貧乏神食堂おおもり

真鳥カノ

文字の大きさ
46 / 54
三皿目 鉄壁のカツに勝て!

戦いのゴングは鳴る

しおりを挟む
 その『勝つ丼』を見たトンちゃんは、大きな瞳を更に大きくして、夜空の星よりも煌めかせていた。
「美味しそうやなぁ。相変わらず、金さんはすごいわ……って、金さんはどこ行ったん?」
 トンちゃんが周囲をキョロキョロ見回す。
「えーと……ちょっと急用で……」
 言えない。この丼を作るために力を使い果たし、厨房でぐったりしているだなんて、とても言えない……。
 ごまかすように、陽菜はストップウォッチを手にした。
「後のことは任されてます。えーと、制限時間は三〇分。お水、ソースなどは必要な時に言ってください。それでは……用意、スタート!」
 ストップウォッチのボタンを押す。盤面で、数字がめまぐるしく動き始めた。
 同時に、トンちゃんの箸もまた、勢いよく動き始める――と思ったのだが、何故か動かない。
「あの、スタートしないんですか?」
「……うん。大丈夫、もう始める」
 そう言うと、トンちゃんは一度、すぅっと大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そして箸を握り直すと、大きく口を開く。
『ばくっ』という音が聞こえてきそうだった。厚切りにされたトンカツを切り分けてある。トンちゃんは、その一切れを一口で食べてしまった。しかも飲み込むまでの時間も、ものの数秒と、とんでもなく速い。喉に詰まらせないか、心配になるほどだ。
 だが、そんな不安は無用とばかりに、トンちゃんは次々とカツを頬張っていく。
「店員さん! えーと、陽菜ちゃん? キャベツちょうだい!」
「え?」
 追加注文ということだろうか。これだけの大盛りを前にして、更に注文をする人は、見たことがなかった。
 思わず厨房を振り返ると……タヌキの小さな手が、ちょいちょいと手招きをしていた。
 陽菜は、それを見られないように足早に厨房に駆け込む。
「これ、渡したって」
 陽菜が厨房に戻るなり、金さんはそう言って、千切りキャベツが山盛りになった器を差し出してきた。
「わかりましたけど……こんなの出して大丈夫ですか? 余計に厳しくなるんじゃ……?」
「大丈夫。世の中にはな、陽菜ちゃん以外のバケモンもおるんやで」
 その言い方だと、陽菜が『バケモン』ということになるが……ひとまず黙って聞くことにした。
「さっきも言うたけど、あの子は常連さんでな。今まで何回もデカ盛りカツ丼を食べきってきたんや。その胃袋とフードファイトの素養は確かなもんや」
 確かに、咀嚼を少なく、水で飲み込むような食べ方は、大食いチャレンジによくある『戦い方』だ。よくある手法としてはもう一つ、味変を利用するというものもある。ソースや調味料で味に飽きないようにする工夫だが、金さんの出したカツ丼は追加のソースなどはなく、それほど味変要素はない。
「キャベツが、あの人にとっての味変なんですね」
「そうや。あの子にとっては、キャベツくらい塩胡椒かけるのと同じくらい、大した負担やあれへんのや」
 とはいえ目の前の器には、キャベツがこんもり盛られている。さすがに胃袋を圧迫しそうなものだ。
「あとこれもな」
 そう言って、キャベツの器と一緒に、麦茶がなみなみ注がれたジョッキを持たされる。ちょうどその時、カツに夢中になっていたトンちゃんからお声がかかる。
「すみません! お茶おかわりください!」
「はーい」
 金さんには、陽菜には見えないものが見えているのかもしれない。
 そう思い、陽菜はキャベツとお茶を携えて、厨房から駆けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...