副業の(魔)王様! ~人間界出稼ぎライフはじめました~

真鳥カノ

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第1章 荷物運びの(魔)王様

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「おい新人! そっちの荷物はできるだけ丁重に運べ! お貴族様のものだ」
「承知した」
 ライは指示のあった積み荷を慎重に抱えて歩いた。一人で。
 作業用のグローブをはめる手にも、力が入る。
「あの……本当に、ちょびっとでも傷つけたら、危ないぞ? もう一人くらい、いるか?」
「心配ない。俺一人でじゅうぶんだ」
 この現場の主任は、檄を飛ばす割にとんでもなく及び腰で様子を窺ってくる。振れ幅の大きさに、ライは内心で戸惑うばかりだった。
(それほど重要な荷物なんだな。よく注意して運ばねば……)
 船から降ろされた荷物を、指示に従って右から左へ運べばいい……そう簡単に考えていた自分を、ライは心の中でいさめた。
 どうしてなかなか……複雑だ。
 荷物の届け先別に集め、更に荷物の種別に分けて積み上げ、更には急ぎかそうでないかも踏まえて荷馬車に振り分ける……それらを、手元にある書類とにらめっこしながら、瞬時に仕分けていく。
(あの主任……ただ怒鳴り散らしているだけではない。なんと頭の回転の速い人物だ)
 あの男の指示ならば従おう……そう決意したライだった。だが、その矢先だった。
 主任から、一人呼び出されたのは。
「お前さん、明日は別の区画に行ってくれるか?」
 港は広い。商業区の荷を下ろす区画もあれば、王侯貴族の荷を扱う区画もある。
 今日、ライが働いていたのは前者の市民たちの荷が届く区画だった。なんでも海の向こうの国と新たに取引が始まったとかで、大量に輸入品が届くのだとか。
 だからこそ、離れた街にまで募集の依頼が来るほど、人手を欲しがっていたわけだが……。
「今日いた区画は、明日もまだ荷が溢れかえると聞いているが……いいのか?」
「まぁ、何とかするさ。それよりお前さん……今日、なにやら騒ぎを起こしたらしいな」
「騒ぎ?」
 なんのことかと首を傾げると、主任の方から答えてくれた。
「馬車の騒ぎだよ。一人で馬車を抱え上げたそうだな」
「ああ……あれか」
 事もなげにライがそう言うと、主任はため息混じりに続けた。
「あの時、お前に助けられた貴族の旦那が、お前さんのことを調べたらしくてな。ぜひ荷物を任せたいと、ご指名なんだ」
(あの時、血まみれだった人間か……無事だったのか)
 それほど感慨にふけることはないが、目の前で苦しんでいるところを見てしまった身としては、無事がわかるとやはり安心する。
 おまけにこうして仕事に直結したなら、なおさら。
「わかった。明日の指示を聞こう」
 ライは了承の旨を告げた。だが、主任の方はどうにも不安そうだ。
「何か?」
「いや、まぁ……断るわけにいかねえのは、わかるんだがな」
 どうにも、はっきりしない物言いだった。ライの眉が、知らず知らずきゅっと眉間に寄っていたらしい。
 主任は唸りながらも、答えてくれた。
「どうにも、きな臭いんだよなぁ、あの旦那は」
「きな臭い、とは?」
「胡散臭いというか……この前まで没落寸前て噂だったのに、諸外国との貿易で儲かったらしくて、急に羽振りが良くなってな。そのくせ、荷物の中身を伏せてやがる」
「……荷の中身はすべて管理されているのでは?」
「どこにでも、大金を握らせれば黙る奴はいるもんだ。俺たちの上役とか、な。実際、お前に出す報酬も、上乗せどころの話じゃねえくらい高い」
 その貴族からの依頼の報酬は、元々予定していた仕事の報酬と比べものにならない金額だった。思わず疑ってしまうほどに。
 なるほど、と思った。
 いったい何を運ばされているのかわからないというのは、気分が良くないだろう。ライだって良いわけではない。
 だが身分を考えると、断るわけにはいかないというのも確かだ。
 そしてなにより、報酬がとんでもなく大きい。
「わかった、よく注意しよう」
「……頼んだ」
 何度目かわからないため息とともに、主任は力なくそう言った。
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