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こんにちは赤ちゃん
【1】
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12月17日 火曜日
私は自分の実家の居間でスマホとにらめっこをしていた。
「そんなに見つめたって何時間後になるかわかんないでしょ」
母は呆れ返った様子で取り込んだ洗濯物を畳んでいた。平日だが、姉の出産予定日とあって、事前に休みをとっていたようだ。
「お母さん! 孫が産まれるって時によくそんなに冷静でいられるね!」
くわっと顔のパーツを中心に寄せて母に噛みつけば、「何言ってんの。子供なんて産まれる時には産まれんのよ」なんて言っている。
姉のさくらの陣痛が始まり、間隔が短くなってきたと連絡を受けたのは4時間も前のこと。
丁度予定日だね! 凄いね! なんて家族皆ではしゃいでいたはずなのに、いつの間にか待つことに飽きたのか、母は既に平然としている。
「だってさ! 何かあったら困るじゃん!」
「何もないことを祈りなさいよ。不謹慎な子だね」
「むう……」
「菅沼さんもすぐに駆け付けてくれるって言ってたし大丈夫」
「まあ……そうだけど。私の時もそうやって放っておくつもり?」
「放っておくも何も、あんたの場合はあまねくんががっちりくっついてて面会どころでもないでしょ」
そう言って笑っている。それもそうだな……。
立ち会い出産するんだって張り切ってたけど大丈夫かな? 倒れたりしないかな? それとも神秘的だと泣くかしら? いや、何か気持ち悪いの出てきたとか言いそう……。
色んなあまねくんが想像できた。あんなふうにファンクラブ作って浮かれていたけど、父親になるってわかってるのかな?
少し不安になった。
「産まれた報告が来てから行くんでしょ?」
「うん。行ってもどうせ触れないけどね」
「あー、そうだったそうだった」
茉紀もそんなようなこと言ってたっけ。パパとママしか無理なんだよって。
ガラス越しでもお姉ちゃんの赤ちゃん見たいしなぁ……。
そわそわ落ち着かずにいる。私の子だって後数日すれば18週に入る。そろそろ胎動がわかってもいい頃だけど、一向に動いてはくれない。
お腹を擦ると「なに、お腹痛いの?」と母が顔を上げた。
「ううん。何か、待ってたら自分が産む気分になっちゃった」
「やめなさいよ。縁起でもない。切迫にでもなったらどうするの」
「気を付けてきたってば」
「はいはい。それよりまどかはどうするの? 産む前こっちに帰ってくる?」
「うーん。そうは言っても、お父さんもお母さんもあまねくんと出勤時間一緒なんだよね。どうせこっち帰ってきても誰もいないし」
「それもそうね……」
「あ、昼間はあまねくんち実家に行こうかな。ダリアさんもおばあちゃんもいるし」
「あんた、本当に向こうの家族に全く抵抗ないのね」
目を丸くさせて驚いている。奏ちゃんとのことで気が滅入っている時も、雅臣に怯えていた時も、千代さんが亡くなった時も、2人の存在は大きかった。
旦那の実家に行くのが嫌だと言う人は多いみたいだけれど、うちの父が口うるさいからか、あまねくんの実家の方が余程居心地よく感じていた。
今はまだ一緒に住んでいるが、近日中には家が完成する。今の家は組み立てるだけだから早いと聞くが、本当にあっという間だなぁと完成予定日をカレンダーで確認して口角を上げる。
新居に二人きり、大きくなっていくお腹、もうすぐ控えた結婚式。
あ……茉紀と喧嘩したままだった。このまま気まずいのも嫌だし、何でもないふりしてお姉ちゃんの子供産まれたよって報告しようっと。
ちゃっかり連絡する口実を見つけた。余計に誕生が待ち遠しくて私はまたスマホの画面を見つめた。
それから2時間が経ってようやく〔産まれたよー!〕とメッセージが送られてきた。菅沼さんからは赤ちゃんの写真も届いていた。
「可愛いー!」
母と2人、はしゃぎながら写真を眺める。男の子だとは聞いていたが、写真を見ただけでは性別などわからなかった。
「こんなに予定日って正確なの?」
「結構予定日に産む人多いみたいね。お母さんの周りには一人もいないけど」
「……私の周りにも一人もいない」
「わざわざお休みとったから気を遣って予定通り出てきてくれたのかしら」
「お姉ちゃんの子だよ? そんな気遣いできないって」
