66 / 208
こんにちは赤ちゃん
【8】
しおりを挟むーー
結婚式から1週間が経ち、様々なことが落ち着き始めていた。土曜日だが確定申告が始まりつつあり、繁忙期に突入したあまねくんは休日出勤中だ。15時頃、夕飯の買い物をしに外へ出る。安定期に入ったこともあり、徒歩で買い物へ出掛けた。
近くの公園が目に入り、こんなところに公園があるんだと寄り道をした。引っ越してきたばかりで、荷ほどきに時間がかかったものだから、まだ周りに何があるのか確認できていなかった。
子供が生まれたら、歩いてあまねくんとここに来れるなぁなんて思いながら中に入る。日が短いため、もう少しすればすぐに日が落ちるだろう。
しかし、まだ明るいせいか遊具で遊ぶ子供達。こんなに寒い中でも元気だなぁと顔が綻ぶ。ひゅうっと風が吹き、もう少し寒くなれば、買い物も車で行くのがよさそうだと身震いする。
お腹を冷やさないように厚着してきて正解だった。
中を通り抜けて早く買い物に行こう。そう思い、砂場前のベンチの前を通り過ぎようとしたところ父親であろう男性の顔を見て足を止めた。
見覚えがあったからだ。誰だったかな……。思い出そうと思考を巡らせていると「あれ? まどかさん?」と向こうから声をかけられた。
ああ、やっぱり知り合い。でもどうしよう。誰か思い出せない。そう焦っている内に「いつも茉紀がお世話になってます」と頭を下げられた。
ああ! 茉紀の旦那さん! ようやく思い出した私は親友の夫の顔を覚えていない薄情者だ。とはいえ、いつも旦那さんがいない時にお邪魔するものだから、私も結婚式くらいでしか茉紀の旦那さんの顔を見たことがなかった。あとは機会があるとすれば写真くらいだ。
「こんにちは。こちらこそいつもお世話になっています。先日は、茉紀さんに結婚式へ参列していただいて嬉しかったです」
何はともあれ、思い出せてよかったと安堵しながら挨拶をした。
「ああ、おめでとうございます。茉紀も喜んでいましたよ」
「素敵な動画を作ってくれたんです。イラストもたくさん描いて、凄く時間もかかったんだと思います」
「そうなんですか? 近頃遅くまで起きてるなぁとは思ってたんですが……」
「知らなかったんですか?」
「ええ……。恥ずかしながら、最近はあまり会話も少なくて……。夜中に茉紀が誰かと話をしているのは気付いていたんですが」
そう言って茉紀の旦那さんは眉を下げた。
「そ、それ多分私の主人の友達だと思います! 一緒に協力して動画を作ってくれていたみたいで……。私も先に子供ができて、式も余裕なく挙げちゃったので、茉紀も時間ない中、頑張ってくれたんじゃないかなぁと……」
もしかしたら、旦那さんも私と同じように不倫を疑っているのかもしれない。そんな予感がして何故か私が弁解するかのようにそう言った。
「ああ、そうだったんですか。茉紀は昔から夢中になると周りが見えなくなることがありますからね。無事にまどかさんのお役に立てたのならよかった」
そう言ってようやく彼は笑った。あまり親しくない人間に名前で呼ばれるのは違和感があったが、おそらく茉紀が私を名前で呼ぶものだから、私のフルネームは知らないのではないかと思えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる