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SS「天狗と狐と付喪神~出会いには油揚げを添えて~」
会席料理の正体
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「……だとさ」
剣の言葉を伝えると、双子は喜んでいると見せつつ、その奥底に焦りを押し隠した仄苦い表情を見せた。自分から油揚げが食べたいと言った手前、撤回しづらいものとみた。
しかも、食べれば美味しいのだからなおのこと。
「なぁ、会席料理なら、あと揚げ物とご飯と水菓子があるよな? 何が出るのか、先に聞いてもいいか」
「それは後のお楽しみだよ」
「いえ、ぜひとも先にお聞きしとうございます!」
「ご飯などはどうでしょうか? 香の物と留め椀と合わせて白いご飯でしょう?」
先ほど油揚げの入った炊き込みご飯いなり寿司を食べたところだから、ここでまで油揚げとは関係しないだろうと思ったのだろう。だが、剣はニッコリと素晴らしい笑顔を浮かべた。
「仕方ないな。じゃあ教えるが……卵とネギと出汁の味をたっぷり吸い込んだ油揚げを載せた、木の葉丼だ」
尋ねた銀が、言葉を無くした。代わりに銅が何かの希望を込めたような瞳で尋ねた。
「で、では揚げ物は? 油揚げが既に揚げてあるものなのでどのようなものを……?」
「ふっふっふ……それはな」
どうやら今から作るつもりだったらしく、用意していたものを二人に見せた。それは、きちんと水抜きされた上で薄く切り分けられた豆腐だった。いつもなら何のことかわからないが、今日は、これまでの流れで察しが付いた。
しかも剣の得意げな笑みが、その予想を確信めいたものに変えた。
「揚げ物……まさしく油揚げは揚げ物だからな。待ってな。これから揚げたての美味い油揚げを食べてもらうからな」
油揚げの会席料理に『出来たて油揚げ』とはこれ如何に……と、伊三次は思ったが、黙っておいた。
代わりに、もう一つ気になっているであろう事を尋ねた。
「じゃあ『水菓子』は何なんだ? さすがに油揚げは無理だろ?」
「ああ、さすがに『水菓子』とはどうしたって呼べないからな。だから……」
そう言うと、剣は何やらごそごそして奥から何かを取り出した。銀と銅に向けて、堂々と見せたそれは……
「『冷や奴』だ。油揚げの元になる豆腐だし、この会席料理の最後にはぴったりだろう」
伊三次の横で、ひっと息を呑む声が聞こえた。だがそんな声は、いそいそと楽しそうに次の皿の準備をする剣には聞こえていない。
伊三次は仕方なく……嬉々として、剣に言った。
「あ~羨ましい。どれもこれも美味そうじゃねえか~。俺も食いたかったけど……こいつら専用なんじゃ仕方ねえな~」
「「主様!?」」
双子が揃ってぎょっとした表情を伊三次に向けるが……伊三次はニヤリと笑いながら続けた。
「折角の機会だ。お前らは好物を思いっきり頂くがいいさ。俺はその後冷や酒と何かつまみを頼む。油揚げは……全部こいつらに食わせてやってくれや」
「言われなくとも」
「主様!?」
「剣殿!?」
双子の声が、ついに悲鳴に変わった。
その悲鳴の意味を、剣は最後まで理解せず、只々、二人に喜んで貰おうと精一杯調理してくれたのだった。
その日、双子は何故だか疲弊した面持ちで帰路に就き、伊三次は美味い料理と酒と面白い光景で腹を満たして上機嫌な足取りでいたのだった。
剣の言葉を伝えると、双子は喜んでいると見せつつ、その奥底に焦りを押し隠した仄苦い表情を見せた。自分から油揚げが食べたいと言った手前、撤回しづらいものとみた。
しかも、食べれば美味しいのだからなおのこと。
「なぁ、会席料理なら、あと揚げ物とご飯と水菓子があるよな? 何が出るのか、先に聞いてもいいか」
「それは後のお楽しみだよ」
「いえ、ぜひとも先にお聞きしとうございます!」
「ご飯などはどうでしょうか? 香の物と留め椀と合わせて白いご飯でしょう?」
先ほど油揚げの入った炊き込みご飯いなり寿司を食べたところだから、ここでまで油揚げとは関係しないだろうと思ったのだろう。だが、剣はニッコリと素晴らしい笑顔を浮かべた。
「仕方ないな。じゃあ教えるが……卵とネギと出汁の味をたっぷり吸い込んだ油揚げを載せた、木の葉丼だ」
尋ねた銀が、言葉を無くした。代わりに銅が何かの希望を込めたような瞳で尋ねた。
「で、では揚げ物は? 油揚げが既に揚げてあるものなのでどのようなものを……?」
「ふっふっふ……それはな」
どうやら今から作るつもりだったらしく、用意していたものを二人に見せた。それは、きちんと水抜きされた上で薄く切り分けられた豆腐だった。いつもなら何のことかわからないが、今日は、これまでの流れで察しが付いた。
しかも剣の得意げな笑みが、その予想を確信めいたものに変えた。
「揚げ物……まさしく油揚げは揚げ物だからな。待ってな。これから揚げたての美味い油揚げを食べてもらうからな」
油揚げの会席料理に『出来たて油揚げ』とはこれ如何に……と、伊三次は思ったが、黙っておいた。
代わりに、もう一つ気になっているであろう事を尋ねた。
「じゃあ『水菓子』は何なんだ? さすがに油揚げは無理だろ?」
「ああ、さすがに『水菓子』とはどうしたって呼べないからな。だから……」
そう言うと、剣は何やらごそごそして奥から何かを取り出した。銀と銅に向けて、堂々と見せたそれは……
「『冷や奴』だ。油揚げの元になる豆腐だし、この会席料理の最後にはぴったりだろう」
伊三次の横で、ひっと息を呑む声が聞こえた。だがそんな声は、いそいそと楽しそうに次の皿の準備をする剣には聞こえていない。
伊三次は仕方なく……嬉々として、剣に言った。
「あ~羨ましい。どれもこれも美味そうじゃねえか~。俺も食いたかったけど……こいつら専用なんじゃ仕方ねえな~」
「「主様!?」」
双子が揃ってぎょっとした表情を伊三次に向けるが……伊三次はニヤリと笑いながら続けた。
「折角の機会だ。お前らは好物を思いっきり頂くがいいさ。俺はその後冷や酒と何かつまみを頼む。油揚げは……全部こいつらに食わせてやってくれや」
「言われなくとも」
「主様!?」
「剣殿!?」
双子の声が、ついに悲鳴に変わった。
その悲鳴の意味を、剣は最後まで理解せず、只々、二人に喜んで貰おうと精一杯調理してくれたのだった。
その日、双子は何故だか疲弊した面持ちで帰路に就き、伊三次は美味い料理と酒と面白い光景で腹を満たして上機嫌な足取りでいたのだった。
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