくて! 和真の浴衣!」
「ごめんね、小さい頃はあったんだけど、大きくなってからは要らないって。友達で着てる人いないからってねえ」
ガーン……と頭におもりが乗しかかった。
「ちょ、璃央! 何言ってんだよ、早く行こう!」
「ゆ、浴衣……」
「ないもんはない!」
和真に腕を引っ張られ、家を後にする。
祭り会場の方向に向けて、夕陽に染まる住宅街を歩いていく。足がすげえ重い。和真の家に向かう時は高らかに鳴っていた下駄の音が、今は虚しくカラコロと響いてる。17時の公園に鳴る子どもの帰宅を促す音楽みたいな、もの寂しさ。柄にもなく詩的になっちまうぐらいショックだ……
「そんなに落ち込む?」
「落ち込むわ……」
「じゃあ来年。来年の楽しみにとっといて」
和真は照れくさそうに笑う。かわいい。そりゃ来年も祭りは一緒に行くのは当たり前だ。けど……
「無理」
「は!?」
「来年まで待てるかぁ! ハッキリ言うけどオレは今日、祭りよりも花火よりも屋台よりも、この世の何よりもお前の浴衣を楽しみにしてたんだ! このまま引き下がるわけにはいかねえ……!」
オレの家に男モノの浴衣は1着しかない。
こうなったら……
「今から買いに行くぞ!」
「今から!?」
「イ◯ン行くぞ、イ◯ン! 花火には間に合うだろ!」
「ちょ、今日そんなお金持ってきてないんだけど!?」
「オレが見たいんだから、オレの奢りだ!」
和真の腕を掴み、引っ張って走り出す。コンクリートを蹴った下駄が大きな音を立てた。
「璃央が買うのか!? ちょ、待っ、下駄なのに、速いな!」
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「ま、負けるかも……」
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