鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第一章 桜舞う

十一

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 先日見た、美しい純白の打ち掛け。いざ身に纏ってみると驚くほどするりと腕を通していく。ごわごわした触感など少しも感じることなく、着た途端に肌に馴染む。
 これが一級品というものかと、綾は驚いた。
 綾は、こんなに上質なものを与えられたことがない。
 着物だけではない。食事も、家族との時間も、人から受ける親切も。この店に来て、初めて知った気がする。
 だけど、与えてもらうばかりなのは今日まで。今までだって、準備期間だったのだ。
 今日、綾は正式にこの家の者になる。そして、この店の一員となって尽くす。
(できるのかしら、私に……?)
 女中たちも退席し、一人、鏡を覗き込む。すると、雪のような白無垢に、高く美しく結い上げられた島田髷の姿の綾がいた。
 自分でも見たことのない出で立ちに、首を傾げたくなる。
 だけど、そうする間もなく、背後で襖が開いた。
「入りますえ、綾さん……いやぁ! 綺麗やわぁ、さすがはうちの嫁や」
「えぇと……ありがとうございます」
 衣装が崩れないように、小さくお辞儀をする。
「さて……話した通り、嫁入り行列はありまへん。もう来てしもてるさかいな。お得意様方はもう並んでいただいてるよって、あんさんは、わてがお連れします。ええな?」
 綾はもう一度うなずく。そして、努めて静かに、短く尋ねてみる。
「あの……藤堂の両親は……?」
 志乃は、静かに首を横に振った。
「お見えになってまへん。まぁ……お忙しいて、知らせは頂いてましたしなぁ」
 綾は答える代わりに俯いた。まさか祝言まで不義理なことをするとは。申し訳なくて、志乃に顔向けが出来ない。
「ほれ、顔上げなはれ」
 よほど苦い面持ちだったのだろう。言われたとおり顔を上げると、志乃が励ますような明るい笑みを浮かべていた。
「せっかくの別嬪が台無しや。こうなることは察しがついてたんやさかい、気にせんでよろし」
「ですが……」
「おらへん人のことより、集まってくれた方のこと考えまひょ。わては早う、この綺麗なお嫁さんを紹介したいんやけど?」
 志乃はそう言って、手を差し出す。
 刻限なのだ。
 自分には、この手を取る以外、道はない。だけど、不思議とそんな焦りのようなものは感じなかった。
 この手をとっても許されるのかとわずかに戸惑う。だが志乃の笑みを見ていると、その迷いは鳴りを潜めるような気がした。
(宗一郎さんも、受け入れてくださるかしら)
 不安よりも期待の方が、少しばかり大きい。
 綾はこくりと頷いて、志乃の手を取った。
 その手に導かれて、廊下を進む。中庭の木々の緑が時折、陽光を跳ね返してきらりと光る。
 眩しさに目を細めていると、いつもお客様をおもてなしする応接間にたどり着いた。中にはすでに、参列のお客様が揃っているらしい。人の声がするのだが……。
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