197 / 208
それぞれの門出
【41】
しおりを挟む
私とあまねくんは一度顔を見合わせてから「えーー!?」と声を上げた。すぐに子供達の存在を思い出し、慌てて口を塞ぐ。
茉紀の離婚の原因となった不倫相手があの時の車の運転手ということは……そういうことなのだろうか。
「私っち家の前でってことは茉紀のことつけてきたのかな?」
「多分そうだと思う。旦那がうちの実家を教えてあったらそれも可能だし……」
「酒飲んでて正常な判断ができなくなって尾行して、光輝くんまで引き殺そうとしたんだとしたらまだ納得……はできないけど、怖いのは最初から茉紀さんか子供達を殺そうとしてて、殺人未遂で捕まるのを恐れてその後酒を飲んだって事だよね」
私達は、あまねくんの言葉に背筋が凍るようだった。茉紀に慰謝料をとられてむしゃくしゃしたのかもしれない。しかし、そもそも茉紀の旦那さんと不倫をしたのはその名波という女性であって茉紀は被害者だ。
本当に茉紀に危害を加えようとしていたのであれば完全なる犯罪だ。
「それ、ちゃんと確かめた方がよくない? この先何があるかわかんないよ」
「う、うん……。でもさ、不倫相手とは直接連絡とれないし、かといってアイツに言えばあの女の肩を持つと思うんだよね」
「取れたとしても直接不倫相手とは危険だよ!」
私と茉紀が話していると「そういうことはやっぱり弁護士さんを立てた方がいいんじゃないですか? 警察は実際事件がないと動いてくれませんし、酒気帯び運転として片付けられている以上殺人未遂で動いてもらうのは難しいかもしれないですしね……」と戸塚さんが言った。
詳しい事情を知らない戸塚さんでも、ここまで話が進んでいれば全てを察したはずだ。茉紀も隠すつもりはないのか「また弁護士さんにお世話になるのはちょっと……。費用も離婚の時には慰謝料が入ったので依頼料を支払えましたけど、今回の件で和解金が出なかったり裁判になって負けるようなことがあればこれ以上の負担金は正直厳しいです」と言った。
茉紀の言っていることも最もだ。あまねくんが言ったように、お酒を飲んでいて勢いで尾行をしたのであれば、今頃免許を取り消されて反省しているかもしれない。そこに弁護士を立ててまた裁判沙汰なんて茉紀も大変だろう。しかし、これが本当に殺人未遂なら今後どこに危険が潜んでいるかわからない。
こんな状態で穏便に過ごせる気はしない。
「とりあえず律なら部屋にいると思うし声かけてみる? 相談するだけならタダですよ」
「……なんかそう言いながら何回も話を聞いてもらってるよね」
茉紀は目頭を指で押さえながら大きなため息をついた。
「それを言ったら私もだよ……」
私だって例外ではない。守屋家には結婚前から散々お世話になっているのだから。
「律のことだから、面倒だと思えば今回は無理! って突っぱねると思うんで」
「律くんは何だかんだ聞いてくれちゃうとおもうなぁ……」
「そうだよね。休日に申し訳ない……いや、やっぱりいいよ。いくらなんでも離婚が片付いたばっかりでこんなことまで聞いてもらえないし。こんなこと繰り返してたら律くんも休みなくなっちゃうしさ」
「何でですか?」
茉紀の言葉に続いて疑問を投げ掛けたのは、律くん本人だった。マグカップを持って立っているため、コーヒーのおかわりでも淹れにきたというところだろうか。
「り、律くん!」
私達は一斉に声を揃えた。まさかこんなタイミングで本人が現れるとは思いもしなかった。
「また何かあったんですか?」
またという言葉が引っ掛かるが、平然とした顔をしている彼は、きっとまた何かが起こると予想しているようにも見えた。
「あ、いや……別に……」
遠慮をしているのか、言いにくそうにしている茉紀を余所に、あまねくんは「律、聞いてよ」と飄々と経緯を話し始めた。
茉紀の離婚の原因となった不倫相手があの時の車の運転手ということは……そういうことなのだろうか。
「私っち家の前でってことは茉紀のことつけてきたのかな?」
「多分そうだと思う。旦那がうちの実家を教えてあったらそれも可能だし……」
「酒飲んでて正常な判断ができなくなって尾行して、光輝くんまで引き殺そうとしたんだとしたらまだ納得……はできないけど、怖いのは最初から茉紀さんか子供達を殺そうとしてて、殺人未遂で捕まるのを恐れてその後酒を飲んだって事だよね」
私達は、あまねくんの言葉に背筋が凍るようだった。茉紀に慰謝料をとられてむしゃくしゃしたのかもしれない。しかし、そもそも茉紀の旦那さんと不倫をしたのはその名波という女性であって茉紀は被害者だ。
本当に茉紀に危害を加えようとしていたのであれば完全なる犯罪だ。
「それ、ちゃんと確かめた方がよくない? この先何があるかわかんないよ」
「う、うん……。でもさ、不倫相手とは直接連絡とれないし、かといってアイツに言えばあの女の肩を持つと思うんだよね」
「取れたとしても直接不倫相手とは危険だよ!」
私と茉紀が話していると「そういうことはやっぱり弁護士さんを立てた方がいいんじゃないですか? 警察は実際事件がないと動いてくれませんし、酒気帯び運転として片付けられている以上殺人未遂で動いてもらうのは難しいかもしれないですしね……」と戸塚さんが言った。
詳しい事情を知らない戸塚さんでも、ここまで話が進んでいれば全てを察したはずだ。茉紀も隠すつもりはないのか「また弁護士さんにお世話になるのはちょっと……。費用も離婚の時には慰謝料が入ったので依頼料を支払えましたけど、今回の件で和解金が出なかったり裁判になって負けるようなことがあればこれ以上の負担金は正直厳しいです」と言った。
茉紀の言っていることも最もだ。あまねくんが言ったように、お酒を飲んでいて勢いで尾行をしたのであれば、今頃免許を取り消されて反省しているかもしれない。そこに弁護士を立ててまた裁判沙汰なんて茉紀も大変だろう。しかし、これが本当に殺人未遂なら今後どこに危険が潜んでいるかわからない。
こんな状態で穏便に過ごせる気はしない。
「とりあえず律なら部屋にいると思うし声かけてみる? 相談するだけならタダですよ」
「……なんかそう言いながら何回も話を聞いてもらってるよね」
茉紀は目頭を指で押さえながら大きなため息をついた。
「それを言ったら私もだよ……」
私だって例外ではない。守屋家には結婚前から散々お世話になっているのだから。
「律のことだから、面倒だと思えば今回は無理! って突っぱねると思うんで」
「律くんは何だかんだ聞いてくれちゃうとおもうなぁ……」
「そうだよね。休日に申し訳ない……いや、やっぱりいいよ。いくらなんでも離婚が片付いたばっかりでこんなことまで聞いてもらえないし。こんなこと繰り返してたら律くんも休みなくなっちゃうしさ」
「何でですか?」
茉紀の言葉に続いて疑問を投げ掛けたのは、律くん本人だった。マグカップを持って立っているため、コーヒーのおかわりでも淹れにきたというところだろうか。
「り、律くん!」
私達は一斉に声を揃えた。まさかこんなタイミングで本人が現れるとは思いもしなかった。
「また何かあったんですか?」
またという言葉が引っ掛かるが、平然とした顔をしている彼は、きっとまた何かが起こると予想しているようにも見えた。
「あ、いや……別に……」
遠慮をしているのか、言いにくそうにしている茉紀を余所に、あまねくんは「律、聞いてよ」と飄々と経緯を話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる