【R18】美人過ぎる○○は今日も旦那様からの寵愛を受ける

雪村こはる

文字の大きさ
6 / 208
友人の悩み

【6】

しおりを挟む
 待合所で待っていると、検診では長いこと待たされるのに、すぐに名前を呼ばれた。
 状況を再度説明し、診察を受けた。

「心音もちゃんと聞こえるし、異常はなさそうですね。初期の妊娠では、出血することもあるから、今回は問題なさそうですよ」

 医師は、にっこり微笑んでそう言った。その言葉にふっと力が抜けて、一気に安堵した。

「本当ですか……?」

「ええ。ただ、無理は禁物ですよ。あんまり出血が続いたり、量が多くなるようだったらすぐに受診してくださいね」

 普段、極力外出しないようにしていることや、体に負担をかけないように心がけていることを伝えると、安定期に入るまでは続けるようにと言われた。
 とにかく何もなくてよかった。安心して待合所にいる律くんのところに戻る。

 しかし、律くんの姿を見つけてはっとする。
 足を組んで雑誌に目を通している彼に向けられている視線の数々。妊婦さん達を初め、受付のお姉さんや看護師さん、助産師さん達までもがチラチラと律くんを見てはきゃっきゃと顔を赤らめている。
 初めてあまねくんと来た時もそうだったなぁと思わず苦笑いをする。
 そりゃあ、こんなに綺麗な男の子が待合所にいたら注目されるよね……。

「律くん」

 声をかけると、すぐに顔を上げて「どうでした!?」と心配そうにこちらを見る。

「大丈夫だって。よかったよ、赤ちゃん元気って」

「そ……よかった」

 中腰になった律くんは、ほっとしたようにそのまま腰を下ろした。

 私もほっとしたよ、律くん。律くんがいてくれてよかった。もしこれで最悪な結果が待っていたら、とてもこの場に一人でなんていられなかった。

「うん。一昨日、あまねくんと検診に行って元気だって言われたばっかりだったんだけど、出血したのは初めてだったから……。心配で電話しちゃって……」

「いいですよ。無事が確認できれば」

「ありがとうね……。仕事抜けて来てもらってごめんね」

「ううん。俺も心配でしたから。周がいないんじゃ、まどかさんも不安だろうし」

「うん。どうしようかと思った……。律くんが来てくれて心強かったよ。本当にありがとうね」

 そうお礼を言えば、ふっと微笑んで「いつでも頼ってくれていいから」と言ってくれた。

 律くんは優しいなぁ……。あまねくんと結婚して律くんの義妹になったからか、以前よりもうんと律くんが優しく感じる。

 会計の名前を呼ばれると、律くんは一緒に立ち上がり、財布を出した。

「律くん、いいよっ……」

「ううん、大丈夫。最後まで見てないと、俺が周に怒られるからね」

 そう笑って彼はお会計を済ませてくれた。

 何だか申し訳ないな……。散々騒いで仕事中に呼び出して、挙げ句の果てにお会計までさせてしまうなんて……。

「ごめんね……」

「謝らなくていいから。子供が無事でよかった」

 あんまり見られないにっこりとした笑顔にキュンとする。この顔、あまねくんに似てるんだよなぁ……。
 まるであまねくんが一緒にいてくれるみたいで、心が温かくなった。

「無事でよかったですね。パパも安心しましたね。パパとママが仲良しで赤ちゃんも幸せですよ」

 受付のお姉さんにそう声をかけられた。普段見ない人だった。

「パパ……」

 隣の律くんは、そう呟いて耳まで真っ赤にしている。

「ふふ……」

 間違えられたことがそんなに恥ずかしかったのかと思わず笑ってしまえば、「その人、パパじゃないわよ!」と小声でお姉さんの袖を引っ張る人の姿。慌てた様子の彼女は、いつも親身に話を聞いてくれる助産師さんだ。

「え? す、すみません!」

 受付のお姉さんは、急いで頭をさげ、助産師さんも「ごめんなさいねぇ……」と眉を下げている。

「いえいえ。今日はパパのお兄さんに付き添ってもらったんです。大丈夫ですよ」

 そう言えば、「そうだったんですね。とにかく何もなくてよかったです。次の検診も待ってますね」と助産師さんに見送られて私達はクリニックを後にした。



「間違えられちゃったね」

 車まで歩きながら律くんに向かって言う。彼は思い出したのか、また顔を赤くさせて「パパとか言われたの初めてだし……」と恥ずかしそうにしている。

「あまねくんは、パパって初めて言われた時、嬉しそうにしてたよ」

「そりゃ、まぁ……本物のパパなわけだし……」

「んー?」

 モゴモゴと口ごもる律くんを見上げれば、「何でもない。送っていきます」と顔を逸らされてしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

専属秘書は極上CEOに囚われる

有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...