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其の弐 指輪は待っている
十二
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小箱は、掌にすっぽり収まるほどの大きさだった。ただこちらは紙製ではなく、ベルベットで覆われた高級感漂うものだった。
そのあしらいで、中に何が入っているのか見当がついた。初名はそういったものを見るのが初めてなので少し浮足立ったが、和子は……怪訝な顔をしていた。
弥次郎が、そんな和子に向けてそっと蓋を開けて見せた。
中には、思った通りのものが収まっていた。銀色に光る、小さなダイヤがついた、指輪だ。
「何……これ……?」
「お前の旦那が、お前のために買うとったもんや」
和子は眉根を寄せて、後退った。
「こんなん知らんわ。こんな綺麗な指輪、持ってへん。だって『いらん』て……」
「ホンマのことや。確かに、お前には『いらん』て言うたみたいやけどな」
「それやったら、何で……」
「……直接、聞いてみたらええ」
そう言うと、弥次郎は指輪にそっと触れた。まるで眠っている赤子を揺り起こすような柔らかな触れ方だった。触れられた銀色の指輪は、その指の動きに従い光を跳ね返して……ぴくりと動いた。
そして永い眠りから覚めたように、ぴょんと跳ね上がった。立ち上がった姿は、銀色の輪から小さな手足が生えてどこからか声が聞こえるという、何とも奇妙な光景だった。
「!?」
ぎょっとして飛びのいたのは初名だけだった。飛びのいた拍子に、背後にいた風見にぶつかってしまったが、風見は顔色一つ変えず、ただ静かに告げた。
「今は気絶せんといてくれよ」
「……はい」
初名は何とかこらえて、和子の姿を見守った。和子は、驚きよりも畏怖のような感情を浮かべて、動いている指輪を見つめていた。
「100年にはちいと足らんけど、俺が力を貸して、一時的に付喪神と同じ力を持っとる。直接話してみぃ」
弥次郎に促され、指輪はひょこっとお辞儀をした。
「ごりょんさま、この度はほんまに、ご愁傷様です。長年のお勤め、ご苦労様でございました」
『ごりょんさま』とは、これもまた古い大阪弁で、主人の妻を指す。正確には若奥様の意なのだが、この名で呼ぶということが、この指輪が彼女を古くから見知っているという証であるように初名には思えた。
それがわかるからだろううか、彼女は、さらに眉をしかめてじっと見つめていた。
「『ごりょんさま』やなんて……そんな呼び方せんといて。誰もそんなこと思てへんくせに」
「そやけど主さんが、あんさんを奥方やと認めてはったんやから、それ以外に呼び方なんてあれへんやないですか」
「そんなわけあれへん。あの人は仕方なく結婚したんや。跡継ぎも産んだら、あとは自分の世話係くらいにしか思てへんかった」
「そんなことありまへん。聞いておくなはれ」
「嫌や、嫌や、聞きたないわ!」
耳をふさいで目を逸らした和子の肩を、横から弥次郎がそっとたたいた。
「聞いた方がええ」
やじろうにそう言われ、和子は改めて指輪の方を向いた。かろうじてうつむき、やや視線をそらせていた。
「やはり、ごりょんさまはそのように思てはったんですな。確かに主さんは、あんさんに酷い行いをしてはりました。そやけど、表に出さへんだけで、何も思てへんわけやあれへん。わしは聞きました。主さんはあんさんに優しくできんかったこと、ずっと後悔してはりました。そして、ずっと妻として支えてくれたことに深く感謝してはりましたんや」
そのあしらいで、中に何が入っているのか見当がついた。初名はそういったものを見るのが初めてなので少し浮足立ったが、和子は……怪訝な顔をしていた。
弥次郎が、そんな和子に向けてそっと蓋を開けて見せた。
中には、思った通りのものが収まっていた。銀色に光る、小さなダイヤがついた、指輪だ。
「何……これ……?」
「お前の旦那が、お前のために買うとったもんや」
和子は眉根を寄せて、後退った。
「こんなん知らんわ。こんな綺麗な指輪、持ってへん。だって『いらん』て……」
「ホンマのことや。確かに、お前には『いらん』て言うたみたいやけどな」
「それやったら、何で……」
「……直接、聞いてみたらええ」
そう言うと、弥次郎は指輪にそっと触れた。まるで眠っている赤子を揺り起こすような柔らかな触れ方だった。触れられた銀色の指輪は、その指の動きに従い光を跳ね返して……ぴくりと動いた。
そして永い眠りから覚めたように、ぴょんと跳ね上がった。立ち上がった姿は、銀色の輪から小さな手足が生えてどこからか声が聞こえるという、何とも奇妙な光景だった。
「!?」
ぎょっとして飛びのいたのは初名だけだった。飛びのいた拍子に、背後にいた風見にぶつかってしまったが、風見は顔色一つ変えず、ただ静かに告げた。
「今は気絶せんといてくれよ」
「……はい」
初名は何とかこらえて、和子の姿を見守った。和子は、驚きよりも畏怖のような感情を浮かべて、動いている指輪を見つめていた。
「100年にはちいと足らんけど、俺が力を貸して、一時的に付喪神と同じ力を持っとる。直接話してみぃ」
弥次郎に促され、指輪はひょこっとお辞儀をした。
「ごりょんさま、この度はほんまに、ご愁傷様です。長年のお勤め、ご苦労様でございました」
『ごりょんさま』とは、これもまた古い大阪弁で、主人の妻を指す。正確には若奥様の意なのだが、この名で呼ぶということが、この指輪が彼女を古くから見知っているという証であるように初名には思えた。
それがわかるからだろううか、彼女は、さらに眉をしかめてじっと見つめていた。
「『ごりょんさま』やなんて……そんな呼び方せんといて。誰もそんなこと思てへんくせに」
「そやけど主さんが、あんさんを奥方やと認めてはったんやから、それ以外に呼び方なんてあれへんやないですか」
「そんなわけあれへん。あの人は仕方なく結婚したんや。跡継ぎも産んだら、あとは自分の世話係くらいにしか思てへんかった」
「そんなことありまへん。聞いておくなはれ」
「嫌や、嫌や、聞きたないわ!」
耳をふさいで目を逸らした和子の肩を、横から弥次郎がそっとたたいた。
「聞いた方がええ」
やじろうにそう言われ、和子は改めて指輪の方を向いた。かろうじてうつむき、やや視線をそらせていた。
「やはり、ごりょんさまはそのように思てはったんですな。確かに主さんは、あんさんに酷い行いをしてはりました。そやけど、表に出さへんだけで、何も思てへんわけやあれへん。わしは聞きました。主さんはあんさんに優しくできんかったこと、ずっと後悔してはりました。そして、ずっと妻として支えてくれたことに深く感謝してはりましたんや」
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