鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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序章 枯れ庭から外へ

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 藤堂家は維新前より続く武家だった。江戸の御代には立派な和の邸宅を構えており、維新後にはその旧邸宅をそのまま離れとして利用していた。
 時代が明治の世に移り、今では大正の世。現在は西洋の建築様式を取り入れた洋風の邸宅を本邸として利用している。
 本邸は父の代になって建てたものだ。
 西洋建築にあこがれを抱いていた父が、当主となってすぐに建てたものだ。
 あちこちにごてごてとした装飾が為され、なんだか落ち着かない。
(西洋の建物って、こんなに見栄えの悪いものだったかしら)
 数えるほどしか西洋建築を見たことのない綾でも、そう思う。口にはしないが。
 そんな父の趣味が全面に施された屋敷の中でもいちばん派手な部屋に、綾は通された。
「お父様。綾が参りました」
「おう、入れ」
 ドアの向こうから聞こえてきたのは、なんとも浮ついた声。もしや、機嫌がいいのだろうか。
 なんだか不気味に思いながらドアを開ける。すると、想像していた通りのにやけ顔が視界に入ってきた。その隣には憮然とした母もいる。
 壁や床の色と不釣り合いな色のソファーに、両親が座っている。
 テーブルをはさんだ正面には同じくソファがあるが、綾は立ったまま、恭しく二人に頭を垂れた。
「お父様、お母様、ご無沙汰しております。お元気そうで、うれしく思います」
 母は眉をピクリと動かしたが、父はかまわず笑っていた。
「ははは。綾、おまえもようやく娘らしい挨拶ができるようになったか。気ばかり強い生意気な娘で案じていたが……まぁ、頃合いだったのだな」
「頃合いとは?」
 許しもなく問い返してしまった。しまった、と綾は思ったが、父の方は気にした様子もない。そのままたばこに火をつけた。
「ああ、まぁ……気にするな。それよりも、だ……おまえ、あちらの方はどうだ?」
 何のことかわからず、首を傾げていると、父は少し苛立った様子で続けた。
「あれだ、あれ! あの……おぞましい異能だ」
 父はにやけ顔を崩さず、だが頬をひきつらせて言い放った。
「あれは……お言いつけ通り、使っておりません。火の粉一片たりとも出しておりませんとも」
 嘘だ。本当はさっき、庭の花を燃やした。綾なりの弔いのつもりだったとはいえ、炎を出したことが父に知られれば、今度は離れに追いやられるだけではすまなくなる。
 ぎゅっと手のひらを握りしめて伝えると、意外にも、父は驚いていた。
「本当か? まさか、おまえ……異能をなくしたのではあるまいな?」
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