鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第一章 桜舞う

十三

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 志乃の口上を聞いた一同から、ざわめきが消えた。そして、大きな笑いが起こったのだった。
「なんや、宗一郎はん、またかいな」
「ほんで、ごりょんさんに敵わへんのも『また』やなぁ」
「そやけど、まさか祝言の日にまでやらかすとは……一杯食わされましたで」
 そんな大笑いを、綾は唖然として聞いていた。けっこうな大事だと思うが、笑い事になっている……。
 もしや『よくあること』なのか。それはそれで不安だが。
 ちらりと、宗一郎に視線を向ける。何も言わず、憮然としたような、決まり悪そうな顔をしている。その頭を、志乃がペチンとはたく。
「ほれ、皆さんにお詫びしなはれ!」
 宗一郎はしぶしぶといった様子で居住まいを正し、深々と頭を下げた。
「も、申し訳ございませんでした……」
 大の男が縮こまって詫びる姿はなんとも、もの悲しい。祝言の場の主役だというのに……。
「さあさあ、ほな、仕切り直しまひょ。このアカンタレにもお嫁さんが来てくれましたよって。もっと厳かにお披露目しよ思てましたけんど、なんや和んでしまいましたわ。このまま、柔らかい空気で迎えたっておくれやす」
 志乃の言葉に、集まっていた者全員から拍手が起こった。初めてこの店の敷居をまたいだときと同じ、温かな拍手だ。
(お義母様、すごい……緊張感が一瞬で和らいでしまったわ)
 しかも、綾の緊張までほぐしてくれた。
 志乃の差し出してくれた手をとり、綾は一歩踏み出した。
 敷居を越えると、一同の視線が一斉に綾に降り注ぐ。誰一人、言葉を発しないまま頭を下げた。
 綾はきゅっと唇を引き絞り、声を出さないようにした。
 親族の席には、辰巳家に連なる人々が並ぶ。それに対して藤堂家の親族席には誰もいない……かと思ったら、大きなタヌキが座っていた。
(先日お会いしたタヌキのご隠居様?)
 綾を店の者たちに引き合わせた際に同席していたタヌキだ。
 祝言の日らしく、黒の紋付き袴を纏っている。しかし……なぜ、親族席に? 思わず凝視してしまっていると、タヌキはニッコリ笑い返してくれた。
 不思議と、和む笑顔だ。
 綾は小さく会釈して、志乃に向き直った。気付けば、参列者の中には、タヌキのご隠居以外にも人間ではないモノが多数いた。狐や猫、角の生えた男性、牙の見える女性まで。人間らしき客人は、何も言わない。気付いていないのか、黙認しているのか。
(これだけたくさんの『あやかし』のお客様がいらっしゃるなんて……この辰々屋さんというお店は、本当に何なのかしら)
 ほんの一週間では理解しきれない底深さだ。
 だが、綾にとってもっと底の知れないのは、目の前に座る男性だ。
(この人が、宗一郎さん……)
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