憂い視線のその先に

雪村こはる

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最恐の男

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 どう考えてもプロの技だった。睦月にも追跡することは不可能ではない。むしろ、時間はかかってもやりがいのある逆探知に好奇心すら湧く。恐怖と好奇心が同時にやってきて、自分では説明もつかない感情に戸惑っていた。

 なんとしてでも動画を取り返さねば。千愛希は何も悪くないのだ。もしもネットに公開されてしまったら、彼女は酷く傷付き精神的苦痛を強いられるだろう。そんな目的で動画を手に入れたわけじゃなかった。千愛希を苦しめたくはない。どうにかして彼女を守らなくてはと必死になる。

 再度手を動かした睦月は、鋭い眼で画面を見つめた。絶対に突き止めてやる、と追跡を始めた。
 その一方で、こんなことができるのは自分と同じくらいの知識と技術を持つ人間だけだとふと思う。まさか、鍋田が寝返ろうとしたライバル会社、battereの仕業なんじゃないかだとか、拓也が社員の不正がないか巡回しているんじゃないか、だとか真琴が面白半分で侵入したのかだなんて仲間をも疑った。それほどまでに律のハッキングは巧妙だった。

 1時間が経ち、骨の折れる作業に深いため息をついた。そもそもこんなことができるヤツなんて千愛希くらいしか知らないぞ。そう思い始めた。
 友人でもある共同経営者達は確かにそれぞれ天才的な技術を持ち合わせているが、それはプログラミングであったり、ソフトウェアの開発だったりとハッキング技術とは異なる。
 ハッキングに対してここまでの知識と技術を持ち合わせた人間は、睦月も千愛希しか知らなかった。

 まさか防犯カメラの存在に気付いた千愛希が自分の映った部分だけを消そうと侵入したのか……?
 そう思った睦月は、自分の行為に気付かれたのではないかと震えた。もしも軽蔑されていたら……嫌われたらと思うと胸がギュッと苦しくなった。
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