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友人の悩み
【2】
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「何で一緒にいるのかな……」
茉紀は私の親友だ。中学生で出会って、子供同士のいざこざに巻き込まれて傷付いている時に救ってくれた人。
大人になってからも、相談はいつも彼女にしていて、あまねくんとのデートだって背中を押してもらったのだ。
元カレの雅臣のことも、あまねくんのことも、茉紀には全て話してきた。私にとって都合の悪いことでも、だ。
しかし、最近の彼女はハイジさんのこととなるとおかしい。
20代半ばで結婚して6歳と1歳になったばかりの子供がいる。
子供のことはとても可愛がっていた彼女だが、旦那さんのことを悪くいうのはいつものことだった。それも夫婦には色々あって、愚痴の一つも溢したくなるのだろうと思っていた。しかし、数ヶ月前からどうやらハイジさんの店に何度も通っていて、その間子供はどうしているのかと気になるところだ。
旦那側のご両親は、孫をとても可愛がっていて、預かることを快諾してくれるという。それにしても、預けている頻度が多い気がするし、それでまた旦那さんと揉めたのではないかとこちらも気が気でない。
そんな私の心配など他所に、ハイジさんとの関係については何も教えてはくれない。
「こんな時間にハイジさんが起きてること自体珍しいけどね……」
あまねくんがポロッと溢した言葉。それによりツキンと胸が痛む。
ハイジさんは、元ホストで現在はバーの経営者。10代の頃からずっと夜の仕事をしているため、完全に夜型の人間だ。
18時から開店し、3時に店を閉める。常連客が賑わっている時は、5時まで店を開けることもあると言っていた。
そんな彼が、もうすぐ昼時になろうとしているこんな時間に、眠ることもせず茉紀と出歩いているのだ。不思議に思うなという方が無理がある。
今日は土曜日だし、一番客足が多くなる曜日だ。18時にまた店を開けるなら、睡眠をとっておかなければ辛いだろう。
それなのに、その貴重な時間を茉紀と過ごすのだ。ハイジさんにとっても茉紀の存在は、普通の客とは違うのかもしれない。
「ねぇ……あまねくん。大丈夫だよね?」
「心配?」
「そりゃ、心配だよ。茉紀は親友だし……」
「そうだね。でも、茉紀さん何も言ってこないんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、詮索するのはやめておきなよ」
二人の姿を目で追うが、どこか冷ややかな目をしているあまねくん。
彼は時々冷たい。
私に対してはとても優しくて、どんな些細なことでも親身になって話を聞いてくれる。しかし、そこに第三者が関わってくると、彼はすっかり興味をなくしてしまう。
「この前も言ったけど、ハイジさんはまどかさんの親友だって知ってて茉紀さんに手を出す程落ちぶれてないよ」
「……うん」
「それに、愛だの恋だのに敏感な人だから。遊びで茉紀さんに近寄るなんてことはないと思う」
「本気なら……?」
「それは厄介かもね。ハイジさんが本気になるくらいなら、茉紀さんはもう離婚するつもりでいるんじゃない?」
「え!?」
抑揚のない冷静な声色でそんなことを言うものだから、予想よりも更に上をいった発言に、私も面食らってしまう。
「だって、面倒事が嫌いだって言いながら、何だかんだ他人に協力しちゃうような人だよ?
無理矢理夫婦仲を引き裂くようなことはしないだろうし、茉紀さんが旦那さんも子供も捨てて、ハイジさんのところに行くっていうなら、もしかしたら受け入れるのかもしれないね」
「そんな……」
「ね? そんな最悪なことにはならないよ、きっと。茉紀さんだって子供を悲しませてまで一時の感情でハイジさんのところに行くとは思えないけど」
交叉点の角を曲がっていく二人の背中を見ながら、私は深くため息をついた。
いつもは、ニコニコしていて明るくなつっこいあまねくん。時には子犬のような顔をしてメソメソと私にすり寄ってくることもある。
けれど、不意に見せる彼の顔。とても冷静で的を得ている。私よりも茉紀のことを知っているんじゃないかと思わせられる程、茉紀の性格もわかっている。
「そうだけど……。一回茉紀に聞いてみようかな?」
「……まどかさんがそうしたいなら、そうすればいいと思うよ。でも、茉紀さんが言いたがらないなら無駄だと思う」
「……」
「まどかさんのことを信用してないとか、そういうことじゃないよ。ただ、まどかさんだって安定期に入ってないし、やることいっぱいあるでしょ? 茉紀さんだって、あんまり心配かけたくないんじゃないかな?」
あからさまに落ち込んでみせた私に、彼はすかさずフォローする。こういうところは優しいんだ、それに、私だってわかってる。新婚の私に、夢を壊すような悩みを打ち明けられないことくらい。
でも、私は親友なのだから、そんなことは関係なく、ありのままを話して欲しいというのが本音だ。
エコー写真を指に握りしめたまま佇む私に、「ほら、行くよ」と言いながら手を掴むあまねくん。そのまま歩き出してしまうものだから、私は暫しあの二人が曲がっていった交叉点を見つめながら、引かれていく手に続いた。
