鬼嫁はんとばけもん旦那~大正異能夫婦(めおと)喜譚~

真鳥カノ

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第二章 赤い蕾

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『会わせたい者』と言うからには、外出するのかと思ったが、違った。
 志乃は綾を引き連れて、店の奥……つまりは住居の更に奥へと進んでいくのだった。綾が大阪に来てから今まで、覗かないようにと言われていた場所だ。
 両替商という商売柄、大きくて頑丈な蔵があることは知っている。きっとこの奥には、もう一つ倉があって、更に大事なものを収めているのだろう……そう考えていた。
 だが行ってみると、そこにあるのは蔵ではなく、こぢんまりとした一室だった。
 物が極端に少ないが、障子が家の中のどの部屋よりも大きい。開け放たれたそこからは庭の花が視界いっぱいに入って眩しいくらいだ。この部屋のためだけに誂えた庭のようだ。
 そして、部屋の中には人影がちょこんと座っている。
「秀二郎、調子はどないや?」
「お母ちゃん……朝も言いました通り、いつもよりもうんと気分がええですわ」
 綾よりも年下の、少年だった。ニコリと笑う顔があどけなく、可愛らしいと思った。
 そしてすぐに、『秀二郎』という名に思い至った。
「もしかして……宗一郎さんの弟さんの……?」
 綾の言葉に、秀二郎と呼ばれた少年は振り向いた。そして、花びらがはらりと舞うように、柔らかく微笑むのだった。
「初めまして。あなたが綾さん……兄さんのお嫁さんですね」
 畳の上に正座する秀二郎は、綾の妹の紗代子よりも小柄な印象だ。色白で、細い体躯であり、儚げである。
 思わず、なんと声をかけていいのか迷ってしまうほどに。
 そう思っていると、秀二郎の方が静かに頭を下げた。
「……不調法を重ねてきたこと、申し訳ありまへん」
「へ? そ、そんな私の方こそ……ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません!」
 綾は慌てて畳に手をつき、秀二郎よりも深く頭を下げた。頭上で、秀二郎がクスリと笑う声が聞こえる。
「お義姉さんが謝らはることはあらしまへん。僕が、ここのところ調子を悪うしとって遠ざけとったばっかりに、余計なご心配をおかけしてしもたようで……」
 女学校にいた、おしとやかな淑女のようだった。
(私……もしかして、とてもガサツなのでは……?)
 そう、心配になってしまった。
 そこに、大きく凜とした声が割って入った。
「ほらほら。お詫び合戦はそれくらいにして、お互いに紹介しなはれ。これから、家族の一員になるんやさかい」
 綾は志乃に促され、秀二郎の前に座った。
 自然とぴんと背筋が伸びて、自ら畳に手をついていた。
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