【R18】美人過ぎる○○は今日も旦那様からの寵愛を受ける

雪村こはる

文字の大きさ
188 / 208
それぞれの門出

【32】

しおりを挟む
5月4日 月曜日

 私はどっと疲れた重い重い体を横たわらせ、天井を見上げていた。下半身はずきずきと痛くて、急激な眠気に襲われた。

 それでも何とか寝ないでいられるのは、ベッドの端で愛しの旦那様がいつまでも泣いているから。

「あまねくん……大丈夫?」

「だ、大丈夫……。もう、俺ね……やっぱりダメかもしれない」

 何度も何度も再生している私の出産動画。
 昨日はあまねくんの誕生日を盛大にお祝いした。ケーキを作り、誕生日プレゼントに選んだ名刺入れを渡して楽しい1日を過ごした。
 明後日には予定日かぁなんて言っていたら、夕食を終えた頃にきた陣痛。

 最初は生理痛みたいな痛みでこんなもんかなんて思ってたのに、その内にどんどん痛くなっていった。
 え!? こんなに痛いの!? なんて思っていたらいつもは騒がしいあまねくんが急にしっかりしだして、「まどかさん大丈夫。俺がずっとついてるからね」なんて言いながらずっと私の隣にいてくれた。

 間隔が10分おきになったら電話して下さいと言われていた通り、あまねくんが電話をしてくれた。それからパジャマやタオルを用意したりちゃきちゃきと入院準備を進めていた彼。
 律くん……本当にあまねくんは人が変わったみたいにしっかりしてしまったよ……。
 唖然としながらも安心感に包まれて陣痛に耐えた。あまねくんは私の両親、姉、守屋家にも連絡を入れてくれた。

 予てより立ち会い出産を希望していたため、お父さんも一緒に来て下さいねと言われていたのであまねくんと病院へ。
 いよいよかぁなんて思っていた。本陣痛があんなに続くのね……。

 格闘したこと、したこと。もう涙が出そうだった。
 子宮口を確認されて分娩台へ上がったのだけれど、隣の分娩室からは壮絶な叫び声が聞こえた。

 えぇ!? 隣で何が起こってるの!? 出産!? 本当に出産!? 
 そんなことを思っている内に、自分の出産が始まる。いきみたいのに「今はダメ!」と言われていつならいいの!? と怒鳴りたくなる。

 カメラをかまえているあまねくんは「パパ、撮るならこっち!」と腕を引かれて怒られてるし、てんやわんや。
 いよいよ分娩が始まると、隣の分娩室は静かになっていて、私は助産師さんの言うとおりに息を吸ったり止めたり。

 痛いのなんの……。鼻からスイカが出る痛さって例えた人、天才かよって思ったよ。

 ようやく下半身の圧迫感が去ったかと思うと、赤ちゃんの産声が聞こえた。

 産まれたーー!! と感動に包まれていたら、私よりも先に泣いてるあまねくん。

 パパ……。

 一番に私に抱っこさせてもらって「元気な女の子ですよー」なんて言われてようやく私も一粒涙が溢れた。

「体重いくつー?」

「3400!」

 そんなやり取りが聞こえる。
 え……でかくない? うちの子女の子ですよね……?
 そんな疑問を抱く中、「まどかさん、陽茉莉が可愛いよー! まどかさんが無事でよかったよー!」と泣くあまねくん。

「パパ、うるさい!」

 そう助産師さんに怒られてしょんぼりしてるあまねくん。
 パパは先に退室させられて、私は2時間分娩室で待機。

 え? 歩くの? って思いながら病室まで歩かされて、あれよあれよという間に現在の状況。
 出産まで10時間かかって私はぐったり。でもあまねくんはいつまでも泣いている。

 産んだのあまねくんなんじゃないかってくらい。

「あまねくん……私、もう無理。ちょっと寝かせて……」

 やっぱりもう無理だ。そう思ったら急激に睡魔が襲ってきて、吸い込まれるようにして眠りに落ちた。

 目が覚めると、産まれたのが昼間でよかったねぇなんて嬉しそうなお母さん。お父さんはあまねくんと一緒に泣いている。だから、何でお父さん側が泣くのよ……。
 面会もそこそこに、ご飯も美味しいし何とか歩けるしで早く体が回復してくれることを願う。

 けれど、私の試練は始まったばかりで夜からはすぐに授乳の練習。全然上手くできなくて、嫌になる。
 赤ちゃんが勝手に飲んでくれると思ってたのに、母乳が出ているのかもよくわからない。
 乳首を咥えさせるだけで一苦労で、こんなのいつまでやるのって更にぐったり。3時間おきにちゃんと来て下さいね。体重計って下さいねって……。茉紀の言ってた産まれてからが地獄の意味がようやくわかった。
 1日の流れを身をもって知った私は、家に帰ってから大丈夫だろうかと陽茉莉を抱きながら静かに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

専属秘書は極上CEOに囚われる

有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...