茉紀は私の親友だ。中学生で出会って、子供同士のいざこざに巻き込まれて傷付いている時に救ってくれた人。
大人になってからも、相談はいつも彼女にしていて、あまねくんとのデートだって背中を押してもらったのだ。
元カレの雅臣のことも、あまねくんのことも、茉紀には全て話してきた。私にとって都合の悪いことでも、だ。
しかし、最近の彼女はハイジさんのこととなるとおかしい。
20代半ばで結婚して6歳と1歳になったばかりの子供がいる。
子供のことはとても可愛がっていた彼女だが、旦那さんのことを悪くいうのはいつものことだった。それも夫婦には色々あって、愚痴の一つも溢したくなるのだろうと思っていた。しかし、数ヶ月前からどうやらハイジさんの店に何度も通っていて、その間子供はどうしているのかと気になるところだ。
旦那側のご両親は、孫をとても可愛がっていて、預かることを快諾してくれるという。それにしても、預けている頻度が多い気がするし、それでまた旦那さんと揉めたのではないかとこちらも気が気でない。
そんな私の心配など他所に、ハイジさんとの関係については何も教えてはくれない。
「こんな時間にハイジさんが起きてること自体珍しいけどね……」
あまねくんがポロッと溢した言葉。それによりツキンと胸が痛む。
ハイジさんは、元ホストで現在はバーの経営者。10代の頃からずっと夜の仕事をしているため、完全に夜型の人間だ。
18時から開店し、3時に店を閉める。常連客が賑わっている時は、5時まで店を開けることもあると言っていた。
そんな彼が、もうすぐ昼時になろうとしているこんな時間に、眠ることもせず茉紀と出歩いているのだ。不思議に思うなという方が無理がある。
今日は土曜日だし、一番客足が多くなる曜日だ。18時にまた店を開けるなら、睡眠をとっておかなければ辛いだろう。
それなのに、その貴重な時間を茉紀と過ごすのだ。ハイジさんにとっても茉紀の存在は、普通の客とは違うのかもしれない。
「ねぇ……あまねくん。大丈夫だよね?」
「心配?」
「そりゃ、心配だよ。茉紀は親友だし……」
「そうだね。でも、茉紀さん何も言ってこないんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、詮索するのはやめておきなよ」
二人の姿を目で追うが、どこか冷ややかな目をしているあまねくん。
彼は時々冷たい。
私に対してはとても優しくて、どんな些細なことでも親身になって話を聞いてくれる。しかし、そこに第三者が関わってくると、彼はすっかり興味をなくしてしまう。
「この前も言ったけど、ハイジさんはまどかさんの親友だって知ってて茉紀さんに手を出す程落ちぶれてないよ」
「……うん」
「それに、愛だの恋だのに敏感な人だから。遊びで茉紀さんに近寄るなんてことはないと思う」
「本気なら……?」
「それは厄介かもね。ハイジさんが本気になるくらいなら、茉紀さんはもう離婚するつもりでいるんじゃない?」
「え!?」
抑揚のない冷静な声色でそんなことを言うものだから、予想よりも更に上をいった発言に、私も面食らってしまう。
「だって、面倒事が嫌いだって言いながら、何だかんだ他人に協力しちゃうような人だよ?
無理矢理夫婦仲を引き裂くようなことはしないだろうし、茉紀さんが旦那さんも子供も捨てて、ハイジさんのところに行くっていうなら、もしかしたら受け入れるのかもしれないね」
「そんな……」
「ね? そんな最悪なことにはならないよ、きっと。茉紀さんだって子供を悲しませてまで一時の感情でハイジさんのところに行くとは思えないけど」
交叉点の角を曲がっていく二人の背中を見ながら、私は深くため息をついた。
いつもは、ニコニコしていて明るくなつっこいあまねくん。時には子犬のような顔をしてメソメソと私にすり寄ってくることもある。
けれど、不意に見せる彼の顔。とても冷静で的を得ている。私よりも茉紀のことを知っているんじゃないかと思わせられる程、茉紀の性格もわかっている。
「そうだけど……。一回茉紀に聞いてみようかな?」
「……まどかさんがそうしたいなら、そうすればいいと思うよ。でも、茉紀さんが言いたがらないなら無駄だと思う」
「……」
「まどかさんのことを信用してないとか、そういうことじゃないよ。ただ、まどかさんだって安定期に入ってないし、やることいっぱいあるでしょ? 茉紀さんだって、あんまり心配かけたくないんじゃないかな?」
あからさまに落ち込んでみせた私に、彼はすかさずフォローする。こういうところは優しいんだ、それに、私だってわかってる。新婚の私に、夢を壊すような悩みを打ち明けられないことくらい。
でも、私は親友なのだから、そんなことは関係なく、ありのままを話して欲しいというのが本音だ。
エコー写真を指に握りしめたまま佇む私に、「ほら、行くよ」と言いながら手を掴むあまねくん。そのまま歩き出してしまうものだから、私は暫しあの二人が曲がっていった交叉点を見つめながら、引かれていく手に続いた。
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