187 / 208
それぞれの門出
【31】
しおりを挟む
そんな恋愛トークに花を咲かせている私達を他所に、あまねくんは店員さんを呼んで説明を聞いていた。
その内に私まで手招きされて、どの持ち手が持ちやすいだとか、どの大きさがいいか、持ち運びするならどれが楽かなんて一緒に選ぶよう勧められた。
それぞれのメリットとデメリットを比較して悩みに悩み、ようやく1つに決めると約束通り律くんが購入してくれた。
オムツやおしり拭きや哺乳瓶なんかをまとめて千愛希さんがプレゼントしてくれ、ありがたさよりも申し訳なさが勝ってしまった。
「何かごめんね……」
「いいって。これからもっとお金かかるわけだし、これくらいは」
律くんはそう言って微笑み、千愛希さんは「私も律より稼いでるので大丈夫です」と含み笑いを浮かべる。
私とあまねくんはぎょっとして、目を見開く。律くんは目を細めて「今だけだよ。俺だって開業したらその内超えるからね」なんて言っている。
わぁ……これは、とんでもないビッグカップルが誕生したかもしれない。千愛希さんは肩書き上は社長秘書だけれど、自身でアプリゲームを手掛けているクリエイターだ。
中には特許をとっているものもあるみたいで、恐らく何千万も稼いでいるとあまねくんが予想していた。
そんな中、あまねくんのスマホが鳴り、彼は躊躇なくそれに出た。
「はい。そうです。はい、はい……そうですか……いえ、知りません。はい……わかりました。いえ、こちらこそありがとうございました」
顔は真剣そのもので、親しい人からの電話でないことくらいはわかる。お客さんかなぁなんて思っていると、直ぐに電話を切った彼。
あまねくんがそのまま私の方を見ると「昨日の車の運転手捕まったって」と言った。どうやら電話の主は警察だったようだ。
「え!?」
「ナンバー追って検問しようとしたら、酒気帯び運転だったってさ。名波《ななみ》佳穂《よしほ》って知らないよね?」
「ううん、聞いたことない」
「だよね。まあ飲酒運転が捕まったわけだからいいか」
私達がそう話していると、怪訝な顔をした律くんが「何、また何か巻き込まれてんの?」と言った。
「違うよ。今回はそんな事件性とかなくてさ。昨日茉紀さんの子供が轢かれそうになって危なかったからドライブレコーダーを警察に渡したんだよね。そんなに直ぐに調べてくれるわけないと思って期待してなかったんだけど、過去にもスピード違反とかで捕まってるみたいで動いてくれたらしい」
「ふーん。今交通規制も厳しいからね。まあ、捕まってくれたなら被害者が出る前でよかったね」
律くんもふむふむと何度か頷いている。
さすが、今のドライブレコーダーは性能が凄いな。あまねくんの記憶力が無駄にならなくてよかった。光輝が轢かれそうになった時も、酒を飲んでたのかもしれない。どちらにせよ光輝が無事で本当によかったと思う他ない。
あまねくんはすっかり上機嫌で、「じゃあお昼ご飯は俺が奢るね」と珍しく言っている。
何もかもがいい方向に向かい始め、私は陽茉莉が産まれてくるのを待つだけでよさそうだ。
その内に私まで手招きされて、どの持ち手が持ちやすいだとか、どの大きさがいいか、持ち運びするならどれが楽かなんて一緒に選ぶよう勧められた。
それぞれのメリットとデメリットを比較して悩みに悩み、ようやく1つに決めると約束通り律くんが購入してくれた。
オムツやおしり拭きや哺乳瓶なんかをまとめて千愛希さんがプレゼントしてくれ、ありがたさよりも申し訳なさが勝ってしまった。
「何かごめんね……」
「いいって。これからもっとお金かかるわけだし、これくらいは」
律くんはそう言って微笑み、千愛希さんは「私も律より稼いでるので大丈夫です」と含み笑いを浮かべる。
私とあまねくんはぎょっとして、目を見開く。律くんは目を細めて「今だけだよ。俺だって開業したらその内超えるからね」なんて言っている。
わぁ……これは、とんでもないビッグカップルが誕生したかもしれない。千愛希さんは肩書き上は社長秘書だけれど、自身でアプリゲームを手掛けているクリエイターだ。
中には特許をとっているものもあるみたいで、恐らく何千万も稼いでいるとあまねくんが予想していた。
そんな中、あまねくんのスマホが鳴り、彼は躊躇なくそれに出た。
「はい。そうです。はい、はい……そうですか……いえ、知りません。はい……わかりました。いえ、こちらこそありがとうございました」
顔は真剣そのもので、親しい人からの電話でないことくらいはわかる。お客さんかなぁなんて思っていると、直ぐに電話を切った彼。
あまねくんがそのまま私の方を見ると「昨日の車の運転手捕まったって」と言った。どうやら電話の主は警察だったようだ。
「え!?」
「ナンバー追って検問しようとしたら、酒気帯び運転だったってさ。名波《ななみ》佳穂《よしほ》って知らないよね?」
「ううん、聞いたことない」
「だよね。まあ飲酒運転が捕まったわけだからいいか」
私達がそう話していると、怪訝な顔をした律くんが「何、また何か巻き込まれてんの?」と言った。
「違うよ。今回はそんな事件性とかなくてさ。昨日茉紀さんの子供が轢かれそうになって危なかったからドライブレコーダーを警察に渡したんだよね。そんなに直ぐに調べてくれるわけないと思って期待してなかったんだけど、過去にもスピード違反とかで捕まってるみたいで動いてくれたらしい」
「ふーん。今交通規制も厳しいからね。まあ、捕まってくれたなら被害者が出る前でよかったね」
律くんもふむふむと何度か頷いている。
さすが、今のドライブレコーダーは性能が凄いな。あまねくんの記憶力が無駄にならなくてよかった。光輝が轢かれそうになった時も、酒を飲んでたのかもしれない。どちらにせよ光輝が無事で本当によかったと思う他ない。
あまねくんはすっかり上機嫌で、「じゃあお昼ご飯は俺が奢るね」と珍しく言っている。
何もかもがいい方向に向かい始め、私は陽茉莉が産まれてくるのを待つだけでよさそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる