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雑務
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死んでいい人なんか
いくらだっている
死は街の雑務
あの日
黄昏は気持ち悪いくらい
黄色く街を染めていた
十何階建てだかの
雑居ビル
屋上には飾り程度の
手すりしかなくて
絶好の飛び降り処
何度もここに来た
お昼休みの茶を持って
お昼は茶しか持たない
わたしの、
最期はここだろう
一メートルない手すりを
軽くまたぎこして
そこから五十センチほどの
余裕
茶を飲んでいた
なぜか落ち着く場所
ここから踏み出せばいい
飛ばなくたっていい
踏み外せばいい
人生を
終えるには
勤め先は
詐欺のギリギリだけど
これが儲かって
口の達者な社員で揃えてて
悪ければ切る
その繰り返し
儲かってたまらんのだけど
雑務がたまらん
電脳ネットの高級な雑務から
茶汲み仕事の雑な雑務まで
わたしは
ボトムラインの
きわきわ
殺された兄がこの会社で
いいとこ行っていた頃
わたしは高卒で
バイトで入ってそのまま
就職したのだ
扱いは悪くない
わたしだって社員と湯呑みの柄を
写メで撮って即日全部覚えた
そのくらいの努力はする
兄は賢かった
身体は大きい方ではなかったが
とにかく口が上手かった
どんな論理も通した
絶句
させたった
父はヤクザで
それもあまりうだつの上がらない
下っ端をやってた
おもて向き、鍛冶屋で
つまりは刃物屋だったのだ
父はただ
刃物が好きなだけだった
母のいた頃は
母の包丁のキレは最高で
それは母の認める処
でも母はその刃物で刺され
死んだ
何故かはよくわからない
ヤクザの世界だし
そんなこともある
父は母を刺し殺した刃物が
自分の鍛えたものだと知り
鍛冶屋をやめて
交通整理の仕事をしたが
続かず死んだ
っていう話
兄は大学まで奨学金で
経済を学んだのち
知り合いのいたこの会社に
就職したのだった
すぐに昇進して
トップスリーにまでなったが
悪い事案に巻き込まれ
おもて向きは交通事故
実は暗殺
されたった
それもわたしがこの会社に
就職して一年と経たないうちだった
誰もが兄のことを
まるでいなかったように扱った
わたしのことは
相変わらず雑務として
優しく接してくれた
そう、
扱いは悪くなかった
でも、
兄がいなくなった会社は
わたしがヤバかった
自殺に見せかけて
わたしを殺す案が
あることに気づき
わたしは会社の手間ひまかけず
死んでしまえば良いのだろうね
この世の中に
わたしと血のつながるひとが
いないことがこんなにも
さみしいなんて
気づかなかった
むかし
又三郎という名の
柴犬がいて
まだ小さかったわたしは
チャブと呼んでた
兄とチャブと三人で
ちょっと遠い公園まで散歩に
行ってた頃は兄は高校生で
母のオムライスは最高だった
父の鍛えたナイフで
食べるオムライス
そういう
記憶を
一体誰と分かち合って
いればいい?
チャブも少しだけ食べさせて
もらってた母のオムライス
みんなで行った近くの海に
沈んでくおひさまのキラキラ
そういうのでできている
わたしのことを
誰とも分かち合えない
チャブでさえ死んだんだ
あの日兄と共に
車に轢かれて
なんでそんなに簡単にみんな死ぬの
わたしだけ生き残るのなんて嫌
優しかった兄が死んで
兄と住んでたマンションを
出たけど会社が部屋を
用意してくれた
四畳半に小さくキッチンと
トイレとシャワーだけの
お金と時間が余る
毎週動物園に行けるくらい
でも寂しかった
誰にも言えないけど
寂しかった
こんなことなら
動物園のオリの中に
住みたかった
ユーチューブで
動物の動画をずっと見てた
四畳半は寒くて暑かった
会社には
九時に出勤して
五時には部屋に帰り着いてた
夜は長い
スマホばかり見てたら
視力がずんずん悪くなった
都合の良い雑務係として
一心に働いてたけど
何をしていたのかな
お茶を汲んだことしか
覚えてない
他にもコピーやクリップや
ホチキスなども扱ったはず
だけど忘れた
会社に行かなくなった
会社からは何の連絡もない
殺さずに消えてくれるなら
都合が良いのだろう
この部屋も居られない
持ち物も少ないし
なんならスマホだけでいい
黄昏時
この雑居ビルの屋上に来た
のも、
無意識だった
朝から何をしていたのか
まるで覚えていなかった
なんだか何でも忘れてしまった
会社の人からもらった
羊羹を食べたら眠くて
でも眠いのは嬉しかった
ずっと
寝れなかったから
羊羹が甘くて眠くなった
なんだかずっと寝てたみたい
会社に行かなくなり
何日経ったかわからない
それでここに来て
手すりを乗り越えて座ってた
すごい黄昏
いろんなことはもう
どうだっていいと思えた
わたしが死んだところで
誰も悲しまない
誰も困らない
わたしも
もう
会いたい人もいないし
したいこともない
母と父と兄とチャブのいる
くにへ
行けるのだったら、
それの方がずっといい
それにしても
ビルの隙間には黄昏の
光が綺麗すぎた
よくわからないけど
サウナに行って
美容院にも行って
服を一揃え買って着てきた
どうせぐちゃぐちゃになるのにね
さよならみんな
優しかった人もいたよ
嬉しかった
嘘じゃない
遺書はなかった
だけどどう見ても自殺だから
自殺と判断される
ある女の
死は
街の雑務に消える
いくらだっている
死は街の雑務
あの日
黄昏は気持ち悪いくらい
黄色く街を染めていた
十何階建てだかの
雑居ビル
屋上には飾り程度の
手すりしかなくて
絶好の飛び降り処
何度もここに来た
お昼休みの茶を持って
お昼は茶しか持たない
わたしの、
最期はここだろう
一メートルない手すりを
軽くまたぎこして
そこから五十センチほどの
余裕
茶を飲んでいた
なぜか落ち着く場所
ここから踏み出せばいい
飛ばなくたっていい
踏み外せばいい
人生を
終えるには
勤め先は
詐欺のギリギリだけど
これが儲かって
口の達者な社員で揃えてて
悪ければ切る
その繰り返し
儲かってたまらんのだけど
雑務がたまらん
電脳ネットの高級な雑務から
茶汲み仕事の雑な雑務まで
わたしは
ボトムラインの
きわきわ
殺された兄がこの会社で
いいとこ行っていた頃
わたしは高卒で
バイトで入ってそのまま
就職したのだ
扱いは悪くない
わたしだって社員と湯呑みの柄を
写メで撮って即日全部覚えた
そのくらいの努力はする
兄は賢かった
身体は大きい方ではなかったが
とにかく口が上手かった
どんな論理も通した
絶句
させたった
父はヤクザで
それもあまりうだつの上がらない
下っ端をやってた
おもて向き、鍛冶屋で
つまりは刃物屋だったのだ
父はただ
刃物が好きなだけだった
母のいた頃は
母の包丁のキレは最高で
それは母の認める処
でも母はその刃物で刺され
死んだ
何故かはよくわからない
ヤクザの世界だし
そんなこともある
父は母を刺し殺した刃物が
自分の鍛えたものだと知り
鍛冶屋をやめて
交通整理の仕事をしたが
続かず死んだ
っていう話
兄は大学まで奨学金で
経済を学んだのち
知り合いのいたこの会社に
就職したのだった
すぐに昇進して
トップスリーにまでなったが
悪い事案に巻き込まれ
おもて向きは交通事故
実は暗殺
されたった
それもわたしがこの会社に
就職して一年と経たないうちだった
誰もが兄のことを
まるでいなかったように扱った
わたしのことは
相変わらず雑務として
優しく接してくれた
そう、
扱いは悪くなかった
でも、
兄がいなくなった会社は
わたしがヤバかった
自殺に見せかけて
わたしを殺す案が
あることに気づき
わたしは会社の手間ひまかけず
死んでしまえば良いのだろうね
この世の中に
わたしと血のつながるひとが
いないことがこんなにも
さみしいなんて
気づかなかった
むかし
又三郎という名の
柴犬がいて
まだ小さかったわたしは
チャブと呼んでた
兄とチャブと三人で
ちょっと遠い公園まで散歩に
行ってた頃は兄は高校生で
母のオムライスは最高だった
父の鍛えたナイフで
食べるオムライス
そういう
記憶を
一体誰と分かち合って
いればいい?
チャブも少しだけ食べさせて
もらってた母のオムライス
みんなで行った近くの海に
沈んでくおひさまのキラキラ
そういうのでできている
わたしのことを
誰とも分かち合えない
チャブでさえ死んだんだ
あの日兄と共に
車に轢かれて
なんでそんなに簡単にみんな死ぬの
わたしだけ生き残るのなんて嫌
優しかった兄が死んで
兄と住んでたマンションを
出たけど会社が部屋を
用意してくれた
四畳半に小さくキッチンと
トイレとシャワーだけの
お金と時間が余る
毎週動物園に行けるくらい
でも寂しかった
誰にも言えないけど
寂しかった
こんなことなら
動物園のオリの中に
住みたかった
ユーチューブで
動物の動画をずっと見てた
四畳半は寒くて暑かった
会社には
九時に出勤して
五時には部屋に帰り着いてた
夜は長い
スマホばかり見てたら
視力がずんずん悪くなった
都合の良い雑務係として
一心に働いてたけど
何をしていたのかな
お茶を汲んだことしか
覚えてない
他にもコピーやクリップや
ホチキスなども扱ったはず
だけど忘れた
会社に行かなくなった
会社からは何の連絡もない
殺さずに消えてくれるなら
都合が良いのだろう
この部屋も居られない
持ち物も少ないし
なんならスマホだけでいい
黄昏時
この雑居ビルの屋上に来た
のも、
無意識だった
朝から何をしていたのか
まるで覚えていなかった
なんだか何でも忘れてしまった
会社の人からもらった
羊羹を食べたら眠くて
でも眠いのは嬉しかった
ずっと
寝れなかったから
羊羹が甘くて眠くなった
なんだかずっと寝てたみたい
会社に行かなくなり
何日経ったかわからない
それでここに来て
手すりを乗り越えて座ってた
すごい黄昏
いろんなことはもう
どうだっていいと思えた
わたしが死んだところで
誰も悲しまない
誰も困らない
わたしも
もう
会いたい人もいないし
したいこともない
母と父と兄とチャブのいる
くにへ
行けるのだったら、
それの方がずっといい
それにしても
ビルの隙間には黄昏の
光が綺麗すぎた
よくわからないけど
サウナに行って
美容院にも行って
服を一揃え買って着てきた
どうせぐちゃぐちゃになるのにね
さよならみんな
優しかった人もいたよ
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嘘じゃない
遺書はなかった
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