憂い視線のその先に

雪村こはる

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様々な恋愛事情

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 そんな千愛希の気持ちを知ってか知らずか、律は「別に興味が恋愛でなくてもいいんだ。好きな人や彼氏ができたから嬉しいとかじゃなくて……生活しなきゃいけないって義務で生きているような詩に、夢中になれることが見つかったのが嬉しいだけで」と言った。

 律は、兄の目をしていた。律にとって血の繋がりはなくとも大切な妹には変わりない。そんな詩が仕事以外に興味をもち、第一だった弟を家に残して夜中に帰ってくることができるほど、その第一歩を踏み出せたことが嬉しかった。

「そうだね。上手くいくといいね」

「うん。詩は両親が離婚してることもあってあんまり結婚に対していい印象をもってないんだ。恋愛だって積極的にはしてないと思う」

「うん。でも、詩ちゃんの中で色んな変化が起こり始めてるのはいいことじゃない。年頃の女の子だもん、世の中には楽しいことがいっぱいあるって知ってほしいよ」

 私みたいに。千愛希はそう思って柔らかく笑った。やっぱり律といると楽しいのだ。他人に対して興味のないはずの律が、友人に振り回されて、妹同然の詩の変化をこんなにも喜ぶ。
 冷徹そうに見えて思いやりのあるところが好きだと改めて思った。例え気持ちが自分になくても、この人を手放したくない。そう思った。

 律も千愛希の穏やかな表情につられるようにして笑った。

 千愛希にとってこんなにも関係のない話をしたというのに、彼女は律と同じように喜んでくれた。今まで出会った女性達は、律と会話をしてもつまらないと言うことが多かった。
 彼女達の興味は律にしかなく、律の興味は自分にしか向かないと気がすまなかったから。

 千愛希はどんなに専門的な話でも、政治・経済の話でも、友人の話でも楽しそうに聞いてくれる。つまらないなどとは決して言わないし、そんな顔を見せたりもしない。
 律は面白味のない人間だという自覚はある。頭が固い部分もあるし、正論ばかりで融通が利かないと言われることもある。

『そんな考え方もあるんだ。面白いね』

 千愛希がいつか何気なく言った言葉。律はずっと忘れずに覚えている。律の考え方を否定しない唯一の人。独特の感性を「面白い」と笑ってくれる人。
 自分の欠点を受け入れてくれる千愛希のことが、律はとにかく好きだった。
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