憂い視線のその先に

雪村こはる

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変化の理由

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 律が玄関のドアを開けると、目を覚ました妃茉莉が壁を伝い歩きし、周が座り込んで靴を履いていた。
 暫く1人になりたかったからちょうどいい。そう思った律の姿に気付いた周。すっと立ち上がってほとんど同じ目線の律に目を向けた。

「律、千愛希さんのことごめんね……」

 まどかに指摘された通り、素直に謝る周。律はピクリと眉を動かして「なにが?」と言った。いつも通りの冷たく見える眼。周はうっとたじろぎながら「その、千愛希さんに触ろうとしたりして……」と続ける。

「別に」

 律が靴を脱ぎながら周の横を通り過ぎると、ふわりと香りが漂う。嗅ぎ慣れないその匂いに律は顔をしかめる。

『いい匂い』

 数時間前に千愛希が顔を近付けてその匂いを嗅いでいたことを思い出した。まどかからのプレゼントとだと言ったその香りは、律にとっては忌々しい香りに過ぎない。

「ねぇ、律。邪魔して、ごめん……」

「別にいいって。何をそんなに謝るわけ?」

 しつこく謝罪する周と鼻につくその匂いが更に律の機嫌を悪くさせる。普段から愛想の良い方ではないが、とても機嫌が良いとはいえない雰囲気に、周は気まずそうな顔をする。

「ねぇ、まどかさんと千愛希ってなんかあった?」

「え!? まどかさんと? 何で?」

 突然の質問に驚く周。その表情だけで何も知らないのだと悟ると「別に。なんでもない。いってらっしゃい」とだけ言って周に背を向けた。

 やっぱり千愛希が一方的にまどかを避けているだけなのか、と思う律は思い当たる出来事を記憶から辿ってみるがどう考えてみても律にはわからなかった。
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