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それぞれの門出
【34】
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陽茉莉が産まれてから、守屋家の中心は陽茉莉になった。お義父さんも仕事帰りが早くなり、あまねくんは予定通り有給を使って毎日一緒にいてくれた。
有言実行は得意なのか、沐浴もオムツ交換も率先してやってくれるあまねくん。こんなに毎日やってもらったら私の方がやり方を忘れてしまいそうだ。
授乳以外の時間に泣いた時には、あまねくんはすぐに反応して抱っこしてくれるし、私よりも寝不足なんじゃないかと思えた。
「仕事に戻ったらとてもあんなふうにできないから今の内にやってもらったら」
ダリアさんはそう言って綺麗に笑う。
世の中には妊娠、出産は病気じゃないんだからと普段通りの生活を強いられる人も多いと聞く。しかし、私の環境はそれとは無縁で食事はダリアさんが作ってくれるし、陽茉莉はあまねくんが見てくれるしで至れり尽くせりの毎日である。
申し訳なくなって手を出そうとすれば、とりあえず落ち着くまではいいからなんて言われてしまう。
ありがたいのだけれど、これでいいのかなぁと不安にもなる。
なんとなく授乳も慣れてきた気はするのだけれど、とにかく痛い。乳房も張って痛いし、乳首も痛い。ダリアさんは律くんを産んだ時に乳腺炎になって大変だったそうだ。
私もネットで調べてあれこれと予防に努めるのが大変だ。けれど、こんなふうに予防したり自分のケアに時間が使えるのはやはり愛しの旦那様と守屋家の皆さんのお陰だと思う。
「まどかさん、出生届出さなきゃだっけ」
退院してから5日目、あまねくんはそう言った。陽茉莉が産まれてから10日経つ。私も一緒に役所に行きたいと言ったものだから、ついつい日が経ってしまった。
14日以内に出さなければならない出生届。私はぼやっとする頭であまねくんに連れてってもらおうかなと腰を上げる。
「名前も書いてこなきゃだもんね」
「うん。ねぇ、まどかさん……。俺、ちょっと考えたんだけどさ、陽茉莉の字変えない?」
あまねくんが言いづらそうにそんなことを言うから、私は驚いて彼の方を向いた。
「え? 今更?」
「いや、実はずっと思っててさ……。夢で見たのは確かにあの字だったからこのままでいいって思ってたんだけど……」
「何かあるの……?」
「陽茉莉の陽の字さ、陽菜ちゃんと同じ字なんだよね……」
「……」
あまねくんの言葉に、今度は硬直した。そ、そうか……。そんなことまで考えてなかった。明るく育つといいなぁなんて思って陽を選んだ。けれど、陽菜ちゃんのように変にポジティブに育ったらそれはそれで……。
「ねぇ、ちょっと縁起悪いと思わない? 俺も悩みに悩んだんだよ。このままの方がいいのかどうか……」
「う、うん。確かに……。夢の中で待っててって言ってくれたのはこの陽茉莉なんだよね?」
「そうだね。でもね、夢は夢だし……字を変えるだけならいいかなぁって……」
「うん。そっか……そっかぁ……」
私は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
有言実行は得意なのか、沐浴もオムツ交換も率先してやってくれるあまねくん。こんなに毎日やってもらったら私の方がやり方を忘れてしまいそうだ。
授乳以外の時間に泣いた時には、あまねくんはすぐに反応して抱っこしてくれるし、私よりも寝不足なんじゃないかと思えた。
「仕事に戻ったらとてもあんなふうにできないから今の内にやってもらったら」
ダリアさんはそう言って綺麗に笑う。
世の中には妊娠、出産は病気じゃないんだからと普段通りの生活を強いられる人も多いと聞く。しかし、私の環境はそれとは無縁で食事はダリアさんが作ってくれるし、陽茉莉はあまねくんが見てくれるしで至れり尽くせりの毎日である。
申し訳なくなって手を出そうとすれば、とりあえず落ち着くまではいいからなんて言われてしまう。
ありがたいのだけれど、これでいいのかなぁと不安にもなる。
なんとなく授乳も慣れてきた気はするのだけれど、とにかく痛い。乳房も張って痛いし、乳首も痛い。ダリアさんは律くんを産んだ時に乳腺炎になって大変だったそうだ。
私もネットで調べてあれこれと予防に努めるのが大変だ。けれど、こんなふうに予防したり自分のケアに時間が使えるのはやはり愛しの旦那様と守屋家の皆さんのお陰だと思う。
「まどかさん、出生届出さなきゃだっけ」
退院してから5日目、あまねくんはそう言った。陽茉莉が産まれてから10日経つ。私も一緒に役所に行きたいと言ったものだから、ついつい日が経ってしまった。
14日以内に出さなければならない出生届。私はぼやっとする頭であまねくんに連れてってもらおうかなと腰を上げる。
「名前も書いてこなきゃだもんね」
「うん。ねぇ、まどかさん……。俺、ちょっと考えたんだけどさ、陽茉莉の字変えない?」
あまねくんが言いづらそうにそんなことを言うから、私は驚いて彼の方を向いた。
「え? 今更?」
「いや、実はずっと思っててさ……。夢で見たのは確かにあの字だったからこのままでいいって思ってたんだけど……」
「何かあるの……?」
「陽茉莉の陽の字さ、陽菜ちゃんと同じ字なんだよね……」
「……」
あまねくんの言葉に、今度は硬直した。そ、そうか……。そんなことまで考えてなかった。明るく育つといいなぁなんて思って陽を選んだ。けれど、陽菜ちゃんのように変にポジティブに育ったらそれはそれで……。
「ねぇ、ちょっと縁起悪いと思わない? 俺も悩みに悩んだんだよ。このままの方がいいのかどうか……」
「う、うん。確かに……。夢の中で待っててって言ってくれたのはこの陽茉莉なんだよね?」
「そうだね。でもね、夢は夢だし……字を変えるだけならいいかなぁって……」
「うん。そっか……そっかぁ……」
私は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
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