鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第一章 桜舞う

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「わてにも、ちゃんと考えがあってのことだす。あんさん……異能がおありなんやて?」
「は、はい……」
「今、見せてもろても?」
 そう言うと、志乃は女中に目配せをした。女中はすぐにろうそくの載ったお盆を運んできた。
 綾の異能がどういうものか、知っているのだ。
 ここで、この場を飛び出すこともできるかもしれない。だが、それをさせない気迫が、志乃にはあった。
 綾は諦めて、手のひらを唇に近づけた。ふわりと花びらのような小さな火を作り、小さく息を吹きかける。努めて、優しく。
 すると、お盆の上に立てていたろうそくに、ぽつりと、火が灯った。火は、芯に宿って煌々と周囲を照らしている。
「確かに」
 志乃はしっかりと頷き、すぐにろうそくを吹き消した。
 綾は、なんだか拍子抜けしていた。藤堂家では、ほんの少し火の粉を出してしまっただけで父が狼狽え、そして怒り狂っていた。
 それに対して、目の前の志乃の、なんと悠然としたことか。
「異能を見たら怯えるか、好奇の目で見ると……そう思てましたんか?」
「は、はい……申し訳ございません」
「謝ることなんか、あれへん。今の世の中、そういうもんやさかいな。ホンマに生きづらいことや」
 その物言いに、ふわりと思い至るところがあった。
「あの……もしや、奥様も……?」
「なんや、ご両親から聞いてはらへんの? この辰巳家かて、武家の血筋なんでっせ。異能の一つや二つ、あっても不思議やあれへん」
「いえ、二つの異能を持つ人はいないかと……」
「とにかく。うちでは異能なんて珍しいもんでもなんでもないよって。気にせんでよろしい」
 志乃の言葉を咀嚼するのに、少しばかり時間がかかった。
「……え? 珍しくない? 異能者が、ですか?」
「そうや。わてもそうやし、うちの次男坊もそうや。奉公人にも何人かおりまっせ。それに……」
 志乃の視線が、ふいに綾から外れる。今いる客間の外を見つめているようだった。
 その視線を追うと、青々とした木々と、そこに点々と咲く花々が見えた。その更に奥――小さな木戸で仕切られた先に、建物が見えた。
「あそこにおる、あんさんの夫の宗一郎。あの子も、異能を持ってます」
「……氷の異能を、お持ちとか」
「なんや、知ってるんやないの。そら許嫁のことは知ってはるわな」
 なぜか、宗一郎の噂だけは聞こえていたのだ。辰巳家の『氷の跡取り』『シベリア帰りの氷結人間』と。それが彼の生まれ持った氷の異能を揶揄してのものだということも、有名だった。
「氷の男に、炎の嫁……帳尻の合う話やと思いまへんか?」
「帳尻だなんて……」
「ああ、そんな呼び方は嫌やろな。お似合いの二人やと、わては思います」
 言い方を変えたところで、意図は変わらない。それに対する綾の戸惑いも。
 首を傾げている綾の目の前で、志乃がパンと手を叩いた。
「ほれ、難しい顔せんと。ようは、あんさんはこのまま、うちに来たらよろしい。そういうこっちゃ」
 『そういうこっちゃ』とは、どういうことか……そう言いたかったけれど、綾には言えなかった……。
 だけど、疑問は消えないどころか、膨らむばかりだ。
(どうして奥様は、こんなにもよくしてくださるのかしら……?)
 そして、もう一つ。
(どうして私を、嫁として迎え入れてくださったのかしら?)
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