付喪神、子どもを拾う。

真鳥カノ

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SS「天狗と狐と付喪神~出会いには油揚げを添えて~」

……ということがあったとさ

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「……なんてこともあったなぁ」
「忘れろよ、そんな昔のこと」
 今日も今日とて剣の家を訪れた伊三次は、勝手知ったるなんとやらで着くなり縁側に座ってのんびり過ごしているのだった。
 しかも一緒になってひなたぼっこをする悠に、出会った日の思い出を語って聞かせる。剣としては、ちょっと恥ずかしい思い出なので、できれば聞かせたくはなかったのだ。
 あの日と同じように恥ずかしそうに渋い表情を見せる剣を、伊三次はクスクス笑って見つめた。
「勘弁してくれ。あの時は俺もちょっとこう……店を任されて張り切っていたというか、抑えが効かなかったというか……とにかくこう、勢い任せな時で……」
「今だって同じだろうが」
 伊三次の切り返しにぐうの音も出ない剣は、人数分のお茶だけ置くと、さっさと台所に戻ってしまった。
「本当にあいつは、料理以外はからきしだし、料理のこととなると周りが見えないよなぁ」
 会席料理で管狐たちの腹を満たしてくれた剣に、伊三次は改めて礼を述べ、自らの素性を伝えた。剣の主と旧知であり、常連客であることだ。
 剣もまた、その姿勢に敬意を表して、自らのことを話した。
 剣の主たちが何代にもわたって使っていた包丁から生まれた付喪神であることを。それを聞いて、なんだか色々なことが伊三次の中で符合したのだった。
(本当に、料理のことしか頭にない料理バカの付喪神とはな……)
 付喪神とは、道具などが百年使われて意思を持って生まれるあやかしだ。手足が生えた姿がよく描かれている。その意思を以て、持ち主たちに悪さをすると言われているのが専らの噂なのだが……
(こいつは心配ない)
 あの日、伊三次はそう思った。双子が「油揚げが好きだ」と言ったらバカ正直に油揚げばかりの料理を作って喜ばせようとした愚直な心に触れれば、誰でもそう思うはずだ。
 あれ以降、伊三次たちはそれまで以上に足繁く店に通うようになった。
 ただ、さすがに『油揚げの会席』はご遠慮願った。剣はいつでも作れるようにという心構えでいてくれたようだが。
 そんなことを思い出して、一人ふっと笑う伊三次を、悠がつんつん引っ張った。
「どうした?」
 尋ねると、悠は伊三次と周囲にいた銀・銅に視線を巡らせた。
「……あぶらあげ、おいしい?」
 先ほど伊三次が言った『油揚げをこれまで食べた中で一番美味しく食べられる会食料理』のことだろうか。
 伊三次も銀も銅も、三人がそれぞれ視線を交わした。
 そして……三人とも、大きく頷いた。
「それはもう、美味でした」
「あれほどの料理、そう味わえるものではなかったのぅ」
「俺も後で食わせてもらったが、あれは美味い……! だが……」
「「「もう1回は勘弁」」」
 悠はきょとんとしている。美味しかったなら何度でも食べたいのが心情の悠だから、致し方ないが。
 だが伊三次たちはあの日初めて知ったのだ。
 好物を当分食べたくなくなるほどの威力を持つ料理があることを。そんなものを作る料理人がいるということを。
「まぁ……ある意味、悠が剣のことを大好きなのと同じだ」
「いさじたちも……けん、大好き?」
「……まぁ、そうだな」
 伊三次は肩を竦めながら、苦笑いと共に認めた。
 あの時、剣のことを厄介な奴だと思いつつも、優しく懐が大きく真摯であり、そして、これまで出会った中で最高に面白い奴だと思ったことを。
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