からから笑って言えば、「あんたお姉ちゃんのことなんだと思ってるのよ」と大きなため息をついた。
私は自分の実家の居間でスマホとにらめっこをしていた。
「そんなに見つめたって何時間後になるかわかんないでしょ」
母は呆れ返った様子で取り込んだ洗濯物を畳んでいた。平日だが、姉の出産予定日とあって、事前に休みをとっていたようだ。
「お母さん! 孫が産まれるって時によくそんなに冷静でいられるね!」
くわっと顔のパーツを中心に寄せて母に噛みつけば、「何言ってんの。子供なんて産まれる時には産まれんのよ」なんて言っている。
姉のさくらの陣痛が始まり、間隔が短くなってきたと連絡を受けたのは4時間も前のこと。
丁度予定日だね! 凄いね! なんて家族皆ではしゃいでいたはずなのに、いつの間にか待つことに飽きたのか、母は既に平然としている。
「だってさ! 何かあったら困るじゃん!」
「何もないことを祈りなさいよ。不謹慎な子だね」
「むう……」
「菅沼さんもすぐに駆け付けてくれるって言ってたし大丈夫」
「まあ……そうだけど。私の時もそうやって放っておくつもり?」
「放っておくも何も、あんたの場合はあまねくんががっちりくっついてて面会どころでもないでしょ」
そう言って笑っている。それもそうだな……。
立ち会い出産するんだって張り切ってたけど大丈夫かな? 倒れたりしないかな? それとも神秘的だと泣くかしら? いや、何か気持ち悪いの出てきたとか言いそう……。
色んなあまねくんが想像できた。あんなふうにファンクラブ作って浮かれていたけど、父親になるってわかってるのかな?
少し不安になった。
「産まれた報告が来てから行くんでしょ?」
「うん。行ってもどうせ触れないけどね」
「あー、そうだったそうだった」
茉紀もそんなようなこと言ってたっけ。パパとママしか無理なんだよって。
ガラス越しでもお姉ちゃんの赤ちゃん見たいしなぁ……。
そわそわ落ち着かずにいる。私の子だって後数日すれば18週に入る。そろそろ胎動がわかってもいい頃だけど、一向に動いてはくれない。
お腹を擦ると「なに、お腹痛いの?」と母が顔を上げた。
「ううん。何か、待ってたら自分が産む気分になっちゃった」
「やめなさいよ。縁起でもない。切迫にでもなったらどうするの」
「気を付けてきたってば」
「はいはい。それよりまどかはどうするの? 産む前こっちに帰ってくる?」
「うーん。そうは言っても、お父さんもお母さんもあまねくんと出勤時間一緒なんだよね。どうせこっち帰ってきても誰もいないし」
「それもそうね……」
「あ、昼間はあまねくんち実家に行こうかな。ダリアさんもおばあちゃんもいるし」
「あんた、本当に向こうの家族に全く抵抗ないのね」
目を丸くさせて驚いている。奏ちゃんとのことで気が滅入っている時も、雅臣に怯えていた時も、千代さんが亡くなった時も、2人の存在は大きかった。
旦那の実家に行くのが嫌だと言う人は多いみたいだけれど、うちの父が口うるさいからか、あまねくんの実家の方が余程居心地よく感じていた。
今はまだ一緒に住んでいるが、近日中には家が完成する。今の家は組み立てるだけだから早いと聞くが、本当にあっという間だなぁと完成予定日をカレンダーで確認して口角を上げる。
新居に二人きり、大きくなっていくお腹、もうすぐ控えた結婚式。
あ……茉紀と喧嘩したままだった。このまま気まずいのも嫌だし、何でもないふりしてお姉ちゃんの子供産まれたよって報告しようっと。
ちゃっかり連絡する口実を見つけた。余計に誕生が待ち遠しくて私はまたスマホの画面を見つめた。
それから2時間が経ってようやく〔産まれたよー!〕とメッセージが送られてきた。菅沼さんからは赤ちゃんの写真も届いていた。
「可愛いー!」
母と2人、はしゃぎながら写真を眺める。男の子だとは聞いていたが、写真を見ただけでは性別などわからなかった。
「こんなに予定日って正確なの?」
「結構予定日に産む人多いみたいね。お母さんの周りには一人もいないけど」
「……私の周りにも一人もいない」
「わざわざお休みとったから気を遣って予定通り出てきてくれたのかしら」
「お姉ちゃんの子だよ? そんな気遣いできないって」
からから笑って言えば、「あんたお姉ちゃんのことなんだと思ってるのよ」と大きなため息をついた。
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