副業の(魔)王様! ~人間界出稼ぎライフはじめました~

真鳥カノ

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序章 ゴミ拾いのバイト様

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 メガネ男が放り出すと、頭目は地面にべしゃっと倒れ落ちた。
 襲撃者の中で起き上がる者は、もういない。
「もう……安心、ということ?」
 アーデルハイトから零れ出た問いに、メガネ男は首を傾げる。
「さぁな。人間の、それも悪党の考えは読めない」
「……は?」
「ところで、一つ尋ねたいのだが……」
 そう言うと、メガネ男は無遠慮にもアーデルハイトに近づいてくる。至近距離で顔を見て、彼が意外と整った顔立ちだと気付いたが、それよりも心臓がドクンドクンと爆音を立てていることの方が重要だ。
 さっき盗賊の頭目に迫られたときは冷や汗と恐怖でいっぱいだったものだが、今は違う。何が違うのかは、説明できない。そんな余裕がない。
 そんなアーデルハイトの目の前で、メガネ男は指を一本、突き立てる。
 そしてその指をすっと動かして……倒れている盗賊たちを指さした。
「あいつらの処理を頼めるか? このくずカゴには入りそうにない」
「……はい?」
 ぽかんとするアーデルハイトに、メガネ男は悪びれず答える。
「見たところ、あんた方は貴族なんだろう? それも、かなり高位と見た」
 アーデルハイトの全身を見て、メガネ男は言う。そのことには嫌悪感を持たなくもないが、今はただ、黙って頷いた。
「……それが何か?」
「金と権力があるんだ。こういった、庶民の手には余る大きな汚れ仕事は任せた」
 ずいぶん強引な理屈だ。
 だけど混乱から立ち直れていないアーデルハイトは、またも頷くしかできなかった。
 その頷きを了承と受け取ったのか、メガネ男は立ち上がった。
「ま、待って……せめて、警備兵を呼んで来てもらえませんか?」
 そう、口にした瞬間だった。遠くで馬が集団で走っている音が聞こえた。
「……俺が行くまでもないようだ」
 メガネ男は、そのまま踵を返して立ち去ろうとする。それを少しでも引き留めたくて、アーデルハイトはどうにか裾を掴んだ。
 メガネ男は動きを止めて、意図を図りかねている目で見つめてきた。
「あの……お、お名前は?」
 たどたどしく尋ねる声に、メガネ男は一瞬考え込むそぶりを見せる。
 そして、くいっとメガネを押し上げて答えた。
「ただのゴミ拾いだ。副業バイトの、な」
 そう答えると、メガネ男は今度こそ歩き去ってしまった。来た時と同じようにカゴとトングを携えて、道をキョロキョロ見ている。
 その後ろ姿を、アーデルハイトは茫然と見つめるしかできなかった。
 それは、騒ぎを聞きつけた騎士団が到着し、アーデルハイトと侍女たちを保護してからも、ずっと続いていた。
副業バイトのゴミ拾い……掃除屋様?」
 呟く声はメガネ男には届かず、森の木々のざわめきに吸い込まれていった。
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