2 / 26
序章 枯れ庭から外へ
二
しおりを挟む
藤堂家は維新前より続く武家だった。江戸の御代には立派な和の邸宅を構えており、維新後にはその旧邸宅をそのまま離れとして利用していた。
時代が明治の世に移り、今では大正の世。現在は西洋の建築様式を取り入れた洋風の邸宅を本邸として利用している。
本邸は父の代になって建てたものだ。
西洋建築にあこがれを抱いていた父が、当主となってすぐに建てたものだ。
あちこちにごてごてとした装飾が為され、なんだか落ち着かない。
(西洋の建物って、こんなに見栄えの悪いものだったかしら)
数えるほどしか西洋建築を見たことのない綾でも、そう思う。口にはしないが。
そんな父の趣味が全面に施された屋敷の中でもいちばん派手な部屋に、綾は通された。
「お父様。綾が参りました」
「おう、入れ」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、なんとも浮ついた声。もしや、機嫌がいいのだろうか。
なんだか不気味に思いながらドアを開ける。すると、想像していた通りのにやけ顔が視界に入ってきた。その隣には憮然とした母もいる。
壁や床の色と不釣り合いな色のソファーに、両親が座っている。
テーブルをはさんだ正面には同じくソファがあるが、綾は立ったまま、恭しく二人に頭を垂れた。
「お父様、お母様、ご無沙汰しております。お元気そうで、うれしく思います」
母は眉をピクリと動かしたが、父はかまわず笑っていた。
「ははは。綾、おまえもようやく娘らしい挨拶ができるようになったか。気ばかり強い生意気な娘で案じていたが……まぁ、頃合いだったのだな」
「頃合いとは?」
許しもなく問い返してしまった。しまった、と綾は思ったが、父の方は気にした様子もない。そのままたばこに火をつけた。
「ああ、まぁ……気にするな。それよりも、だ……おまえ、あちらの方はどうだ?」
何のことかわからず、首を傾げていると、父は少し苛立った様子で続けた。
「あれだ、あれ! あの……おぞましい異能だ」
父はにやけ顔を崩さず、だが頬をひきつらせて言い放った。
「あれは……お言いつけ通り、使っておりません。火の粉一片たりとも出しておりませんとも」
嘘だ。本当はさっき、庭の花を燃やした。綾なりの弔いのつもりだったとはいえ、炎を出したことが父に知られれば、今度は離れに追いやられるだけではすまなくなる。
ぎゅっと手のひらを握りしめて伝えると、意外にも、父は驚いていた。
「本当か? まさか、おまえ……異能をなくしたのではあるまいな?」
時代が明治の世に移り、今では大正の世。現在は西洋の建築様式を取り入れた洋風の邸宅を本邸として利用している。
本邸は父の代になって建てたものだ。
西洋建築にあこがれを抱いていた父が、当主となってすぐに建てたものだ。
あちこちにごてごてとした装飾が為され、なんだか落ち着かない。
(西洋の建物って、こんなに見栄えの悪いものだったかしら)
数えるほどしか西洋建築を見たことのない綾でも、そう思う。口にはしないが。
そんな父の趣味が全面に施された屋敷の中でもいちばん派手な部屋に、綾は通された。
「お父様。綾が参りました」
「おう、入れ」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、なんとも浮ついた声。もしや、機嫌がいいのだろうか。
なんだか不気味に思いながらドアを開ける。すると、想像していた通りのにやけ顔が視界に入ってきた。その隣には憮然とした母もいる。
壁や床の色と不釣り合いな色のソファーに、両親が座っている。
テーブルをはさんだ正面には同じくソファがあるが、綾は立ったまま、恭しく二人に頭を垂れた。
「お父様、お母様、ご無沙汰しております。お元気そうで、うれしく思います」
母は眉をピクリと動かしたが、父はかまわず笑っていた。
「ははは。綾、おまえもようやく娘らしい挨拶ができるようになったか。気ばかり強い生意気な娘で案じていたが……まぁ、頃合いだったのだな」
「頃合いとは?」
許しもなく問い返してしまった。しまった、と綾は思ったが、父の方は気にした様子もない。そのままたばこに火をつけた。
「ああ、まぁ……気にするな。それよりも、だ……おまえ、あちらの方はどうだ?」
何のことかわからず、首を傾げていると、父は少し苛立った様子で続けた。
「あれだ、あれ! あの……おぞましい異能だ」
父はにやけ顔を崩さず、だが頬をひきつらせて言い放った。
「あれは……お言いつけ通り、使っておりません。火の粉一片たりとも出しておりませんとも」
嘘だ。本当はさっき、庭の花を燃やした。綾なりの弔いのつもりだったとはいえ、炎を出したことが父に知られれば、今度は離れに追いやられるだけではすまなくなる。
ぎゅっと手のひらを握りしめて伝えると、意外にも、父は驚いていた。
「本当か? まさか、おまえ……異能をなくしたのではあるまいな?」
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる