105 / 109
終章 あやかし横丁の仲間
一
しおりを挟む
風見と清友が五十数年ぶりに再会したーー!
その知らせは、あっという間に横丁中に広まった。ここに身を寄せるのは、古くは戦国の世、新しくは戦後という、時代背景まで豊かな豊かな面々だった。
風見が清友とちょくちょく交流していたことをよく知っている者がほとんどであるため、その喜びようは、不思議な事に本人以上である者も見られた。
皆、喜んでいたのだ。喜びすぎて、その日は店を閉め、全員が集まって宴会を始めるほどに、喜んでいた。
「宴会て……何でお前らが騒ぐねん!!」
そんな賑やかな面々を見回して、風見が叫ぶ。何故なら、皆が集まったのが、いつも会合を開いている集会所であり、風見の住処だからだ。
集まった面々を叱り飛ばす風見を、弥次郎と辰三がまあまあと宥めて、座らせていた。
「ええがな。この五十年ほど、特に悪いこともなかった代わりにええこともなかってんから」
「だからって人の”ええ事”で騒ぐなや」
「わかってへんなぁ、風見さんは……風見さんが嬉しいことは、僕ら皆も、嬉しいんや」
「……へ?」
賑わっていた場が、一気にしんと静まりかえった。視線が、一気に辰三に集まる。
「なに?」
「タツが……めちゃくちゃええ事言うた……!」
目を見開いて驚く弥次郎に、全員が賛同した。
「な、何やねん、それ。失礼やな」
「いや、日頃の行いっちゅうかなんちゅうか」
「もうええよ。今のなし! 琴ちゃん、団子新しいのないか……」
照れ隠しなのか、厨房の琴子のもとへ行こうとした辰三を、横からのびた手が引き留めた。それまで団子が載っていた皿を奪って、ニッコリと笑って見せた。
「お団子は私が取って来てあげますから、辰三さんは座っててくださーい」
ようやくできた反撃の機を逃すまいとしている、初名だった。皿を奪われてはどうしようもない。辰三は諦めて座り込んだ。その様子を満足して見つめ、初名は厨房に向かおうとした。すると、その皿が更に横から奪われた。
「初名ちゃんこそ、座っとき」
「ラウルさん? いや、そんなわけには……何かお手伝いさせてください」
「ええ子やなぁ。そやけど君、主賓やねんから、大人しく座っとくのも礼儀やと思って、な?」
子供を宥めるように言い聞かせ、ラウルは去って行った。色々と、訳がわからないまま初名は立ち尽くしていた。
「主賓て……なに?」
「そらそうやろ」
ふわりと真っ白な煙が天井に向かって上るのと同時に、その言葉は聞こえた。見ると、弥次郎が酒や肴は置いて、一服していた。
「私……何か歓迎されるようなことしました? むしろいつもお邪魔したり、ごちそうになったりだったと思うんですけど……」
そう言って首をかしげる初名を見て、弥次郎は目を瞬かせていた。次いで、風見、そして辰三とも目を見交わしていた。
「キミ……ええ子っちゅうか、お人好しっちゅうか……」
「そこまで行くとただの鈍感やな」
「ど、鈍感!?」
辰三と弥次郎は、首を振って呆れてしまった。食い下がって問いただそうとする初名だったが、その眼前に、温かな皿とカップが差し出された。
見ると、そこにはニコニコと笑って並ぶ琴子と礼司がいた。
「初名ちゃんはええ子よ。お客さん連れて来てくれて、帰るときも付き添ってくれたもん」
「立派な、常連客や」
あの、老人のことを指しているのだろうか。そのことを考えると、初名は少し胸が痛む。結局、自分はあの老人の助けにはなり得なかったのだ。
だが、琴子たちはそんなことは知らない。今も、あの”知人だった”老人の来訪を心待ちにしている。
だから、初名はあの老人のことはもう、口にしないことに決めていた。
その知らせは、あっという間に横丁中に広まった。ここに身を寄せるのは、古くは戦国の世、新しくは戦後という、時代背景まで豊かな豊かな面々だった。
風見が清友とちょくちょく交流していたことをよく知っている者がほとんどであるため、その喜びようは、不思議な事に本人以上である者も見られた。
皆、喜んでいたのだ。喜びすぎて、その日は店を閉め、全員が集まって宴会を始めるほどに、喜んでいた。
「宴会て……何でお前らが騒ぐねん!!」
そんな賑やかな面々を見回して、風見が叫ぶ。何故なら、皆が集まったのが、いつも会合を開いている集会所であり、風見の住処だからだ。
集まった面々を叱り飛ばす風見を、弥次郎と辰三がまあまあと宥めて、座らせていた。
「ええがな。この五十年ほど、特に悪いこともなかった代わりにええこともなかってんから」
「だからって人の”ええ事”で騒ぐなや」
「わかってへんなぁ、風見さんは……風見さんが嬉しいことは、僕ら皆も、嬉しいんや」
「……へ?」
賑わっていた場が、一気にしんと静まりかえった。視線が、一気に辰三に集まる。
「なに?」
「タツが……めちゃくちゃええ事言うた……!」
目を見開いて驚く弥次郎に、全員が賛同した。
「な、何やねん、それ。失礼やな」
「いや、日頃の行いっちゅうかなんちゅうか」
「もうええよ。今のなし! 琴ちゃん、団子新しいのないか……」
照れ隠しなのか、厨房の琴子のもとへ行こうとした辰三を、横からのびた手が引き留めた。それまで団子が載っていた皿を奪って、ニッコリと笑って見せた。
「お団子は私が取って来てあげますから、辰三さんは座っててくださーい」
ようやくできた反撃の機を逃すまいとしている、初名だった。皿を奪われてはどうしようもない。辰三は諦めて座り込んだ。その様子を満足して見つめ、初名は厨房に向かおうとした。すると、その皿が更に横から奪われた。
「初名ちゃんこそ、座っとき」
「ラウルさん? いや、そんなわけには……何かお手伝いさせてください」
「ええ子やなぁ。そやけど君、主賓やねんから、大人しく座っとくのも礼儀やと思って、な?」
子供を宥めるように言い聞かせ、ラウルは去って行った。色々と、訳がわからないまま初名は立ち尽くしていた。
「主賓て……なに?」
「そらそうやろ」
ふわりと真っ白な煙が天井に向かって上るのと同時に、その言葉は聞こえた。見ると、弥次郎が酒や肴は置いて、一服していた。
「私……何か歓迎されるようなことしました? むしろいつもお邪魔したり、ごちそうになったりだったと思うんですけど……」
そう言って首をかしげる初名を見て、弥次郎は目を瞬かせていた。次いで、風見、そして辰三とも目を見交わしていた。
「キミ……ええ子っちゅうか、お人好しっちゅうか……」
「そこまで行くとただの鈍感やな」
「ど、鈍感!?」
辰三と弥次郎は、首を振って呆れてしまった。食い下がって問いただそうとする初名だったが、その眼前に、温かな皿とカップが差し出された。
見ると、そこにはニコニコと笑って並ぶ琴子と礼司がいた。
「初名ちゃんはええ子よ。お客さん連れて来てくれて、帰るときも付き添ってくれたもん」
「立派な、常連客や」
あの、老人のことを指しているのだろうか。そのことを考えると、初名は少し胸が痛む。結局、自分はあの老人の助けにはなり得なかったのだ。
だが、琴子たちはそんなことは知らない。今も、あの”知人だった”老人の来訪を心待ちにしている。
だから、初名はあの老人のことはもう、口にしないことに決めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる