【R18】美人過ぎる○○は今日も旦那様からの寵愛を受ける

雪村こはる

文字の大きさ
49 / 208
ファンクラブ

【22】

しおりを挟む
 リビングに行くと、ノートパソコンはソファーに足を組んで座っている律くんの膝の上にあった。
 その隣に千愛希さんが腰をかけ、画面を覗き込んでいる。
 
 いつの間にかあまねくんと入れ替わっている配置に、微笑ましくなる。
 何だかんだ言っても、やはり仲が良さそうだ。

「あ! ようやく本物のまどかさんが見られたー!」

 千愛希さんは立ち上がり、顔を綻ばせる。しかしその刹那、奏ちゃんの姿を見つけて「え!? もう1人弟さんがいるの!?」と声を上げた。

 うーん、これに似たやり取りが以前にもあったような……。

「また?」

 奏ちゃんもうんざりした様子でそんな言葉を漏らしている。

「妹」

 律くんが奏ちゃんの方を見向きもしないでそう言った。リビングに顔を出さずに真っ直ぐ自室に帰ってくるのは日常茶飯事なのだろう。
 奏ちゃんがそこにいることに、特に驚く様子もない。

「妹さん!? 律そっくりじゃん!」

「そう言われるようになったの最近だから。一番下」

 要所の説明しかしない律くん。昔の奏ちゃんを見たら、千愛希さん驚くだろうなと思うと、想像しただけで笑えてくる。

「へぇ……カッコいい妹さんだね!」

 これだけSNSで騒がれているのに、奏ちゃんの事を知らない様子の千愛希さん。普段SNSは使用しないのだろうか。

「奏ちゃんはモデルさんなんだよ。色んなショーにも出てる有名人なの」

 私が我慢できずにそう言えば、「言わなくていいし」と隣で奏ちゃん。

「え!? そうなんですか! ごめんね、私モデルさんとかは疎くて……」

 申し訳なさそうに千愛希さんが顔を伏せると「別に……」と可愛い気のない反応をしている。

「うちの社長は若い綺麗な子が好きだからもしかしたら知ってるかもしれないなぁ」

 そう言いながらうーんと明後日の方を向いている。
 奏ちゃんの人気は若い女の子の層に偏っているわけだから、おじさん世代は知らないんじゃないかなぁ……なんて私も反応に困ってしまった。

「別にいいです。知ってもらわなくても」

 奏ちゃんがそんな言い方をするものだから、一瞬空気が凍る。
 律くんもさすがに顔を上げると「えー! 話し方まで律そっくり! 可愛いねぇ!」なんて笑顔を見せる千愛希さん。

「え?」

 私とあまねくんは同時にそんな間抜けな声が溢れた。

「その抑揚のない感じね! なんなら周くんの方が律と兄弟だっていっても違和感あるもんね」

 そんなことまで言っている。

「そうかなぁ? 俺、結構律と似てるって言われるけどなぁ」

 あまねくんも眉を下げて頬を指で掻いている。

「笑顔は似てるよね。普段は背格好だけだよ」

 私がそう言うと、「え!? まどかさんもそんなふうに思ってたの!?」と目を見開く。

「ほらほらー。身内と他人とじゃ見方が違うんだよ。あ、まどかさんはもう周くんの身内でした!」

 ふふふっと千愛希さんは口元を押さえて嬉しそうにしている。
 私とあまねくんが夫婦であることが相当嬉しいようだ。

 それにしても、驚くべきは奏ちゃんに対する態度である。私なんて、初めて奏ちゃんと話した時にはその場で泣きたい程傷ついたのに……。
 もともとこういう子なのだと割りきらないと、中々奏ちゃんと接するのは難しい。
 しかし、千愛希さんは何とも思っていないのか、けろっとしている。それに対して奏ちゃんも拍子抜けといったように口をぽかんと開けたままだ。

「それより、奏ちゃんっていうのね。私、律とは高校の同級生なの。よろしくね。それでね、今まどかさんのファンクラブ用のHPを作ってたところなの!」

 怖じ気づくどころか、積極的に話しかけ始めた。
 これは……奏ちゃんよりも厄介な人間を発見したかもしれない。

「HPって何のためにあるんですか? ……勝手にそんなもの作って」

 奏ちゃんはふいっと顔を背けて、口を尖らせる。
 恐らくプライベートでは、初対面の人間全員にこういった態度をとるのだろうとこの時初めて知った。

「それはね、皆が素敵なまどかさんをいつでもどこでも観賞できるようにするためだよ。そして、情報交換したりね!」

「情報交換もなにも……本人目の前にいるのに」

「そ、それは! 私みたいな一般人がそんなおいそれと近付けないじゃない! だからまずは遠くから少しずつ距離を埋めていくのよ……」

 そう言って千愛希さんは、頬を赤らめて両頬を手で覆っている。
 完全に表情は恋する乙女だけれど、なんだか違う気がする。そして、私もただの一般人だということを完全に忘れているようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

専属秘書は極上CEOに囚われる

有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...