憂い視線のその先に

糖度150%、スパイス多め

34

　再び唇が重なる。濃厚なキスを堪能する律は、艶やかに乱れる千愛希を愛しそうに見つめた。

「同居したら、いつでもこんなふうに触れ合えるわけじゃないんだよ？」

　小声でコソッと律が言う。
　未だに誰かの登場に怯える千愛希は、こんなことが日常的にあるだなんて心臓がもたないと眉間に皺を寄せた。

「お風呂だって一緒に入れなくなるし」

「……お風呂好きだね」

「うん。声響くしね」

「っ……」

　思いがけない言葉にかあぁぁぁっと顔に熱が集中する。千愛希のマンションに来る度、律と共に浴室にいる気がする。あの狭い空間でどれほど体を触られたかわからない。
　同居しない理由がそれなのか、と思いつつもこの家で一緒に入浴などできるわけがないと納得はする。

「おばあちゃんのことはもちろん心配なんだけどね」

「うん」

「千愛希とはいつも2人でいたいんだよ。誰にも邪魔されたくない」

「……うん」

「だからといって家を出るのも少し気が引ける」

「……わかるよ」

「うん。自分の中でジレンマがある内は結婚はまだかなって」

「うん」

「でもね、千愛希を独占したい気持ちは強いんだ」

　律は、はだけた細い肩に軽く歯を立てた。濡れた感触と軽度の痛みが刺激する。空気の冷たさがそこだけ強く感じ、千愛希はぴくんっと体をしならせた。

「んっ……」

　甘ったるい声が零れ、律の鼓膜を震わせる。心地よい声にまた頬が緩む。

「可愛い……」

　そのまま舌を這わせば、「ぁっ……」と高い音が響く。

「千愛希の行動を制限する気はないんだけど、時々無性にどこか小さな部屋に閉じ込めてそのまま監禁してしまいたくなる」

「はぁ……はぁ……律？」

「俺は千愛希じゃなきゃダメだよ」

　眉を下げて切なそうにする律に、千愛希はすっと瞼を上げた。