鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第一章 桜舞う

十四

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 黒い髪は整えることなくさらりと顔までかかっている。だがそれが儚げで、同時に爽やかな空気を生み出していた。
 俯いていて、その顔は見えない。だが心なしか、顔色が青いように見えた。先ほど派手な登場をしたから恥じているのかと思ったが、どうも様子が違う。
 手が震えている。袴を握りしめて、何かにじっと耐えているかのような様子だ。
 声をかけた方がいいのだろうか。そう思ったが、この場でできるはずもない。
 仕方なく綾は、志乃に導かれるまま、静かに宗一郎の前を通り過ぎる。その時――綾と宗一郎の間を遮るように、何かが横切った。
 黒くしなやかな身体のそれは勢いよくすりぬけ、あっという間に襖まで到達すると、すぐに踵を返して再び綾と宗一郎の間を駆け抜けた。
「ひゃっ⁉」
 あまりの勢いに、綾はよろめく。なんとか踏みとどまろうとするのだが、慣れない打ち掛けに足が思うように踏ん張れない。
「う、うわ……!」
 たたらを踏んだ綾は、畳に倒れていった。
「綾さん!」
 志乃の声が響いた。と、思うと誰かの腕に強く引かれ、倒れたのとは逆の方向に倒れてしまった。だけど、痛くない。誰かが受け止めてくれたのだとすぐにわかった。
「あ、ありがとうございます……え?」
 受け止めてくれたのは誰か。長めの黒髪で、黒い紋付き袴の、男性。先ほどは見えなかった顔がはっきりと見える。
 その切れ長の瞳が、綾の姿を捉えた。
「……怪我は、ないか?」
「は、はい……」
「そうか。良かった」
 宗一郎は、表情を緩めた。ホッとしているらしい。
 その柔らかな面持ちに、綾は思わず目を奪われた。だが次の瞬間、はたと我に返る。
「も、申し訳ございません! なんてことを……!」
 夫となる人に倒れかかってしまった。この場で初めて会ったというのに。
 綾は慌てて飛び退き、がばっと頭を下げた。
「あの……ええから、早よ……」
 宗一郎の声が詰まった。
 どうしたんだろうか。綾はそっと、宗一郎の顔を覗き込む。だがその視線を、宗一郎自身によって遮られる。
「あの、どうかなさったんですか?」
「大丈夫……やから……」
 宗一郎が必死な様子で視線を逸らす。同時に、なんだか足下をひんやりした空気が這った。
(……寒い?)
 急にどうしたのか。そう思っていると、参列者までが身を震わせたり、寒いと呟いたりし始めた。
 傍にいた志乃が、何かに気付く。
「宗一郎」
 志乃が声をかけるも、宗一郎は更にうずくまっていく。そして、両手で自身の肩を抱いて、なにやらぶつぶつ呟く。
「さ……い……」
「……『寒い』ですか?」
 宗一郎はうなずきもせず、ただ同じ言葉を繰り返す。気付けば、その頬はすっかり青ざめるどころか、うっすら霜がついていた。
「え?」
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