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第2章 鍛冶屋の(魔)王様
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「ご主人、ここは天国なんすか?」
ルーグは目をキラキラさせてそう言う。
ライと合流してすぐは魔力不足でフラフラしていたが、時間が経つにつれ、こうして目の輝きを取り戻していった。
特に、自分が囚われていた港町セレスの近くでは震えていたが、街を出て街道を歩くにつれ、興味津々な様子で周囲をキョロキョロし始めるのだった。
楽しそうにしていた矢先に飛び出た言葉が『天国』とは。
「大袈裟な奴だ。ただの道だぞ」
「でもオレたちの住んでたところには、こんなにたくさん木が生えたりしてなかったっすよ。花も、草も、川も!」
「ああ……そうだな」
ライとルーグの故郷は岩山の方が多い。こんなにも緑が溢れた場所は、初めて見るのだろう。
ライも、人間たちの国々を見て回っていた頃は目を白黒させていたものだ。
「ここは特にのどかで美しいな。水辺の村だからか」
「向こうには山も見えるっす。山って、あんなに緑色なものなんすか?」
「……俺たちの見てきた山とは大きく違うようだ」
本当は、ルーグの見ている山こそ、ライたちの国と人間たちの国を南北に分断した山脈なのだった。
同じ山だというのに、北側は不毛の山肌で、南側は木々に覆われているとは、なんとも不可思議で理不尽で、羨ましいことだ。
だがルーグはそんなことは考えていないようだ。ただただ視界いっぱいに広がる緑の庭を堪能している。
「こんなにきれいな場所だから、ご主人は仕事を請けたんすか?」
「いや、次の仕事先はおそらくもっと殺風景だ」
ルーグがきょとんとしている。目の前の風景が突然消えてしまったような怪訝な顔だ。
「次の仕事場は鍛冶工房だ。なんでも武具の大量発注が入ったとかで、人手が足りないらしい」
「ええ!? じゃあご主人、鉄に触るんすか!?」
「そういうことになるな」
「えぇ~なんでわざわざ、そんなことするんすか? 石ならともかく、鉄は臭いし魔力もないし、いいことなしじゃないっすか……」
ルーグが思い切り顔をしかめる。
エルガディアの民は鉄や鋼、金や銀や銅にも馴染みがない。どれも魔力を通さないので、魔力が生活の中心となっているライたちには必要ないのだ。それどころか、あの冷たさや金臭さをことのほか嫌う傾向がある。
ライが偶然手に入れた鉱石から剣を鍛えようと炉を設置したときなど、ギルまでが苦情を入れたほどだ。
「そこだけはわからないっす。ご主人はなんであんな塊で遊ぶんすか?」
「遊んでいるんじゃない。人間の道具もあれば暮らしが豊かになると思ってだな……」
「でも……ご主人ほどの魔力があったら、必要ないじゃないっすか」
「魔力量の少ない者だっているだろう。そういう者は、魔力で石を割って、魔力核を取り出すことも難しいんだぞ。人間が使っているナイフだかハンマーだかがあれば、誰でもできるようになる」
納得いかない様子だった幼なじみに、ライは優しく丁寧に解説した。
人間たちの道具の便利さだけを説かれたなら不服だったのだろうが、同胞たちの暮らしに話が及んだためか、ルーグの顔はみるみる明るくほころんでいく。
ルーグは目をキラキラさせてそう言う。
ライと合流してすぐは魔力不足でフラフラしていたが、時間が経つにつれ、こうして目の輝きを取り戻していった。
特に、自分が囚われていた港町セレスの近くでは震えていたが、街を出て街道を歩くにつれ、興味津々な様子で周囲をキョロキョロし始めるのだった。
楽しそうにしていた矢先に飛び出た言葉が『天国』とは。
「大袈裟な奴だ。ただの道だぞ」
「でもオレたちの住んでたところには、こんなにたくさん木が生えたりしてなかったっすよ。花も、草も、川も!」
「ああ……そうだな」
ライとルーグの故郷は岩山の方が多い。こんなにも緑が溢れた場所は、初めて見るのだろう。
ライも、人間たちの国々を見て回っていた頃は目を白黒させていたものだ。
「ここは特にのどかで美しいな。水辺の村だからか」
「向こうには山も見えるっす。山って、あんなに緑色なものなんすか?」
「……俺たちの見てきた山とは大きく違うようだ」
本当は、ルーグの見ている山こそ、ライたちの国と人間たちの国を南北に分断した山脈なのだった。
同じ山だというのに、北側は不毛の山肌で、南側は木々に覆われているとは、なんとも不可思議で理不尽で、羨ましいことだ。
だがルーグはそんなことは考えていないようだ。ただただ視界いっぱいに広がる緑の庭を堪能している。
「こんなにきれいな場所だから、ご主人は仕事を請けたんすか?」
「いや、次の仕事先はおそらくもっと殺風景だ」
ルーグがきょとんとしている。目の前の風景が突然消えてしまったような怪訝な顔だ。
「次の仕事場は鍛冶工房だ。なんでも武具の大量発注が入ったとかで、人手が足りないらしい」
「ええ!? じゃあご主人、鉄に触るんすか!?」
「そういうことになるな」
「えぇ~なんでわざわざ、そんなことするんすか? 石ならともかく、鉄は臭いし魔力もないし、いいことなしじゃないっすか……」
ルーグが思い切り顔をしかめる。
エルガディアの民は鉄や鋼、金や銀や銅にも馴染みがない。どれも魔力を通さないので、魔力が生活の中心となっているライたちには必要ないのだ。それどころか、あの冷たさや金臭さをことのほか嫌う傾向がある。
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「そこだけはわからないっす。ご主人はなんであんな塊で遊ぶんすか?」
「遊んでいるんじゃない。人間の道具もあれば暮らしが豊かになると思ってだな……」
「でも……ご主人ほどの魔力があったら、必要ないじゃないっすか」
「魔力量の少ない者だっているだろう。そういう者は、魔力で石を割って、魔力核を取り出すことも難しいんだぞ。人間が使っているナイフだかハンマーだかがあれば、誰でもできるようになる」
納得いかない様子だった幼なじみに、ライは優しく丁寧に解説した。
人間たちの道具の便利さだけを説かれたなら不服だったのだろうが、同胞たちの暮らしに話が及んだためか、ルーグの顔はみるみる明るくほころんでいく。
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