鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第一章 桜舞う

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「この度のこと、大変申し訳もございません!」
 綾は、全身全霊の力を以て叫んだ。志乃の戸惑う声が降ってくる。
「綾さん、どないしたん? 何を謝らはることがありますのや?」
「すべて、です! 父の無礼極まりない行い、何のお役にも立てぬ身でありながらのこのこと、ここまで来てしまった私の無礼、そして……こんな私のために、辰々屋様に多大なご負担をおかけしてしまったこと……誠に、お詫びのしようもございません!」
 綾の周囲がざわついている。女中や奉公人たちも、何事かと覗いているようだ。だが、ここで詫びを止めるわけにはいかない。
「このお衣装やお道具のお金は、どれだけかかっても必ずお返しいたします。だからどうか……この度の非礼をお許し下さいませ」
「『許す』いうてもなぁ……そもそも怒ってへんし。それに『返す』て、どうやって返しますのや? 縁談は、どないしますのん?」
 矢継ぎ早の質問に、綾は言葉に詰まった。問いの一つ一つが鋭くて、ぐうの根も出ない。
 ここで勝手に縁談を白紙にして、莫大な借金を背負って、どうやって生きていくのか。謝罪に気を取られるばかりで、肝心のことを考えていなかった。
 狼狽える綾を見て、志乃は再びにっこりと微笑む。
「なあ、このお着物……気に入らへん?」
「え? そ、そのようなことは……」
「ほな、着たらよろしいやん」
「……へ?」
「ご両親のあのご様子やと、東京に戻るんも難しいんとちゃう?」
「……はい」
「ほな、うちにいたらよろしいわ。あちらさんが『あかん』でも、うちは大歓迎やさかい」
 もはや、言葉が出ない。ぽかんとして、瞬きするばかりの綾に、志乃はなぜかうっとりした目で語る。
「それがええわ。わてはな、息子が二人おるんやけど、ホンマは娘が欲しかったんや。一緒に可愛いもん、綺麗なもんを見て楽しゅうやりまひょ」
「え……そ、それは……」
 なんだか、状況がさっきよりも悪くなっている気がした。粉骨砕身、尽くすつもりが……今度は面白おかしく遊ぼうと言われている。
 どうすれば、そんな思考になるのか。混乱している綾に、志乃はそっと告げた。
「それにな、あんさんが『お役に立つ』のは、何も今すぐやのうてもええのやで」
「……え?」
 志乃の優しい笑みが、なにやら含みを持った。
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