副業の(魔)王様! ~人間界出稼ぎライフはじめました~

真鳥カノ

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第1章 荷物運びの(魔)王様

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 例の貴族は、複数の者に声をかけたものと思っていた。
 だが来てみれば、ライ以外の作業員は一人もいないのだった。
「今日はよろしくお願いします」
 ライを待っていた、貴族の代理人と名乗る男は、恭しく頭を垂れた。
「ジルドール伯爵の秘書官・ベルリと申します。本日、積み荷を確実に運んで頂きたく、わざわざお越し頂いた次第です」
「荷運びの作業員をわざわざ指名するなど、聞いたこともないが?」
「そこは主の命ですし……私自身も、昨日の事故の噂を聞き及んでおります。主の命をお助け頂き、お礼申し上げます」
 そう言うと、ベルリは一度上げた頭を、もう一度深々と下げるのだった。
(人間というのは、よく頭を下げるな)
 自分の副官のことは、いとも簡単に棚に上げるライだった。
「では早速……こちらです」
「その前に、運ぶ荷とは何なのか、聞いてもよろしいか?」
 さっさと移動しようとしていたベルリが、ピクリと動きを止める。
「そういったことは追求しないこと、とお伝えしておいたかと……」
 ベルリの顔には笑顔が貼り付いている。心から浮かべているとは思えない笑みだ。
 要するに『訳アリ』の荷ということだ。
(俺にうってつけの仕事だな)
 この国どころか、南側諸国の人間ではないライなら、良くも悪くも諸国の事情に首を突っ込んだりしない。
 仕事が終われば姿を消し、余計な口封じも必要ない。足取りも掴ませないので、追われても問題ない……捕まっても問題ないが。
 そして、誰よりも破格の報酬を望んでいる。
 ニヤリと笑いそうになるのをこらえて、ライはベルリに従って歩いた。
「こちらを、お願いしたいのです」
 そう言って、ベルリが見せた『荷物』とは……
「……デカいな」
 高い山だの大きな岩だのは見慣れているライだが、目の前にある『荷物』は、それにしたって大きい。
 窓もない部屋に灯りもついていない真っ暗な部屋に、ただ一つ、大きな箱らしきものだけが置かれている。
 しかも上から真っ黒な布で覆われており、大きさ以外、何もわからない。
「さぁ、これを我が主の屋敷までお願いします」
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