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ファンクラブ
【5】
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「……美しい」
ほうっと効果音が聞こえてきそうな程、とろんとした目でこちらを見ている千愛希さん。
嬉しいけれど、複雑なのはなぜだろうか。気を取り直してメニュー表を見る。
「私トマトのクリームソースにしようかな。エビ入ってるし」
「まどかさん、エビ好きだよね」
「うん。魚介類はいいよね」
「パスタと合うしね。美味しいよね」
あまねくんとメニュー表を指差しながらまたのほほんと話していると、目の前でかさかさと何かが動いた。
何事かと思ってそちらに視線を向けると、手帳を取り出して何かを書いている千愛希さん。
お仕事かな? なんて思っていたら、手を止めてこちらを見た。目が合った瞬間、何かを待っている様子の彼女。
何だろうか……。
「まどかさん他には? スープ飲む?」
「ううん、いいや」
「じゃあ、頼んじゃうね。あ……」
デザートを頼むと言っていた千愛希さんに、あまねくんは「何食べますか?」と続けた。
「あ! そうでしたね! つい見とれてしまって……」
と慌ててあまねくんからメニュー表を受けとる。すると直ぐ様「これで」と指を指した。
「え? 早っ……ちゃんと見ました?」
「大丈夫です。見ました」
そう答えるけれど、視線は常にこちらにある気がした。
「あの……もっとちゃんと選んでもらっていいですよ? 私達急いでないから」
そう私が言うと、彼女は顔の前で手をぶんぶんと振りながら「いいんです、いいんです。そんなの……。早く食べてる姿が見たくて……」と言ってはっとした表情で言葉を飲み込んだ。
律くんは苦笑しているし、あまねくんは呆然としている。
大丈夫かな……この子。
あまねくんがまとめて注文してくれたため、食事が来るのを待つ。ただずっと待っているのも気まずいため、「2人はよくこのお店くるの?」と律くんと千愛希さんを交互に見ながら言った。
「たまに……。彼女がここのパスタが好きだって言うから」
そう答えたのは律くんだ。千愛希さんはまだ目を輝かせてじっとこちらを見ている。
「そっか。千愛希さん? は、いつもお仕事土日休みなんですか?」
何も話さない彼女にあえて話をふってみれば、目を丸くさせ、次の瞬間ぶわっと目に涙を溜めた。
「え? え?」
うるうると瞳を揺らす彼女に、狼狽えてると律くんは「何なの、もう」と呆れた様子で隣を見る。
「律……まどかさんが、まどかさんが……私の名前を呼んでくれた」
今にも泣き出しそうな顔で律くんの方を見ている。
「泣くほどのこと? 名前くらい呼ぶでしょ」
そう言いながらも律くんはズボンのポケットからハンカチを取り出し、手渡している。
優しいなぁなんて思いながらも、大袈裟な彼女にどう反応していいか困っていると「あー、それわかるなぁ。俺も初めてまどかさんに名前呼んでもらった時感動したもんね」と隣で嬉しそうに笑っている。
「え?」
初めて名前呼んだ時って映画館だったかな?
「名前呼んでほしくて、最初苗字教えなかったもんね」
さらりとそんなことを言うあまねくん。
「え!? そうだったの? あれ? そうだっけ? 出会った時からあまねくんだっけ?」
「うん。初対面でフルネーム教えたら、普通は苗字で呼ぶじゃん。それが嫌だから名前しか教えなかった」
「えぇ!?」
まだ出てくるの!? 色んなカミングアウト。最近では私が受け止めるのをいいことに、何の躊躇もなく様々なことを暴露するあまねくん。
律くんを見れば、哀れんだような顔でこちらを見ていた。
ほうっと効果音が聞こえてきそうな程、とろんとした目でこちらを見ている千愛希さん。
嬉しいけれど、複雑なのはなぜだろうか。気を取り直してメニュー表を見る。
「私トマトのクリームソースにしようかな。エビ入ってるし」
「まどかさん、エビ好きだよね」
「うん。魚介類はいいよね」
「パスタと合うしね。美味しいよね」
あまねくんとメニュー表を指差しながらまたのほほんと話していると、目の前でかさかさと何かが動いた。
何事かと思ってそちらに視線を向けると、手帳を取り出して何かを書いている千愛希さん。
お仕事かな? なんて思っていたら、手を止めてこちらを見た。目が合った瞬間、何かを待っている様子の彼女。
何だろうか……。
「まどかさん他には? スープ飲む?」
「ううん、いいや」
「じゃあ、頼んじゃうね。あ……」
デザートを頼むと言っていた千愛希さんに、あまねくんは「何食べますか?」と続けた。
「あ! そうでしたね! つい見とれてしまって……」
と慌ててあまねくんからメニュー表を受けとる。すると直ぐ様「これで」と指を指した。
「え? 早っ……ちゃんと見ました?」
「大丈夫です。見ました」
そう答えるけれど、視線は常にこちらにある気がした。
「あの……もっとちゃんと選んでもらっていいですよ? 私達急いでないから」
そう私が言うと、彼女は顔の前で手をぶんぶんと振りながら「いいんです、いいんです。そんなの……。早く食べてる姿が見たくて……」と言ってはっとした表情で言葉を飲み込んだ。
律くんは苦笑しているし、あまねくんは呆然としている。
大丈夫かな……この子。
あまねくんがまとめて注文してくれたため、食事が来るのを待つ。ただずっと待っているのも気まずいため、「2人はよくこのお店くるの?」と律くんと千愛希さんを交互に見ながら言った。
「たまに……。彼女がここのパスタが好きだって言うから」
そう答えたのは律くんだ。千愛希さんはまだ目を輝かせてじっとこちらを見ている。
「そっか。千愛希さん? は、いつもお仕事土日休みなんですか?」
何も話さない彼女にあえて話をふってみれば、目を丸くさせ、次の瞬間ぶわっと目に涙を溜めた。
「え? え?」
うるうると瞳を揺らす彼女に、狼狽えてると律くんは「何なの、もう」と呆れた様子で隣を見る。
「律……まどかさんが、まどかさんが……私の名前を呼んでくれた」
今にも泣き出しそうな顔で律くんの方を見ている。
「泣くほどのこと? 名前くらい呼ぶでしょ」
そう言いながらも律くんはズボンのポケットからハンカチを取り出し、手渡している。
優しいなぁなんて思いながらも、大袈裟な彼女にどう反応していいか困っていると「あー、それわかるなぁ。俺も初めてまどかさんに名前呼んでもらった時感動したもんね」と隣で嬉しそうに笑っている。
「え?」
初めて名前呼んだ時って映画館だったかな?
「名前呼んでほしくて、最初苗字教えなかったもんね」
さらりとそんなことを言うあまねくん。
「え!? そうだったの? あれ? そうだっけ? 出会った時からあまねくんだっけ?」
「うん。初対面でフルネーム教えたら、普通は苗字で呼ぶじゃん。それが嫌だから名前しか教えなかった」
「えぇ!?」
まだ出てくるの!? 色んなカミングアウト。最近では私が受け止めるのをいいことに、何の躊躇もなく様々なことを暴露するあまねくん。
律くんを見れば、哀れんだような顔でこちらを見ていた。
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