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第2章 鍛冶屋の(魔)王様
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~本日のお仕事~
場所:カリナ村
業務内容:武具の大量製作の手伝い(職人大歓迎!)
依頼主:鍛冶工房ノール
報酬:日給 金貨1枚
工房の中は熱気に溢れていた。
火を扱っているから、というだけでなく、全体的に息苦しい。
おそらく、工房長のゲルハルトをはじめ、弟子たちまでが汗だくになって働いているせいだ。
トン、カン、トン、カンと甲高い音が絶え間なく響いている。しかも建物の外まで聞こえてくる。
だからだろうか、職人たちは誰一人として客人に気付かない。
雇用希望だからまだいいが、お客だったらどうするつもりなんだろう。
そう思っていると、工房でひときわ体格の大きな人影が寄ってきた。工房主のゲルハルトだろうか。
「おう、今は急ぎの注文が入ってて、他に対応できねえんだ。悪いがしばらく待ってくれ」
顔を見るなり、そんなことを言われた。きっと訪れた客全員に同じように言っているのだろう。
その顔には、明らかな疲労の色が浮かんでいる。目の下には濃い隈があった。
「ゲルハルトさん、この人は依頼に来たんじゃないみたいだよ」
アッシュがそう言うと、ゲルハルトは急に表情を緩めるのだった。
「なんだ、アッシュじゃねえか。こんなところで何してんだ?」
「こんなところって……故郷に里帰りだよ」
急に空気が軽くなったかと思うと、ゲルハルトは豪快に笑いながらアッシュの背中をバシバシ叩いている。
ライは説明を求めるようにアッシュに視線を向けた。
「ゲルハルトさん。この人はライさん。仕事のために来たって言ってたけど……?」
慌てて紹介してくれるアッシュに続いて、ライは依頼書を見せた。
「……確かに人手不足だから、遠くの街にも募集をかけたな。なるほど、あんたが……」
しげしげと依頼書を見てはライを見るゲルハルトの視線は、厳しく刺々しいものに見えた。
セレス港での仕事と同じように、また腕力や体力を証明しなければならないかと思われた。だが……。
「助かる! 今からでも仕事に入れるか!?」
観喜と悲哀の入り交じった……つまりは涙目で迫られてしまった。そんな目で見られては、答えは一つしかない。
「ああ……問題ない」
「よっしゃ! 戦力一人確保だ! 来てくれ、案内する」
さっきまでアッシュの背中を叩いていた手が、今度はライの手をぐいぐい引っ張る。どっちにしろ強引な人のようだ。
だが、ライを引っ張りながらも、ゲルハルトはアッシュを振り返った。
「そういやまだ聞けてなかったな。なんで今、戻ってきたんだ? お前、本当にこんなところにいていいのか?」
「だから言ったろ、里帰りだって。僕にも休息は必要なんだよ……って、仲間が言ってくれてね」
「ははは、そりゃそうだ。良いお仲間さんたちじゃねえか。さすが勇者様一行だ」
(確かに、良い仲間のようだ。ギルを思い出すな……)
と、そこまで思って、はたと気付いた。
「すまない……今、なんと言った?」
笑いながら、ゲルハルトとアッシュが振り返る。ライの表情を、別の意味で捉えているようだ。
「アッシュ、お前この人に言ってなかったのか?」
「そんな……わざわざ言うようなことじゃないから。でも、すみません。自己紹介が不足してましたね」
アッシュは居住まいを正して、ぺこりとライに会釈した。
「僕はアッシュ・ストラウスといいます」
「それは……その名は……」
ライの顔から、血の気が引いていく。ゲルハルトはそれを、ただの驚愕と捉えているようで、愉快そうに笑っていた。
「そう! 大陸中にその名を轟かせる救世主、人間たちの希望の星、それに魔王に対する切り札……勇者アッシュ・ストラウス様とは、こいつのことだぜ」
場所:カリナ村
業務内容:武具の大量製作の手伝い(職人大歓迎!)
依頼主:鍛冶工房ノール
報酬:日給 金貨1枚
工房の中は熱気に溢れていた。
火を扱っているから、というだけでなく、全体的に息苦しい。
おそらく、工房長のゲルハルトをはじめ、弟子たちまでが汗だくになって働いているせいだ。
トン、カン、トン、カンと甲高い音が絶え間なく響いている。しかも建物の外まで聞こえてくる。
だからだろうか、職人たちは誰一人として客人に気付かない。
雇用希望だからまだいいが、お客だったらどうするつもりなんだろう。
そう思っていると、工房でひときわ体格の大きな人影が寄ってきた。工房主のゲルハルトだろうか。
「おう、今は急ぎの注文が入ってて、他に対応できねえんだ。悪いがしばらく待ってくれ」
顔を見るなり、そんなことを言われた。きっと訪れた客全員に同じように言っているのだろう。
その顔には、明らかな疲労の色が浮かんでいる。目の下には濃い隈があった。
「ゲルハルトさん、この人は依頼に来たんじゃないみたいだよ」
アッシュがそう言うと、ゲルハルトは急に表情を緩めるのだった。
「なんだ、アッシュじゃねえか。こんなところで何してんだ?」
「こんなところって……故郷に里帰りだよ」
急に空気が軽くなったかと思うと、ゲルハルトは豪快に笑いながらアッシュの背中をバシバシ叩いている。
ライは説明を求めるようにアッシュに視線を向けた。
「ゲルハルトさん。この人はライさん。仕事のために来たって言ってたけど……?」
慌てて紹介してくれるアッシュに続いて、ライは依頼書を見せた。
「……確かに人手不足だから、遠くの街にも募集をかけたな。なるほど、あんたが……」
しげしげと依頼書を見てはライを見るゲルハルトの視線は、厳しく刺々しいものに見えた。
セレス港での仕事と同じように、また腕力や体力を証明しなければならないかと思われた。だが……。
「助かる! 今からでも仕事に入れるか!?」
観喜と悲哀の入り交じった……つまりは涙目で迫られてしまった。そんな目で見られては、答えは一つしかない。
「ああ……問題ない」
「よっしゃ! 戦力一人確保だ! 来てくれ、案内する」
さっきまでアッシュの背中を叩いていた手が、今度はライの手をぐいぐい引っ張る。どっちにしろ強引な人のようだ。
だが、ライを引っ張りながらも、ゲルハルトはアッシュを振り返った。
「そういやまだ聞けてなかったな。なんで今、戻ってきたんだ? お前、本当にこんなところにいていいのか?」
「だから言ったろ、里帰りだって。僕にも休息は必要なんだよ……って、仲間が言ってくれてね」
「ははは、そりゃそうだ。良いお仲間さんたちじゃねえか。さすが勇者様一行だ」
(確かに、良い仲間のようだ。ギルを思い出すな……)
と、そこまで思って、はたと気付いた。
「すまない……今、なんと言った?」
笑いながら、ゲルハルトとアッシュが振り返る。ライの表情を、別の意味で捉えているようだ。
「アッシュ、お前この人に言ってなかったのか?」
「そんな……わざわざ言うようなことじゃないから。でも、すみません。自己紹介が不足してましたね」
アッシュは居住まいを正して、ぺこりとライに会釈した。
「僕はアッシュ・ストラウスといいます」
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ライの顔から、血の気が引いていく。ゲルハルトはそれを、ただの驚愕と捉えているようで、愉快そうに笑っていた。
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